宇宙情報が反映された音楽!? ジェフ・ミルズ×東京フィルが、4000人の観客を宇宙の旅へと誘う

宇宙情報が反映された音楽!? ジェフ・ミルズ×東京フィルが、4000人の観客を宇宙の旅へと誘う

 2017222日に大阪で、25日に東京で、ロケットが打ち上げられた!! デトロイト・テクノのオリジネイター、ジェフ・ミルズが大作「Planets」をひっさげて来日、東京フィルハーモニー交響楽団とのコラボ公演を行い、約4000人の観客を宇宙の旅へと誘ったのだ。

(上の写真は大阪公演の様子。会場はフェスティバルホール。東京はBunkamuraオーチャードホール。ジェフと東フィルのコラボは湯山玲子さんが主宰する「爆クラ!」presentsで2016年3月に次いで2回目)

オーケストラがメインの第一部の幕開けは、「Short Ride in a Fast Machine」。

クラシック界でミニマル・ミュージックにアプローチしたジョン・アダムスの曲で、反復を多用した音響はクラシックでは珍しい。今回もプロデューサー・湯山玲子さんの選曲の妙が光る。

2曲目はドビュッシーの「月の光」。

誰もが一度は耳にしたことがあるピアノの名曲のオーケストラバージョン。印象派ならではの浮遊感と映像的美しさによって宇宙への憧憬を表現。昔から人は空を見上げて思いを巡らせてきたんだなぁとしみじみ。

3曲目はリゲティによる現代音楽「ポエム・サンフォニック(100台のメトロノームのための)」。

前回演奏されたジョン・ケージ「433秒」に並ぶ問題作。指揮者の指示に従って100台のメトロノームがそれぞれのテンポで打つカチカチという音だけが鳴り続けるというもの。聴いているこちらの鼓動もざわついてくるような感覚に。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA「ポエム・サンフォニック(100台のメトロノームのための)」演奏中。指揮者は29歳の気鋭、アンドレア・バッティストーニ。この曲以外はちゃんと指揮棒を振ってたのであしからず。メトロノームはSEIKOが提供してくれたそう。

4曲目は「BUGAKU(舞楽)より第二部」。

日本の伝統的音楽を交響曲に取り込んだ黛敏郎のバレエ曲。テクノ同様にスペイシーでトランシーでダンサブルな世界最古のオーケストラ・雅楽において竜笛が奏でる乱声(らんじょう)の典型的フレーズをフルートで再現するなど(雅楽演奏家・音無史哉氏による解説)、これまたレアなオーケストラ体験。

そして第一部の締めは、ジェフ・ミルズの1996年の名曲「The Bells」でジェフが登場!

前回も歓声に湧いたオーケストラ&テクノのコラボ演奏が、東京公演限定でタブラ奏者・U-zhaanが参加してさらにパワーアップ。タブラ、テクノ、クラシック、それぞれの宇宙観が越境してシンクロし、鳴り響かせた鐘の音にしびれるばかり。

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第二部はいよいよ交響組曲「Planets」。

宇宙をテーマとしたテクノ作品をつくってきたジェフが、オーケストラとのコラボ開始を機に10年かけてつくり上げた約1時間の大作だ。クラシックで宇宙をテーマにした楽曲といえばホルストの「惑星」やマーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」などが代表格。湯山さん曰く、宇宙の情報が分かってきたのは戦後なので、まだ多くないのだとか。

そんななか、ジェフの「Planets」が画期的なのは、テクノとの融合というのもさることながら、「価値のある情報を伝える音楽」としてNASAや宇宙開発組織に蓄積されたデータを使い、太陽系の9つの惑星(水金地火木土天海冥)とその間の9つの闇(「ループ・トランジット」byジェフ)を忠実に表現したこと。たとえば、惑星の直径は曲の長さ、自転速度は曲のテンポ、太陽からの距離・光量は曲調(明るければ高い&メジャーコード、暗ければ低い&マイナーコード)といった具合に宇宙情報が反映されているというのだ!!!!!!!!!!!!!!!!!! しかも、今後新たな発見があった場合に変更できる設計にしているという。つまりこれは、ジェフが人類の進化のために未来に投げかけた壮大なプロジェクトなのである。

arreglo_final_edit左から水金地火木土天海冥。

まずはトロンボーンやティンパニ、ゴングの重く厚く激しい音にはじまった水星。ジェフによると、「爆発的なエネルギーを音にたとえたのは水星が太陽に一番近いため。表面は熱いのに内部はとても冷たいことから、曲に複数の層をもたせた」とのこと。

曲調が変わり、ジェフの電子音がメインに。ループ・トランジット、「惑星と惑星の間の何もないと思われている部分にも将来何か見つかるかもしれない」という考えからつくられた、闇の音楽だ。ここにはなんと、星座占いでおなじみの黄道十二星座の牡羊や牡牛、蟹、獅子といったモチーフの動きをスピーカーのパンニング(向きを変えること)に反映しているという。

