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映画『キングスマン:ファースト・エージェント』を観るときに知っておきたい、イギリスのメンズファッション史

映画『キングスマン:ファースト・エージェント』を観るときに知っておきたい、イギリスのメンズファッション史

メンズファッションの聖地といわれる、ロンドンのサヴィル・ロウにあるテーラー“キングスマン”は、実は諜報機関だった……!? 大人気スパイアクションシリーズ待望の最新作『キングスマン:ファースト・エージェント』がいよいよ公開。前2作の前日譚として、キングスマンの始まりを描く物語だ。舞台が舞台なだけあり、スーツをはじめとする衣装にも注目したい本シリーズ。サヴィル・ロウをはじめ、近代イギリスのメンズファッション史を知っておくとより面白くなる。


ロンドンのメイフェア地区に実在する通り、サヴィル・ロウ。格式高い紳士服のテーラリングハウスがずらりと並ぶ、世界でも類を見ない場所だ。映画『キングスマン』(14)では、この通りにあるとされる高級テーラー“キングスマン”が、実はどの国にも属さない最強のスパイ機関だという設定。アカデミー賞俳優のコリン・ファースが、エレガントな紳士にして実はスパイのハリー・ハートを演じた。「マナーが紳士を作る」が口癖のハリーは、労働者階級出身の若者エグジー(タロン・エガートン)をキングスマンにスカウト。彼を立派なジェントルマンであると同時に、一人前のスパイにするべく訓練し、ともに世界を揺るがす陰謀に立ち向かう。また第2作『キングスマン:ゴールデン・サークル』(17)では、キングスマンがアメリカの同盟スパイ機関“ステイツマン”と手を結び、再び巨悪と戦う姿が描かれた。

スーツでビシッときめたスパイたちによる、アクションシーンのかっこよさときたら。スパイアクションというと最近はシリアスな作品が多いが、本シリーズには過激でご機嫌な、古きよきスパイ映画へのオマージュが満載。もちろん『007』シリーズへの目配せも。たとえば、キングスマン専用の武器。毒ナイフを仕込んだオックスフォードシューズの元ネタは、ショーン・コネリー主演の第2作『007/ロシアより愛をこめて』(63)の敵役、スペクターNo.3の武器から。またハリー専用の武器が傘型なのは、1960~70年代のテレビシリーズ『おしゃれ㊙探偵』(98)の主人公ジョン・スティードが傘にナイフを隠していたからだという。おしゃれと攻撃が一体化しているところが、さすがジェントルマン。

『キングスマン』シリーズのマシュー・ヴォーン監督は、クロエ・グレース・モレッツを一躍世に知らしめた『キック・アス』(10)も手掛けた人物。そのくだけた作風からは少し意外なのだが、彼はサヴィル・ロウのテーラーに通って育った良家の子息だという。サヴィル・ロウの顧客といえば、ナポレオン3世、ウィンザー公、ウィンストン・チャーチル、ミック・ジャガー、ラルフ・ローレン、ジュード・ロウetc.。19世紀の王侯貴族から現代のセレブまで、上流階級の人々が代々、「ビスポーク」と呼ばれるフルオーダーの紳士服を求めてここへ通い続けてきた。

イギリスのメンズファッションというと、まず「モッズ」「パンク」などのユースカルチャーが思い浮かぶかもしれない。ニック・コーン著『誰がメンズファッションをつくったのか?』(DU BOOKS刊)によると、実はそれらの誕生には紳士服が深く関わっている。イギリスの近代的なメンズウェアは、18世紀のファッションアイコン、「ボー・ブランメル」から始まったとされる。彼は貴族の間で華美な装いが流行っていた当時、あえてシンプルで控えめなファッションを打ち出し、平民でありながら時代の寵児となった。だが、続く世代は徐々に、ブランメルの控えめな部分だけを受け継ぎ、ファッション愛は捨て去ってしまう。やがて、「紳士が服装に気を遣うのはご法度。没個性的であるべき」という伝統ができあがった。1950年代には、3つボタンでシングルでダークグレーのスーツが英国風のスーツだとみなされ、まるでユニフォームのように全世代が着ていたという。

でももちろん、はみ出し者もいたそう。たとえば19世紀の、シルクやヴェルヴェットのような素材や、流れるようなドレープを用いた装いの「耽美主義者」。髭を伸ばすなど、あえて薄汚さを強調した「ボヘミアン」。彼らはユニフォームを着るのを拒否することで、反体制的な立場を表明していたのだ。そんな彼らの態度の延長線上に、モッズやパンクがある。もともとは上流階級がスタートさせた「エドワーディアンルック」を、労働者階級の不良少年たちが乗っ取るかたちで、1950年代前半に「テッズ(テディボーイ)」が大流行。オーバーサイズなジャケット、細身のジーンズ、ラバーソールという定番スタイルに身を包み、ロックを聴き、バイクを飛ばす。テッズの登場により、イギリスでは初めて若者と年長者のライフスタイルの間に違いが生まれ、ユースカルチャーが誕生した。

かつて紳士服は、イギリス人にしてジェントルマンであることを主張するために着るものだったが、そんな使命的な意識は、戦後にはもはや薄れていた。家父長制社会が変化していく中で、保守的なスーツはダサいもの扱いされ、サヴィル・ロウも一時は低迷。上流階級のおしゃれな若者たちが、それまでのように父に倣ってサヴィル・ロウに行くことを拒み、流行りの既製服を買うようになったからだ。しかし1970年代には、サヴィル・ロウの手作業による仕立てのクオリティが改めて認められ、おしゃれに敏感な人が自ら選んで行く場所として、名誉ある地位を再び築いていった。

