夫婦の本音、聞いてきました。犬山紙子『私、子ども欲しいかもしれない』×劔樹人『今日も妻のくつ下は、片方ない。』

 『GINZA』読者のみなさん、こんにちわ。四谷の片隅にあるカラオケスナック「アーバン」のママです。そして当店の常連でもある犬山紙子さん(持ち歌は『アザミ嬢のララバイ』)の新刊、『私、子ども欲しいかもしれない』の担当編集者でもあります(私、アーバンを始めるまでは編集者として働いていたので、水割りもウーロンハイも書籍も作れてしまうのです……)。

少しだけ最初に紙子のことを書かせてもらうと、私が紙子に初めて出会ったのは、いまから5~6年前。そのころはニートだったと彼女はさらっと言いますが、この本でも書いてある通り、20歳のときに母親が病気に倒れ、姉弟で東京と地元を往復しながら交互に介護にあたっていた時代です。紙子にとって介護をすることは当たり前だったのかもしれないけど、あとからそのことを知った私は、紙子のなかにある芯の強さを感じて、こいつは凄い女と知り合ってしまったとビリビリしたのを覚えています。

それからはブログで書いていた「負け美女」が話題になって本になったり、雑誌の連載もめちゃくちゃ増えて、気がついたらテレビにも出まくり。わたしは偶然テレビをつけたらうつっている紙子を写真に撮ってLINEしては、親戚のおばさんみたいなことは止めてと言われていました(涙)。

ある日、紙子がなんだか優しそうな男性をアーバンに連れてきてくれました。それが「つるちゃん」こと劔樹人さんです。そのとき一瞬で、「あ、紙子、この人のこと好きっぽい」と思ったんですよ。二人の空気感が居心地よくて、この人達はずっと一緒にいそうな気がするなあ、なんて。

思えば紙子とは、仕事だったり、恋愛だったり、結婚だったり、彼女のいろんな人生の分岐点に立ち会ってきました。そしていまから3年前、結婚してしばらくたった紙子と呑んでいたら、「子ども、どうしよう、不安すぎる」という話になって……。あ、ここで私の話をすると、私は自分ひとりの人生がわりかし楽しくて、それだけでいっぱいいっぱいで、子どもを持つ予定や結婚する予定もありません。だからそのとき紙子から「子ども」という新しい悩み、私の中には全くなかった存在が出てきて、すごく驚いたんです。これはとことん考えてほしいな、私にとっても必要なことの気がする、と連載を始めたのが、この『私、子ども欲しいかもしれない』になります。

この本では紙子の不安にそって、出産してから職場復帰した方たちに仕事の悩みをぶつけたり、子どもがいない人生を選んだ方、専業主婦の方、同性愛の方、子どもが巣立った方に話を聞きまくって、子どもを持つこと、そして自分自身のことをとことん考えました。

ちょうど同じ発売日に、つるちゃんの『今日も妻のくつ下は、片方ない。』(双葉社)も出版されました。せっかくなので前から気になっていた、「そもそも結婚したいって思ってたの?」「子どものこと、本当はどう思ってたの?」などなど、今さら聞きにくい話をじっくり伺ってみました。つるちゃんは、めっちゃ照れてたけど(笑)。

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そもそも結婚したいって思ってたの??

劔:全然なかったですね。諦めというか、結婚して生活が普通になっていくことを期待していなかったというか、どちらかというと荒廃した生活を送っていくだろうなと思ってました。いい年になっても友達と夜中のファミレスにいるような感じが居心地よかったし、楽しかったんです。仕事も忙しいときでしたし、普通に幸せになったら良いものが作れないんじゃないか、みたいな感覚もありました。

犬:私は子供の頃から、結婚したいという気持ちが強いほうじゃなかったんだよね。でも『負け美女』を書いたころ、彼氏がぜんぜんできなくて、28~9才のころには「結婚したい!」ってガラッと変わった。もう、とにかく寂しすぎて……。一生孤独かもっていう怖さもあったし、恋愛をこれ以上したくない、恋愛自体から逃げたいって気持ちもあった。
あとは恋愛に生じる駆け引きとかもめんどくさくて、次に誰かと付き合えるなら結婚を前提にできたらな~と思うようになった。でも、つるちゃんと出会ったとき、恋愛感情はぜんぜんなかったんだよね(笑)。

劔:ええっ、そんなことまで話すんですか(笑)、もう忘れましたよ……。

犬:照れてる(笑)。出会いは阿佐ヶ谷ロフトAなんですよ。その日、私がイベントに出てたら、共通の知り合いから紹介されたんです。お互いのTwitterをフォローしたら共通の知り合いがかなりいて、それで友達10人ぐらい集まって呑んで。そこでつるちゃんと意気投合したんです。お互いに寂しいっていうか、うまくいかないよね、みたいな話をして。だから「頑張ろうぜ、つるちゃん!」って、最初は同士みたいな感じでした。

