齋藤薫の「女とおしゃれのアナリシス」 第四章

齋藤薫の「女とおしゃれのアナリシス」 第四章

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朝、悩んだら、困ったら、自分がくすんでいたら、黒に逃げ込もう
……リトル ブラック ドレスという魔法に。

近頃、何を着ていいか、さっぱり分からなくなった……そういう時期って、誰にでもあるもの。いやそれ以前に、今日一体何を着たらいいの?と、クローゼットの前で途方に暮れる日、たくさんあるはずなのだ。そういう時のために、”リトル ブラック ドレス”と呼べるものを、3着用意しておきましょうと言う話をしたい。

ただし、断っておきたいのが、パーティーシーンのリトル ブラック ドレスは、はっきり言って、少々旬の時期を過ぎているということ。オシャレな人だけじゃなく、正直あっちにもこっちにも見かけられるようになってしまったから、逆に今はお勧めできない状況。もちろん100年近くも生き続けている普遍的なスタイル、消えてしまうことは絶対ないはずだが、猫も杓子もの中でこれを着るのは避けたいわけで……。そこで、今はむしろ非日常ではなく、日常的に、これを着ましょうという提案をしたいのだ。

説明するまでもなく、リトル ブラック ドレスとは文字通りの”小さな黒い服”。布の分量を極力少なくし、装飾も省くことで、重さをなくしたブラックドレスは、シャネルなどのオートクチュールデザイナーが、喪服を超えた1つのオシャレとして提案したのが始まり。典型的なデザインは、ノースリーブにエリなし、ミニ丈のワンピース。これを1つの原型として、フレンチスリーブでAラインであるとか、七分袖でタイトなデザインであるとか、生命線であるバランスを考慮して、またどんな季節にも対応できるよう、バリエーションを揃えていて欲しい。だから3着。それを、着るものに迷ったら、着るものがないと困ったら、何よりも、自分がくすんで見える朝、そうだ、リトル ブラック ドレスがあるじゃない?と思い出してほしいのだ。

ちなみに、最強のファッショニスタとして、誰もが知るモード誌編集長アナ・ウィンターは、黒は着ない主義。きっと日常のファッションに黒一色なんてありえない、と言うのだろう。黒に逃げ込むなんてダメよと。しかし、今ここであえて言いたい。困ったら黒に逃げ込みましょう!と。

パーティーシーンはともかくとして、実際に街でぱっと目を引くのは、なんだかんだ言ってやっぱり”小さな黒い服の女”だったりする。ノースリーブのミニワンピ、編み上げヒールの黒いサンダル。それにシルバーの大きなトートバッグ、たったそれだけ。ノーアクセサリー、ナチュラルなダウンヘア、ほとんどノーメイク……潔いほどそれだけなのに、本当に目を引く人がいた。いや、こういう人を見かけてハッとしたのは1度や2度じゃない、なんだか本当に目立つのだ。かっこよく、粋。エレガントでセクシー。わー、”小さな黒い服の女”にはかなわない!とその度に思うもの 。

そしてしみじみ思い知らされるのが、この服だけが持つエネルギー。やっぱり、リトル ブラック ドレスは、女を見事にキレイに見せる。生き生き見せる。そして豊かにも見せる。さすがは100年を生き続けてきたスタイル。本当に見事なパワーを持つ服なのだ。だからどんな状況でも、ちゃんとキレイを間に合わせてくれてしまう。着るものがなくて困って困って、時間切れ、あーもうどうしようと頭に血が昇っていても、ああ、あの服があったと気づいたとたん、3秒で着て、そのまま家を出られ、その上、いきなり街でハッとされてしまう。一人目を引いて「素敵」と思われてしまう。そういう服なのである。

そしてまた、今日はなんだか気分がすぐれない。顔色も悪い。もう存在がくすんでいる。メイクもしたくない。髪もくしゃくしゃ決まらない。そんなふうに半ば投げやりな時も、この服を着てさえいれば、やっぱり街で目を引き「素敵」と思われてしまう。くすんでいても、くすんで見えない、それがこのオシャレな服だけが持つ、オシャレの力なのである。ましてや、華やかな服なら、くすんだ肌では到底着こなせない。むしろよけいにくすみが目立ってしまう。しかし小さな黒い服は、くすんだ肌すら、さりげない、粋な印象に変えてしまうのだ。それもこれも、ハレとケの両方の役割を持つ黒い服を、布の分量を減らすことで、重さや暑苦しさ、暗さや地味さといったネガティブ要素を全て取り除いた時、残るのは素晴らしい服の力のみ。それがリトル ブラック ドレス、だからこそそうした魔法が生まれるのだ。改めて、この服だけが持つ、魔法の意味知って欲しいのである。

そんなすごい服を、ドレスアップだけのものにしておいていいのだろうか,。それは、あまりにもったいない。だから常に用意しておいて欲 しい。困った時の、リトル ブラック ドレス。その魔法。

文/齋藤薫 さいとう・かおる

美容ジャー ナリスト/エッセイスト。女性誌編集者を経て、多数の連載エッセイを持つほか、 美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中 。近著の『 “ 一生美人 ” 力 』ほか著書多数。Yahoo!ニュース「 個人 」でコラム執筆中 。

 

イラスト/千海博美 ちかい・ひろみ

イラストレーター。版木に着彩後、彫りを入れる技法で作品を制作
広告、書籍装画、テキスタイルなどのイラストレーションを手がける。
Instagram: @romiticca
twitter: @romiticca

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