こうした背景を知って『キングスマン』の衣装を目にすると、また少し違った景色が見えてくる。第1〜2作の衣装を担当したのは、マドンナのスタイリストとして知られ、トム・フォード監督の『シングルマン』(09)も手掛けたアリアンヌ・フィリップス。コスチューム製作は、現在はサヴィル・ロウのテーラー〈ノートン&サンズ〉でヘッドカッターとして働くマーティン・ニコルズが務めた。エグジーの衣装には、21世紀ならではの新しいジェントルマン像が見えるのが面白い。当初はアディダスのジャージや、フレッドペリーのポロシャツなどロンドンらしい「ストリートスタイル」の服を着ていたエグジーに、徐々にサヴィル・ロウ仕立てのシンプルで上品なスーツがなじんでいく。そして第2作で、エグジーはオレンジとブラックのバイカラーの、ヴェルヴェット生地のタキシードを身につける。遊びがありながら仕立ては一級品のこの1着に、“労働者階級出身のジェントルマン”であるエグジーらしさが溢れている。

一方で目を引くのは、敵役のファッション。第1作では、サミュエル・L・ジャクソン演じる、人類抹殺計画を企むIT富豪ヴァレンタインの「ヒップホップスタイル」。第2作では、ジュリアン・ムーア演じる麻薬組織のボスの「50sアメリカンスタイル」。キングスマンとは違い、敵役には独自のファッションへのこだわりがあり、紳士服に反旗を翻したモッズやパンクをどこか思わせる。また、女性キャラのマニッシュスタイルもぜひチェックを。『007』シリーズだったら、ボンドガールはセクシーに登場するのが常。でも『キングスマン』シリーズでは、かっこいいスーツ姿なのが最高! キングスマンの一員であるロキシー(ソフィー・クックソン)や、第2作に登場するステイツマンのジンジャーエール(ハル・ベリー)。ジェントルマンになれるのは男性だけという慣例を打ち破ってくれる。

そして、公開したばかりの最新作『キングスマン:ファースト・エージェント』。前2作から1世紀近くさかのぼり、第一次世界大戦のヨーロッパを舞台に、キングスマンの誕生秘話が語られる。史実を混じえ、戦争の悲惨さが語られる側面もあり、第1〜2作よりシリアスな作品でもある。主演は『007』シリーズのM役や、『ハリー・ポッター』シリーズのヴォルデモード役で知られる、アカデミー賞俳優のレイフ・ファインズ。ファインズ演じる英国貴族オックスフォード公と、息子コンラッド(ハリス・ディキンソン)が、秘密裏に世界大戦を仕掛け、世界を牛耳ろうと目論む闇の組織に立ち向かう。

衣装を手掛けたのは、人気シリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』で知られるミシェル・クラプトン。今回は史実に基づきながら、オックスフォード公については、伝統的で時代を感じる衣装を当てたそう。一方で、息子のコンラッドの衣装は少し時代の先取りをして、パンツを細くハイウエストにするなど、モダンな雰囲気にしたという。オックスフォード公は、剣を仕込んだステッキを巧みに操る戦い手だが、ある過去の悲しい経験から、平和主義を貫いている。コンラッドは父の意志に背き、イギリスのために戦いたいと願う。二人の衣装の違いにも、まさにイギリス社会や、ジェントルマン像が変わりゆく時代が反映されている。

今回注目の敵役は、実在の人物をモデルにしたロシアの怪僧ラスプーチン(リス・エヴァンス)。ボヘミアンのように髭をたっぷり生やし、黒い円すい型のロングドレスを身につけた異様な姿で、「美男ではないのに、誰もが目を離せなかった」という伝説が残るラスプーチンのカリスマ性を見事に表現。また本作の“ジェントルウーマン”といえば、コンラッドの家庭教師で、実は銃の名手でもあるポリー(ジェマ・アータートン)。家庭教師という職業柄、クラプトンは「ポリーにセクシーさを感じさせたくなかった」と話すが、上品でマニッシュなスタイルがかっこいい。膝まであるダイナミックなレースアップシューズを常に履かせることで、心のうちに秘めた秘密があることを表現したという。

第3作から物語の時系列で観るもよし、第1作からリリース順に観るもよし。衣装の一つ一つが意味深い『キングスマン』シリーズを、ぜひ年末年始に楽しんで。

『キングスマン:ファースト・エージェント』

『キングスマン:ファースト・エージェント』 映画 コラム

表の顔は、高貴なる英国紳士。裏の顔は、世界最強のスパイ組織“キングスマン”。国家に属さないこの秘密結社の最初の任務は、世界大戦を終わらせることだった……! 1914年。世界大戦を密かに操る謎の狂団に、英国貴族のオックスフォード公と息子コンラッドが立ち向かう。人類破滅へのタイムリミットが迫る中、彼らは仲間たちとともに戦争を止めることができるのか? 歴史の裏に隠されたキングスマン誕生秘話を描く、超過激スパイアクションシリーズ待望の最新作。最も過激なファーストミッションが始まる!

監督・原案・脚本・製作: マシュー・ヴォーン
脚本: カール・ガイダシェク
出演: レイフ・ファインズ、ハリス・ディキンソン、リス・エヴァンス、ジェマ・アータートン、ジャイモン・フンスー
配給: ウォルト・ディズニー・ジャパン

大ヒット上映中!
©️ 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

公式HPはこちら

Text: Milli Kawaguchi

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