劔:冷や汗が……。

犬:そこから私がつるちゃんを誘ってよく遊ぶようになったらんですが、つるちゃんは性格がマジですごく良いから、この人と一生一緒にいて、もし恋愛感情が薄れたとしても、なんだか楽しくいられそうな気がするって思ったんです。そしたら、つるちゃんと結婚するのも良いなあ、この人ならうまくやっていけそうって思うようになって。私もそれまでの恋愛では、ぶりっこしたり恋の駆け引き的なことをやったりしてたんですが、つるちゃんに対しては素でいられて、一緒にいるとすごくしっくりきて。それで付き合いだしてすぐ、一緒に住むようになりました。

劔:いやいや、それは住まわざるを得なかったというか。洗濯とか掃除もやらされるようになって(笑)。でも当時は僕の住んでた部屋のほうが汚かったんですよ。だから汚いから片付けてあげないとっていう気持ちじゃぜんぜんなかったですね。言われたからやっただけというか。まあ、あのころの彼女は、多少、傍若無人なところもありましたが(笑)。

犬:多少、というか昔の私はほんと酷かった。ちなみにつるちゃんは、最初から結婚しようとかって思ったりしたの?

劔:僕は流れに身を任せるという感じでしかなかったですね。収入もなかったですし、自分からはきっと言い出さなかったと思います。

犬:だよね。付き合って1年ちょっとで私からプロポーズしたけど、私がしなかったら、多分しなかったよね。プロポーズのきっかけも、あるとき実家に戻ってたら、親から「結婚いつするんだ」って言われて……。それでフラストレーションが溢れ出して。で、つるちゃんに電話して、「親にこんなこと言われて腹が立つから、早く結婚するぞ!!!!!!!!!!!!!!!」って言ったのがプロポーズ、やつあたりですね。それで「はい」って言われた(笑)。

劔:そのときはもう、彼女と結婚することもあるかなと思ってたんで。一緒に住んでたし、親も紹介してたし。

犬:私からきっかけは作ったけど、私が卵巣の病気をしたときに支えてもらったり、お互いに年も年だし、なんとなく結婚するんだろうなっていう気持ちは、もうあったよね。

劔:でもそのプロポーズの電話は、なぜか怒られてる感じがしましたね(笑)。
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子ども欲しいと思ってた?

犬:具体的に話してはなかったけど、私の頭には、子ども産むのかな~産まないのかな~っていう「どうしよう」はかなりありました。一番は卵巣の手術のとき(2013年)で、手術後の1年間は子どもができやすいってお医者さんに説明されたんです。それをきっかけにすごく考えて、どうしようって思うようになりました。

劔:ただ彼女のほうが収入も多いし、家のことを考えると産むために仕事を休んでもらわないといけないし、子どもについては僕のほうから軽々しく言わない感じにしていました。だから、なるようになるというか。

犬:32才で結婚して、32~3歳のときに「どうしよう、どうしよう」って悩み始めたんだけど、そのタイミングでテレビのレギュラーがバババって決まって。さすがにそこでは産休に入れないなあと思って。だから1年は仕事しつつ、でも悩みはどんどん大きくなるので『私、子ども欲しいかもしれない』の連載を始めました。そのあとは積極的じゃないけど避妊をしないぐらいの、できるかどうかは天にまかせるぐらいの感覚で、緩やかに妊活を始めたんです。
この連載をやってる間は、「早く次の人の話が聞きたい」って思ってました。妊活してたとしても、できるかできないか全然わからなかったし、妊活中って一番心の整理がつかないっていうか、次から次に「どうしよう」って不安が生まれてきて。できないかもしれないっていう不安もよぎるようになるし、そしたら不妊治療どうしようかなとか、諦めて子どものいない人生を楽しむってのもあるかもしれないとか。だからこの本は、わたしがマジで悩んでた気持ちがリアルに出てます。

劔:僕もこの連載は読んでました、家で話も聞いてたし。妻は「でも、できなかったらできなかったでいいよね」って、その頃は自分に言い聞かせるためかはわからないけど、よく言っていました。

犬:やっぱり妊活を始めたら、急に欲しい方向に気持ちが動いて、例えば次の月に生理が来たりするとがっかりする自分がいて……。そこで、あ、私も子ども欲しいって思ってるってわかったんです。そこからはちゃんと排卵日を考えながら、つるちゃんにも協力してもらいました。トランクス履いてもらったりとか。

劔:金玉を涼しくすると精子が死なないそうなんですが、最近はボクサータイプ以外が売ってなくて、買うのに苦労しました。
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子ども産んで、ぶっちゃけどう?

