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微かな出来事に五感を澄ますと、みえてくる イズマイル・バリー個展「みえないかかわり」

微かな出来事に五感を澄ますと、みえてくる イズマイル・バリー個展「みえないかかわり」

パリとチュニスを拠点に活動するイズマイル・バリーによる個展「みえないかかわり」が、銀座メゾンエルメス フォーラムで開催中だ。ゲスト・キュレーターは、ブリュッセルのギャラリー「ラ・ヴェリエール」のキュレーターでもあるギヨーム・デサンジュが務める。


イズマイル・バリーは2000年代の終わりから活動をはじめ、最小限の状況設定と身ぶりに基づく繊細な一連の作品を制作してきたアーティスト。用いる素材の本質から事物をとらえてゆく静謐な作品は、ある種の魔術を呼び起こすような啓示に満ちた仕草を扱っているようにも感じられる。今回の展示で見られる作品も、多くがミニマムな操作や動きで構成されている。でも、そのシンプルさゆえに、微かなものを感知させる装置となっている。

ヴィデオの出現 |
出現 | ヴィデオ | 3min | 2017

最初に見る大きな映像作品は、誰かの両手が白い紙を光に透かしている様子を映している。紙の向こう側に手をやり、その影となった部分にだけ、中東のどこかの都市だろう、たくさんの人が集まった広場の様子が現れる。写真を裏返すとアラビア語で何かが書きつけられているが、それも判然としない。幽かな線 | ピン 幽かな線 | ピン | サイズ可変 | 2002-2019

通路には針が落とす影が一本の線としてつながった作品が。針は補足、影の線もささやかだ。けれど、蛇のように曲がった線は、空間にとって大きな要素になっている。みえないかかわり
みえないかかわり | 水、木片、ヴィデオカメラ、wi-fi | サイズ・時間可変 | 2012-2019

映像も、雑誌のページが揉みしだかれてゆくことで印刷された画像が少しずつ消えていく様子だったり、手首にのせられた透明な水滴の微かな振動が、皮膚の下で脈打つ動脈の存在を明らかにする様子だったり、極小の電光掲示板の流れゆく文字がリアルタイムで水に映る様子だったり、とても繊細だ。紙を丸めることも、手首が脈打つことも、延々と流れる電光掲示板の情報も、当たり前にあるものだ。でも、日常生活ではほぼ見過ごされている。バリーの作品を見ることは、まるで小さな音に耳を澄ますように、ささやかな変化や動きへと意識を向ける静かな行為だといえるだろう。

展示風景
展示風景

バリーは、これらの出来事の予期しないアクシデントやディテール、瞬間的な変化などに細やかな注意を向け、厳密な手順によって作品を作ってゆくという。それらは常に直感的な試みから湧き上がる。空間で生じる即興的な動作や自然光といったその瞬間の現実と交わりながら、観客が意識していなかったものへと意識を向けることで、時空は、少し歪んだ別のものへと変貌していく。

展示風景 ボールの跡 | 珪砂 | サイズ可変 | 2019
展示風景 ボールの跡 | 珪砂 | サイズ可変 | 2019

本展では、銀座メゾンエルメス フォーラムの空間そのものが、光と陰とが戯れる光学装置へと変貌を遂げている。自然光がたっぷりと入るこの展示室は、仮設の壁によって仕切られ、片側は暗くなっている。その薄暗い場所に、壁に細長く切り込まれた壁の隙間から、自然光のドローイングがこぼれている。人が通るとふわりとめくれてしまうくらい薄い紙が貼られた穴からは、色づいた光がぼんやりと届く。平面的な色や光の構成と、現実の3D空間があいまいに交差する、不思議なインスタレーションだ。

バリーの知覚実験は、静かな事物の表層に隠された、みえないざわめきを表している。その微かな痙攣は、皮膚感覚的に感じている不安やゆがみ、変化へと鑑賞者の意識をうながす。自分の感度を研ぎ澄ますことで、初めてみえてくる何か。目の前にあるモノだけではない、それらの間に立ち現れる“かかわり”を感じてみてほしい。

*本記事の写真すべて ©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

Ismaïl Bahri イズマイル・バリー

1978年、チュニス(チュニジア)生まれ。現在はパリとチュニスを拠点に活動。写真や映画の原理を用いた精緻な視覚実験や、ミニマルで儀式的な身ぶりから啓示的に創出される現象や痕跡などを通じ、目に見える事物や知覚そのものの儚さを問う。映像表現を中心としつつ、ドローイングやサウンドなどさまざまな形態の作品を手がけている。

近年の主な個展に「Des gestes à peine déposés dans un paysage agité」(ラ・ヴェリエール、ブリュッセル、2018年)、「Instruments」(ジュ・ド・ポーム国立美術館、パリ、2017年)、主なグループ展に「Incorporated!」(ラ・クリエ現代美術センター、レンヌ、2016年)、「Frontiers」(カルースト・グルベンキアン財団、リスボン、2011年)など。日本ではKYOTOGRAPHIE京都国際写真祭(2019年)や第10回恵比寿映像祭(2018年)に参加。また映像作品はロッテルダム国際映画祭(2017年)、トロント国際映画祭(2016年)、ニューヨーク映画祭(2016年、2014年)、マルセイユ国際映画祭(2013年)などの映画祭にも招待されている。

【「みえないかかわり」イズマイル・バリー展 銀座メゾンエルメス フォーラム】

会場: 銀座メゾンエルメス フォーラム
会期: 開催中~2020年1月13日(月・祝)
休館日: 11月13日(水)、12月11日(水)※年末年始はエルメス銀座店の営業時間に準じます。
開館時間: 月~土 11:00~20:00(最終入場は19:30まで)、日 11:00~19:00(最終入場は18:30まで)※12月12日(木)~25日(水)は開館時間が異なります。(11:00~16:30・最終入場16:00)
観覧料: 無料

柴原聡子

建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など

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