2022年9月3日(土)から18日(日)まで、東京「キュレーターズキューブ」にてキム・ジュンスの個展『Sense of Forest』が開かれる。「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ2022」のファイナリストにも選ばれた新進アーティストの日本初単独展示となる。
韓国人作家キム・ジュンスの日本初個展『Sense of Forest』。命をオブジェにする
はじめは木目模様だと見紛う。さまざまなトーンの茶色が重なり、曲線を描き、すっと立っているオブジェ。これは実は、薄い革を組み合わせて作られたものだ。
1987年韓国生まれのキム・ジュンスが素材とするのは、植物由来成分のタンニンで加工した革。古代からなめしに使われてきたタンニンは、皮に防腐性、耐熱性、耐薬品性を与え、柔らく扱いやすい“革”へと変える。そうして出来た“ベジタブルタンニンレザー”を裁断し、細いコイルのようにして重ね合わせたのがキムのオブジェや器だ。
型は使われず、作家の指のみでオブジェが形成される。そのため、適度な硬さのある牛や子牛の革が素材となる。
キムにとっては、革はその表面だけではなく、厚みや色、質感といった、物性の全ての面で意味を持つ。と同時に、それは生と死のサイクルを象徴するものでもある。かつて命を覆う“皮”だっだものが、“革”となり、オブジェとして生まれ変わる。けれど、そこに刻まれた生命の記録は消えない。実際、作品が見せる断面の組み合わせは、くしくも木の年輪を思わせる。そして動物性素材が植物によって加工される工程に込められているのは、違う種類の命が出合う物語だ。
展覧会タイトル『Sense of Forest』は、ロエベ財団が主宰する「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ2022」でファイナリストとなった際の作品に付けられていたものでもある。長い時間をかけて完成された作品は、時の中で移り変わる命を映す“自然の森”を形成している。
細い紐をフリーハンドで巻いて造形する技術はセラミックで伝統的に用いられており、多大な労力を必要とする。プライズでは、そこに挑んだキムの、生の革の特性への特別な理解が評価された。けれどそんな長い道のりをおくびにも出さず、作品はエフォートレスで優雅な佇まいを見せる。 さまざまな幅、色の重なりは私たちの感覚を研ぎ澄ます。それを眺め、触れることは、命に耳をすますことでもあるだろう。
日本では初となる新進作家の個展。キムにとっても、これが海外での初めての単独展という。やがては土へと還る自然の美学を宿したレザークラフト。その勢いを感じたい。