犬:マジでウルトラスーパー可愛い。つるちゃんも狂ってます。可愛いすぎて、客観的に見れなくなってる(笑)。

劔:もう可愛すぎて自信がないです。人と違うようなものが見えてるような気までする。ネットに子供の写真とかアップする親の気持ちがようやく分かりました。うちは最初から写真は出さないって決めてたんだけど、人の写真を目にすると羨ましく感じてしまうほど(笑)。こんな感じは初めてですね。

犬:子どもを産んでみたら、自分はこうなるだろうと思ってた姿とはぜんぜん違ったかな。私は子育ては「しんどそう」っていうイメージがすごくあったから、「早く仕事いきたい」とか「友達に会いたい」って気持ちがもっと出るかなと思ったんだけど、仕事に出ると子どもに会いたいって欲がすごくて。子どもの世話も「やりたくないもの」っていうイメージだったんだけど、子どもを抱っこしたりあやしたりは、嫌な作業どころかやりたいことの一つになりました。自分でもびっくりするけど、新宿で仕事をしていて1時間半空いたりすると、30分しか時間がなくても家に帰って授乳して抱っこしたりちちゃうんです。このケチな私が、お金をかけてそんなことをしている……。

劔:もうちょっとクールでいられるかなと思ったんですが、熱いハートが出てきましたね。いまは、年賀状に写真いれるかいれないか問題が浮上。我が家は年賀状は出さないですが、挨拶のメールに添付して写真を送ってしまいそうです……。

 

妻の靴下は、本当に片方ないのか!?

劔:そもそも最初はブログの連載だったんです。妻に入れ知恵されて、始めたんですが……。でも僕は家事をしていることを漫画にするていう発想はまったくなかった、そもそもそれが面白く読まれるという感覚がなかった。

犬:私がつるちゃんと付き合いだして、速攻で家事を押し付けたっていうか、してもらうようになったんだけど。私が引っ越すタイミングでつるちゃんと一緒に住むことになったので、私が家賃と生活費を出すから、つるちゃん家事をやってくれないかいって相談したんです。家事代行サービスの時給が1500円くらいと考えて、それを元につるちゃんの家事に対する月の労働力を算出したら、だいたい私が出してる金額とトントンだねって。

劔:いきなりそういう話をされたんですよ(笑)。正直僕は、そこまで言わなくてもやるんですが……。

犬:つるちゃんのためじゃなくて、自分自身を納得させるために言ったのかもね! 家事をやってもらうなら、フェアにしたいっていう気持ちがすごく強くて。でも子どもが生まれてからは、家事に育児が加わるから、また考え方を変えたんです。

劔:もちろん、それもすごく説明されて……。

犬:またウザい説明をすると、育児ってチーム戦みたいな感じなんですよ。お互いがその日ごとに抱えてる仕事の量で担当を調整して、チームであたっていく。だからつるちゃんの家事の負担をなくすために、掃除や洗濯は区の派遣サービスをつかったり、料理は外食やデリバリーにしたり。この食費と週2回の家事代行のお金を出すことを私の家事の担当として、残りをつるちゃんにお願いしています。

劔:子どもを見てくれてる間だったら、僕がやってもいいんですが……。

犬:ほら、つるちゃんってすぐ、こういうこと言うの! でも私は、そういう時間にはできたら休んでほしい、遊んでほしい。つるちゃんが疲れたり、メンタル的に追い込まれたりすると、結果として私もしんどくなるんですよ。でもつるちゃんは、無理してそういう時間を削ろうとしちゃうし、罪悪感なのか、なかなか休んでくれないし遊びにいってくれない。だから昨日「サユミンランドール」に言っていい?って言われたときは、すごく嬉しくて!!

劔:そんなに言うなら来年のひなフェスは子連れでいってみますか(笑)。

犬:いいね、行こう行こう。こんな感じで私たちは子育てしているんですが、ほんとなるようになるって感じです。二人目も悩むけど、できてもできなくても、一所懸命生きてたらなるようになるんだと思います。

劔:僕だったら考えもせずなんとなくやっていたと思いますが、妻が家庭環境のバランスを徹底的に考えて導いてくれたおかげで、相当いい感じに子育てができていると思います。今が当たり前と思わず、それぞれの家庭が夫婦のどちらかが苦しまないようなベストな状態を追求できればいいんじゃないかと思いますね。

 


 

犬山紙子(いぬやま・かみこ)
1981年生まれ。コラムニスト、イラストエッセイスト。『負け美女』でデビュー。『SPA!』『anan』などに連載を持つほか、コメンテーターとしてラジオやテレビでも活躍。著書に『言ってはいけないクソバイス』『女は笑顔で殴りあう』(共著)など多数。
『 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』犬山 紙子 (著)

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劔 樹人(つるぎ・みきと)
1979年生まれ。漫画家、『あらかじめ決められた恋人たちへ』ベーシスト。『神聖かまってちゃん』のマネジャーとして注目を浴びる。著書に『あの頃。男子かしまし物語』『高校生のブルース』。現在は『推理小説』『MEETIA』『みんなのごはん』などでも連載。
『 今日も妻のくつ下は、片方ない。 妻のほうが稼ぐので僕が主夫になりました』劔 樹人 (著)