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SNS映えだけじゃない、シックス・センスで感じるアートをエスパス ルイ・ヴィトン東京で体験

SNS映えだけじゃない、シックス・センスで感じるアートをエスパス ルイ・ヴィトン東京で体験

日々の出来事をSNSに投稿することが当たり前になってから、写真や動画映えするアート作品の人気は増すばかりだ。現在エスパス ルイ・ヴィトン東京で見られる、ヘスス・ラファエル・ソトによるインスタレーション《Pénétrable BBL Bleu》もまた、観た人が写真に撮りたくなる作品だ。私が観に行った時はちょうど日の入の頃で、ゆらゆらと揺れるチューブ越しに見える夕焼けは美しく、つい写真も動画も撮ってしまった。


《PENETRABLE BBL BLEU》1999 年 , ed. Avila 2007
展示風景、エスパス ルイ・ヴィトン東京
PVC (ポリ塩化ビニル)、金属、366.5 x 1000 x 470.5 cm
© Adagp, Paris 2018 Photo credit: Jérémie Souteyrat/Louis Vuitton

金属のフレームから無数の青いPVCのチューブが吊り下げられたこの作品は、外から眺めるとミニマルな彫刻に見える。けれど、中に入り込んでチューブを掻き分けながら歩くと、次々と景色も変わり、手や体にチューブがパラパラと触れて、擦れ合うかすかな音が聞こえる。別の人が入ってくると視界も聞こえる音も変わって……と、まさに体験しないとわからないことだらけの作品なのだ。

作者であるソトは、彫刻というメディアを通して、視覚、聴覚、触覚を刺激する「動く体験」に挑戦し続けた作家だ。1955年にはマルセル・デュシャン、アレクサンダー・カルダー、ヴィクトル・ヴァザルリらと共にギャルリー・ドゥニーズ・ルネでの「Le Mouvement (運動)」展に関わり、1960年代後半には、物理的な動きをアートに取り入れようとしたキネティック・アートを牽引するアーティストとして知られるようになる。


《Pénétrable》(浸透可能なるもの)の中にいるヘスス・ラファエル・ソト
1970年、ザグレブ現代美術館、クロアチア(1970年6-8月)
© Adagp, Paris 2018 © Archives Soto

“観る”だけじゃない“感じる”作品にこだわったソト。シンプルな仕掛けながら、作品を鑑賞するとはどういうことかを考えさせられる。動かなければ塊に見えるものが、人との関係によって動き、そして別の体験をもたらす。そのドラスティックな移り変わりの豊かさは、やっぱりその場で体験しないとわからない。


《PENETRABLE BBL BLEU》1999 年 , ed. Avila 2007
展示風景、エスパス ルイ・ヴィトン東京
PVC (ポリ塩化ビニル)、金属、366.5 x 1000 x 470.5 cm
© Adagp, Paris 2018 Photo credit: Jérémie Souteyrat/Louis Vuitton

会場にあったパネルに、ソトの言葉があった。彼は自分の作品を印象派の系譜にあると語っていたそうだ。彼が大好きだったモネの《睡蓮》は、美しい風景に見えるのに、蓮を見つめると、それが空中に浮いているように見えたり、絵の具としてベタっとカンバスに塗り込んだ面に見えたり、奥行があるような、ないような、とても不思議な作品だ。ソトは《睡蓮》について、写真など二次的なものではなく、本物を見るべきだと語っている。実際には視覚しか使わない絵画であっても、目の前の光景が揺らぐ体験は、本物でしか味わえないということだ。

ソトが攪乱した鑑賞体験は、改めて「実物を見る/感じる」ことを考えさせる。彼がこの作品シリーズに名付けた《Pénétrable》とは「浸透可能なるもの」という意味。だからこそ、「一通り撮影したらOK」と言わずに、カメラ越しじゃない体験もしてみてほしい。自分自身が作品に「浸透」して、感覚を総動員する体験は、あらゆるコトを記録しまくっている日々から、私たちを少しだけ解放してくれるはずだから。

 

ヘスス・ラファエル・ソト《Pénétrable BBL Bleu》
会期: 2018年12月7日(金)~2019年5月12日(日)
場所: エスパス ルイ・ヴィトン東京
住所: 東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン 表参道店 7階
開館時間: 12:00~20:00
休館日: ルイ・ヴィトン表参道店に準ずる
※入場無料

柴原聡子

建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など

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