26 Oct 2019
編集者・渡部かおりの「かわいい」ゼミナールVol.4 〈TOGA〉は自尊心を鍛える女性のユニフォーム。

「かわいい」。その言葉に理屈はない。直感で、右脳で。人は日々の生活の中で「かわいい」ヒトやモノ、コトを見つけて、思い、言葉にし、愛でる。それはきっと、好きのはじまり。だから「かわいい」は正義であり、哲学である。この連載ではファッションを通じて、女性の暮らしや生き方を通じて「かわいい」を追求し、その言葉の背景をとことん掘り起こして研究します。そこには、GINZA ガールズの背中をおす大切ななにかがあると信じて。さあ、「かわいい」ゼミナール、開講のお時間です!
—女子の女子による女子のための、かわいい—
皆さん、こんにちは。第4回目となる「かわいい」ゼミナールのお時間です。今回は、GINZA読者にも人気の高い〈トーガ〉について話したい。1997年、デザイナーの古田泰子さんが東京を拠点に始めたブランドで、ブランド名は古代ローマにおいて着用された上衣である”トゥニカ”の上に着用する1枚布の上着に由来する。また〈トーガ〉とはギリシャ神話において、聖なる衣という意味も持つ。コレクションラインの〈トーガ〉、それをデイリーユースに落とし込んだ〈トーガ プルラ〉、2011年にスタートしたメンズライン〈トーガ ビリリーズ〉など、靴バッグ、アクセサリーを含めてフルラインで揃う。現在はロンドンファッションウィークにて、コレクションを発表し、国内外に多くのファンを持つブランドだ。
〈トーガ〉の服は、強い。それが〈トーガ〉だけの独自性のある「かわいい」に太い線で繋がる。パンチの効いたデザインや色柄、ユニークなフォルム。そういう強さは間違いなくブランドの魅力だが、それだけではない。現在、世の中にはおびただしい数のブランドや洋服が溢れており、存在感を放つという意味での強い服はたくさんある。しかし、〈トーガ〉の強さは決して埋没しない。そしてその強さは決して消えることなく、じっくりと長く継続される。個人的な話になるが、編集者として働き始めて18年が経つ。今、これが面白いとか役に立つとか、こんな面白いヒトがいるとか新しいコトとかを、時代に沿う様々な編集方法で世の中に出し続ける仕事だ。そんな中で、ファッションにおいては、今はちょっと自分の気分と外れているとか、残念だけどちょっと距離を置きましょう、というブランドはどうしたってあるものだが、〈トーガ〉は仕事としても取り上げ続けているし、個人的にもずっと着続けている。15年前に買ったケープコートも、5年前に買ったマルチカラーニットも、今年の春に買った薔薇柄のパンツも当たり前のように手に取り、日常で着ている。
なぜだろう?
まず、女性デザイナーの作るウィメンズの洋服について考えてみた。それとは、彼女たちの趣味嗜好はさることながら、生き方や意志のようなものが反映されるものである。「最先端の服を作ったから、挑戦してほしい」というよりも「私は、今、こんな気分なんだけれど、あなたはどう?」というスタンスで、世に生きる女性の生活や気持ちに寄り添おうとする。同性だからこその共感度が高いことは利点だが、同時に嘘やごまかしが効かない怖さもあると思う。そぶりは見せずに実は異性にモテることを意識してるなーとか、この方向性は実はあんまり好きじゃないのにトレンドだからなぞっただけなのかもしれないぞとか、美しくて着心地もいいけれど、なんだか忙しい生活に馴染まない服になっちゃったよとか。ちょっとしたデザインや着た時の印象から、バレてしまう感じがある。なんていうか「男にはわからないんだけどさ、私達、同性にはお見通しだよねー」的なヤツである。そうだ、〈トーガ〉は圧倒的に女性同士でその良さを分かち合えるブランドなのだと思う(と、ここまで書いて私自身も改めて気づいた)。
なぜだろう?
