高橋一生のTBSドラマ初主演『インビジブル』がスタート。正義を追求する破天荒な刑事・志村(高橋一生)と、“インビジブル”と呼ばれる犯罪コーディネーター、キリコ(柴咲コウ)がタッグを組んで未解決事件に挑むドラマの第1話を『ミステリと言う勿れ』に続き、ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミがタッグを組んで振り返ります。
考察『インビジブル』1話 強引で乱暴な高橋一生と軽やかで謎めいた柴咲コウ
高橋一生はなぜ入れ替わりがちなのか
高橋一生と柴咲コウ。この二人といえば『おんな城主 直虎』(2017、NHK)での共演が印象深い。柴咲演じる直虎の幼馴染・政次が亡くなる回はいまだに心に残っている。いちばん最近の共演作は、2020年の緊急事態宣言下、リモートで撮影された『今だから、新作ドラマ作ってみました』内の「転・コウ・生」。高橋、柴咲、ムロツヨシの3人が本人役で登場し、なぜか入れ替わってしまうというものだった。思えば高橋は『天国と地獄〜サイコな二人』で綾瀬はるかとも入れ替わっている。
こんなに入れ替わりドラマに何度も出る俳優って稀有な存在かもしれないな、と思ってはたと気づいた。俳優というのはそもそも、自分の中に役を入れ、役に入れ替わって存在する人のことを言うのではないかと。そういえば高橋が読売演劇大賞最優秀男優賞を獲得した『フェイクスピア』(作・演出/野田秀樹)も、“誰かの言葉を代わりに発する”物語だった。そして高橋という役者は、どの役柄にも真摯に取り組み、些細な動きひとつとっても100%役として動くため、ストイックなまでに役柄を突き詰める人、というイメージが強い。
今回『インビジブル』で彼が演じるのは、正義を追求し、目的のためなら手段を選ばない破天荒な刑事・志村貴文。彼はその行き過ぎた行動で捜査一課を外されてしまった。3月までNHKで放送されていた『恋せぬふたり』で高橋は、恋もセックスもしたくないアロマンティック・アセクシュアルの役を演じていた。その繊細でやわらかな印象とは全く異なり、志村は強引さや乱暴さをもった役柄だ。
そんな志村に共闘を持ちかける犯罪コーディネーター・キリコを演じるのが柴咲コウ。金髪ショートでモノトーンの柄シャツ。どんな企みを持ち、何をどこまで知っているのか想像のつかない謎めいた佇まいでこの先が楽しみになる。1話後半では警察に捕まり、檻の中にいながら志村にヒントを与え、無線傍受によって彼が事件解決するさまを把握している。創作物の中の“凶悪犯罪者にヒントをもらう”展開では、だいたいヒントを与える犯罪者はガチガチに拘束されていたり、謎の地下の牢屋に閉じ込められていたりするけれど、キリコは取り調べ中に収監されているに過ぎず、カツ丼も与えられ(そのおかげで無線機を手にするわけだけれど)、ずいぶんと軽やかだ。
白でも黒でもない存在
渋谷駅前で大規模な爆破事件が起き、その場で対応にあたる志村。駅前のビジョンがジャックされ、次の爆破予告とともに志村が名指しで要求される。指定された場所に行くと、待っていたのが犯罪コーディネーター・キリコ。彼女は志村の同僚が彼の目の前で殺された3年前の事件を餌に、志村と行動をともにする。その中で爆破事件の犯人が花火師(RED RICE)と呼ばれるクリミナルズ(警察が認知していない凶悪犯)のしわざであることと、この事件に関わる人物について知らせる。
爆破事件を追う中で、志村はキリコから言われる。「この世にはね、見える悪と見えざる悪というのがあって、私がいる裏の世界からあなたがいる表の世界をのぞくと、普段見えない悪がうっすら透けて見えることがあるんだよ」「例えば白だと思っていたものが実は黒で、黒と思っていたものが本当は白、みたいな」。
その言葉で、被害者だと思っていたNPO法人の代表・小野塚(松尾貴史)と、仕掛けた側だと思っていた週刊誌記者・我孫子(森岡龍)の立場が逆であることに気づく志村。小野塚の依頼で花火師に爆弾を仕掛けられた我孫子を、間一髪のところで救う。
「白と黒が逆」という1話の事件は、このドラマ全体を象徴するかのようだ。正義を追求する刑事は真っ白な存在に思えるが、志村がそのためにとる行動はときに犯罪まがいでさえある。犯罪コーディネーター・キリコは真っ黒に見えるけれど、彼女の言葉で救われた人がいることも確かだ。そしてどんな思惑があるのかは知らないが彼女は警察に協力し、未解決事件を次々に明かそうとしている。彼女がまとっていたモノトーンの柄シャツは、白でも黒でもなく、あるいは白と黒を内包した存在を象徴しているのかもしれない。
現実離れしたエンターテインメントの面白さ
登場からして怪しい男を殴りつけていた志村。バイクでの疾走、全速力の階段駆け上がり、窓ガラスを割ってビルの5階から川に飛び込む姿。張り込み中の部下たちに情報を知らせるときでさえ、車の正面に突っ込む勢いでやってくる。彼の全力アクションはこの作品の大きな魅力のひとつだ。
『インビジブル』は、いずみ吉紘脚本のオリジナルドラマ。派手な設定にダイナミックな展開。渋谷駅前をジャックしたり、遊園地丸ごと避難させたりと大きなスケールで事件が動くようだし、警察上層部の会議室のデザイン一つとってもかなり威圧的なもの。1話を見る限り、極端さを恐れず、リアリティよりもエンターテイメント性の高さを追求しているのだろう。毎回登場するであろうさまざまな犯罪者たちのキャラクターや、志村と同じ班の塚地(酒向芳)、芝本(田中真琴)らの温度感もちょっと楽しみだ。回を重ねるごとにドラマならではの面白さが堪能できる作品になることを期待したい。
脚本: いずみ吉紘
演出: 竹村謙太郎、棚澤孝義、泉正英
出演: 高橋一生、柴咲コウ、有岡大貴、堀田茜、原田泰造、桐谷健太 他
主題歌: Dragon Ash『Tiny World』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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Edit: Yukiko Arai