文=小野寺 系
親しみの持てる外見と持ち前のユーモアで観客を楽しませる、アメリカで人気絶頂のコメディエンヌ、エイミー・シューマー。そのネタには、ときに毒舌や鋭い社会批判が込められる。彼女はしばしばSNSなどで「太り過ぎ」という暴言をぶつけられるが、スタンダップ・コメディのネタのなかで、そんな声にこう反論する。
「ハリウッドでは63キロ以上の女性は目の毒って言われてる。でも私は太り過ぎなんかじゃない。自分のことをセクシーだって思ってる」
エイミー・シューマーが主演するコメディ映画『アイ・フィール・プリティ!人生最高のハプニング』は、まさに彼女の想いがそのままかたちになった作品だ。
エイミーが演じる主人公レネーは、高級化粧品会社の受付係になることに憧れながらも、太り過ぎな自分にはチャンスなどないとあきらめかけていた。「もっと痩せて、もっと美しければ自分に自信が持てるのに…」そんなある日、彼女は頭を強く打ちつけ、自分がトップモデルのような体型の美女だと思い込むようになってしまう。
自信をつけたレネーはファッションもアグレッシブに激変し、受付係の面接で「私にはモデルになる道もあります」と豪語したり、たまたま男性に話しかけられたのをアプローチだと決めつけたり、突然ビキニコンテストに出場したりなど、イタい勘違いぶりを発揮する。しかし、自信を持ってさまざまなことに挑戦する彼女の姿は、次第に周囲の人々を魅了し、彼女は夢見ていたことをひとつずつ叶えていくことになる。
それは物語の中だけにとどまらない。自信満々のレネーも、エイミー・シューマー本人も、たしかに画面に映るスタイルの良いモデルたち以上に輝いて見える。堂々と前に進んでいく姿勢や内面のユーモアが美しさにつながることが、映像の中で証明されているように感じられるのだ。
本作は、女性が社会から美しさを求められがちであり、さらに美の基準すらも限定されているのではと疑問を投げかける。そしてレネーたちの姿を通し、多くの女性が美しくないと思い込まされ自信を喪失している現状を描いている。既存の価値基準に振り回されず、自分自身に誇りを持つことができれば、誰もが輝くことができる。エイミーがレネーとして自身のスタンダップ・コメディ同様に、すべての女性たちに向けスピーチするシーンは、物語の枠を飛び越えたエイミーのメッセージそのものだ。
だが主人公レネーがそれでもフィットネスクラブで身体を鍛え続けるように、たゆまぬ努力によって獲得できる美というのも、たしかに存在するだろう。重要なのはそれが誰かの決めつけた理想でなく、自分自身の理想を叶えるためのものになっているかどうかだと、本作は語っている。