〈トーガ〉は、つまり古田さんは、いつだって直球ストレートで勝負している。古田さんの考える「かわいい」を、格好つけずに、もしかして間違っていたとしたって、誰かに嫌われてしまうとしたって、ありのままにさらけ出す。「今の気分」という抽象的なものを、愛するカルチャーや理想の女性像を、今をたくましく自立して生き抜く同じ仲間という視点からデザインしているように感じる。いろいろあるけれど、どうせなら楽しもう!まずは、頑張る自分を自分が愛でよう!そういう「同志的」メッセージを強く感じるクリエーションだ。だから、私の周りにいる〈トーガ〉ファンも、街中で〈トーガ〉を身につけている女性も個性的な人が多い。自分らしさを誰かと比較することで手に入れているのではなく、自らで感じ、考え、体現している人だ。そこには自信と自由があり、誰に対しても、何に対してもフラットでいられる強さがある。〈トーガ〉は自尊心を鍛える女性のユニフォームのような服なのではないか。私も〈トーガ〉を着ると「I am who I am.(私は私。)」という独自のかわいさを心から楽しめる。
2017年の10月に〈トーガ〉はデビュー20周年を記念して、12年ぶりに東京でショーを開催した。プロとして常にそのクリエーションをまずは客観的に俯瞰からしっかりと観ることを続けているにも関わらず、ノートに「I love you, TOGA. 時代も気持ちも移ろいゆくものだけれど、あなたには永遠の愛を誓う。」と書き込んであった。なんじゃ、これ!プロ失格!と恥じつつ、ポエム調の文体に自分で突っ込みを入れたが、格好つけずにありのままの素直な気持ちを記したものに他ならない。後にも先にもショーを観ながら書きつけた、こんなメモ書きはない。”自分らしさ”に迷ったとき、私は私でいいと確認したいとき、〈トーガ〉はいつも味方でいてくれる。
2020年春夏シーズンの〈トーガ〉は、ベルギー出身のアーティスト、フランシス・アリスの作品「実践のパラドックス1(ときには何にもならないこともする)」に感銘を受けてつくられたものだ。この映像作品は、メキシコシティー内を巨大な氷の塊が完全に溶けきるまで押し続けた様子を撮影したもの。本質的に不必要なものの中にある美しさの追求、それってファッションのあり方そのものだ。数字やデータに追われる世の中だけれど、目に見て取れるものだけがすべてではない。自分にしか分からない地獄も、無駄な時間も、説明できない感情も、全部ひっくるめて抱えて生きていきたい。今シーズンも、「おお、やっぱり私は私でいいんだー!」と思わせてくれる「かわいい」で溢れていた。
いやはや、またもや長くなってしまった。最後に、今買ってすぐに街で楽しめる、〈トーガ〉らしさ溢れるアイテムを紹介する。ぜひ、参考にしてほしい。最近スタートした〈トーガ〉のオンラインショップからも購入できる。今日の宿題は令和元年、秋の自分をありのままに表しているコーディネートをクローゼットから組んでみること。「今の自分、頑張ってる!最高!」と褒め称えるもよし、「ちょっと納得できない自分もお疲れ様。ありがとう。」とお礼を言うもよし。今日までの自分をしっかりと抱きしめて、皆さん、明日もまたがんばりましょう!
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編集者・渡部かおりの「かわいい」ゼミナール Vol.1 ドリス ヴァン ノッテンの花柄
渡部かおり わたなべ・かおり
編集者・ライター。編集プロダクションFW(フォワード)主宰。GINZAをはじめ、様々な女性ファッション誌で編集と執筆の両方を担当するほか、広告のビジュアル制作、企業のブランディングなど。近著は『英国ロイヤルスタイル』(クレイヴィス刊)Instagram:@fwpress
photo:kaori ohuchi Illustratin: foxco