2022年9月16日(金)から10月16日(日)まで、写真家・髙橋恭司の個展『Ghost』が開かれる。90年代に撮影されたヴィンテージプリントから、近年の関心である花の写真まで、30年間の創作をフラットに眺められる展示。作品集も同時出版予定。渋谷「LOKO ギャラリー」にて。
髙橋恭司の写真展『Ghost』が開催。写真家の30年を一続きの線上でたどる
90年代のカルチャー、ファッションシーンにはいつも髙橋恭司の写真があった。70年代のアメリカで興った“ニュー・カラー”は、カラー写真の芸術性を知らしめるムーブメントだったが、髙橋の写真は日本におけるその余波という見方もされる。
栃木県益子町出身。東京のデザイン事務所に勤めている間に、アメリカを中心に海外写真に多く触れ、自らも気になった対象を撮影し始める。そして徐々に雑誌や広告での撮影を請け負うように。90年代は、高橋の写真に対するアティチュードと業界の空気感が一致した時代だったのだろう、と今なら振り返ることができる。
90年代、雑誌『CUTiE』の巻頭特集
スポットライトを存分に浴びたのち、しばらく髙橋は影をひそめる。が、その後00年代後半に”カムバック”を果たし、精力的に活動している。近年は、2019年のパリでの撮影をまとめた『Midnignht Call』(2021年刊行)や身近な花を被写体にした『Lost Time』(2022年刊行)などの写真集を発表。けれど、そこに見える写真家自身の姿勢は、“あの頃”と特に変わりがない。
イメージ(虚構)を構築することで、逆照射的に現実を構築すること。髙橋にとって写真表現はそんな手段のひとつだ。インタビューなどを読んでいると、ファッション写真についても、服があるから撮るのではなく、むしろ写真があるからそこにファッションが生まれている、という考えに近いように思える。同時に髙橋の写真には独特のリアリティや陰翳があり、それが見る人を惹きつけてやまない。そんな魅力は、本展の隅々にまで染み渡っている。
写真展『Ghost』では、90年代初頭に撮影したフィルムを髙橋自らがプリントしたものや、インスタントフィルム作品、近年のテーマである花の写真、イギリス人映画監督デレク・ジャーマン の有名な庭付きコテージ「Prospect Cottage」を撮影した作品、髙橋によるドローイングなどが展示される。過去に発表されている作品も含んでいるので回顧展的な印象も受けるが、本展の意図はただ純粋に写真家・髙橋の30年間を一つの線上に並べ、過去と今とをフラットに提示することにある。
写されたイメージは確かに“過去”のもので、現像され鑑賞されることで“今”に出合う。展示名“Ghost”は、写真という媒体が内包する過去が現実に蘇って来る様を指してもいる。商業写真と芸術写真の境目、それに関する作り手の姿勢などは昨今もよく議論されるところではあるが、髙橋のある意味不変の写真への対峙法に触れることで、何か一片の示唆を得たい。