次に到達したのは金星。明けの明星の輝きを美と愛の女神ヴィーナスにたとえて名付けられたこの星では、全体的に明るさと愛情の温もりを表現。繰り返される閃光のような電子音も印象的。

そして3つ目は地球。ジェフ曰く、「すべての人が知っているものでありながら、まだ惑星としては新しく、分からないことが多いので慎重に扱わなければならないということを伝えたい。人類がこの星を去らなければならないくらいに損なわれるようなことがあれば、私たちの状況も我たち自身も大きく変わってしまうでしょう」。名曲「Amazon」を彷彿させるマリンバやフルート、ドラムで自然を、手拍子で人間の生き生きとした存在を表す一方で、この星のゆく末を案じている。

4つ目は、ギリシャ神話で軍神マルスが司るといわれたことからホルストの「惑星」では戦争の惑星とされていた火星。かつて地球と似たような大気があったのに失われてしまったこの星では、赤信号的な緊迫感が聴きとれた。

5つ目は、太陽系最大の木星。「すべての観客がひとつになれる何か。特定の方向性をつくりだそうとしました」とジェフ。長いだけでなく、音響的にスケールの大きい曲。

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惑星のイメージにあわせて照明の色が変化。

6つ目の土星では、その形状を表す驚きの演出が! 1階の客席の四隅にトランペットとホルンの奏者×4組が立って順に音を発して土星の環を表現。2階席の右前ではフルートとクラリネットが衛星のタイタンの存在を伝えていた。観客はそれらに囲まれた球体になったかのような感覚に見舞われたのだった。

7つ目は天王星。このあたりの準惑星になってくるとかなりミステリアス。ジェフによると「知らないということを活用し、奇妙で神秘的で不思議な曲にしました」。電子音をベースにハープやピアノがマイナーコードで進んでいく。

8つ目の海王星は水が豊富にある惑星。同じく水がある地球や火星でも使われていた高く流れるような音が反復される。

ラストは冥王星。フルート、クラリネット、ヴァイオリンが小さな音を奏で、最後に残った電子音が無数の星を表すように明滅してフェードアウト。矮性に格下げされたけれども惑星に含まれるべきという考えに賛同したジェフが9つ目に含めたのだとか。

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 *   *   *

拍手喝采で締めくくられた公演の後、興奮醒めやらぬまま、ジェフに質問!

――どうやって惑星の情報をリサーチしたんですか?

NASA、ヨーロッパの宇宙開発機構、JAXAも含め、開示されている情報が大海のようにあって、僕のような平均的な人にも分かりやすく書かれています。1992年、UNDERGROUND RESISTANCE(ジェフがマッド・マイクと結成したデトロイト・テクノユニット/レコードレーベル)時代にX-102(ジェフとマイク・バンクスa.k.a.マッド・マイクとロバート・フッドのユニット)でも土星の情報をリサーチして曲に活かしました」

――名盤『Discovers The Rings Of Saturn(土星の環の発見)』ですね!

「そう。当時一番近くの情報源としては図書館がありましたね。あとはできる限り土星についての本を買って読み漁った。その中でレコードに関係するような情報をピックアップしたんです。土星の環がレコードの溝につながることから、環の形や衛星の動きをレコードの回転数や曲のテンポに反映するとか。当時未知とされていた環の中の天体自体をレコードのラベルにたとえて、レコードの針が中央に近づくほどダークでミステリアスな音にしていくとか」

――Planets」は楽譜や演奏がアップデートできるように設計にしてあるということですが、たとえばどういうアップデートがあり得ると想定されていますか?

「たとえばある惑星で生物が発見された場合、それは意外と地球に近い特徴をもった惑星だということが分かる。そうしたら地球で使ったメロディーを追加するかもしれない。もし新しい惑星が見つかったら、その楽曲を制作する必要もあります。また何年かしたら変更する必要があるんじゃないかと思っています。それはX-102でもしたこと。1992につくった『Discovers The Rings Of Saturn』に、2010年に変更を加えて『Rediscovers The Rings Of Saturn』としてリリースしました」

――Planets」のアップデートはいずれほかの誰かに委ねる可能性もあるということですか?

「ありますね。それは音楽家である必要もなくて、画家、作家、詩人、宇宙記念館の学芸員とかでもいいと思っています」

 *   *   *

今後も惑星の情報を収集し続け、新たな発見に対処するためにパフォーマンスとコンセプトを進化させる方法を探っていくというジェフ。「Planets」をダンスで表現した映像も制作中だとか。今回それぞれの惑星に抱いていたイメージが拡張されたが、この旅はこれからもっと面白くなっていきそうだ。

Photo:正木万博 Text:小林沙友里 Translation:河合大呉 Cooperationdigress-lab

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