KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2017
春の京都に集う、さまざまな「愛」の形
KYOTOGRAPHIE 〈京都国際写真祭 2017〉春の京都に集う、さまざまな「愛」の形
はじめまして、京都在住ライターの木薮愛です。京都に住み始めて間もない頃、国内外の作家の素晴らしい写真作品と、京都の町家や名勝庭園、モダンな建物とがコラボレーションした「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」のクオリティの高さに感動。「舞台裏が見てみたい!」と申し出て、昨年からスタッフとして仲間入りすることに。
写真家のルシール・レイボーズと照明家の仲西祐介という二人のアーティストがディレクターを務める「KYOTOGRAPHIE」。他の芸術祭にはないユニークなアプローチを、読者の皆様にもぜひ楽しんでいただきたく、スタッフ自ら見どころを紹介させていただきます!
〈 KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2017とは? 〉
2013年より毎年開催され、京都の春の風物詩となりつつある国際写真祭。独自の目線で選ばれたアーティストの作品や写真コレクションを、町家や寺社、ギャラリーなど京都ならではの会場で展示するのが特徴。サテライトイベント「KG+」や関連イベントも多数あり、期間中は京都市内が写真に彩られる。5回目を迎える今年は「LOVE」をテーマに、京都市内16カ所で国内外のアーティストの写真を展示。
開催期間は4月15日(土)〜5月14日(日)。
www.kyotographie.jp
(上)ルネ・グローブリ「The Eye of Love, # 500」© René Groebli, The Eye of Love, # 500, 1953. (下)「The Eye of Love, # 535」 © René Groebli, The Eye of Love, # 535, 1953. Courtesy Galerie Esther Woerdehoff, Paris
〈 今年のテーマは「LOVE」 〉
化粧をする妻を鏡越しに撮影するのは、スイスの写真家ルネ・グローブリ。新婚旅行中の妻リタの姿やパリの街の風景を捉えた私的なスナップ写真集「The Eye of Love」は、今年の写真祭のテーマである「LOVE」を、いちばんストレートに感じさせてくれる展示です。
妻の体の曲線美、シャツの襟元から覗く肌のきめ細やかさに加えて、一本のタバコですらエロティックに輝いて見えるのは、写真家の「愛のまなざし(The Eye of Love)」フィルターがかかっているからでしょうか。見ているこちらまで幸せな気分になってきます。ちなみにこのルネ・グローブリ「The Eye of Love supported by Nespresso」展では、本格的なコーヒーが無料で楽しめるNespresso Love Loungeも併設されている。
共にアーティストである老夫婦エミーとベンの日常を綴るハンネ・ファン・デル・ワウデの「Emmy’s World」も愛に溢れています。この作品は、ハンネが夫婦に付き添って撮影したドキュメンタリーでありながら、被写体から「こんな風に撮ったら面白いのではないか」とユーモア溢れる提案も反映されており、演出なのか天然なのか? と謎の写真もありますが、とにかく撮影現場の楽しさが伝わってきます。老いても枯れることないクリエイティビティや、深く強いエミーとベンの絆に、こんな夫婦になりたいと憧れずにはいられません!
スーザン・バーネット「Love Is Everything」2014年 © Susan Barnett
世界25ヵ国以上でTシャツのバックプリントを撮影してきたスーザン・バーネットのプロジェクト「Not In Your Face」より、「Life is Love」「愛がすべて」など「LOVE」にまつわるメッセージやモチーフが描かれた後ろ姿のポートレートが、京都街中にある元・新風館の仮囲い壁にでかでかと展示されます。
1951年アメリカ生まれの「Tシャツガール」、スーザンが思春期を過ごした1960〜70年代は、ベトナム戦争が激化しジョン・レノン&オノ・ヨーコを始め、アーティストたちが様々な方法で平和へのメッセージを主張していた時代に一致。自らの信念をファッションで語る「Not In Your Face」にも、その精神性が受け継がれているのかもしれません。
他のプログラムも、自らの身体を傷つけながらも神に近づくことを希求する信仰者を捉えた作品や、自身の祖母と従兄弟の生活を記録したドキュメンタリーなど、すべての展示は様々な形の「LOVE」に結びつきます。
「愛は、かけがえのないものやクレイジーなことを成し遂げる力強さを与えてくれます。愛は自分が持つ以上の力を引き出してもくれますが、人を狂わせもします。フェスティバルを通じ、皆さんが愛について考え、お互いへの理解をより深めてもらえたら嬉しいです」とルシール・レイボーズ。
「世の中は複雑なようで、実はすごくシンプルにできていて、強い『愛』の力があれば何でも解決できると信じています。そういう希望が伝わるとうれしいです」と仲西祐介。
(上)アーノルド・ニューマン「イゴール・ストラヴィンスキー、作曲家・指揮者」ニューヨーク、1946年 © 1946 Arnold Newman / Getty Images (下)展示会場となる重要文化財「二条城 二の丸御殿台所」 Photo by Naoyuki Ogino
〈 注目すべき会場は二条城 〉
今年のKYOTOGRAPHIEの目玉となる会場は、何と言っても世界遺産・二条城。通常非公開の重要文化財である二の丸御殿台所、そして今回歴史上初めて展覧会場として使用する東南隅櫓を公開し、「アーノルド・ニューマン マスタークラス -ポートレートの巨匠- presented by BMW」展を行います。
ピカソやウォーホル、マリリン・モンローなど著名人を、その人の偉業や個性を示唆するようなポートレート写真として捉えたアーノルド・ニューマン。展示会場をデザインするおおうちおさむ氏は、展示壁面の至るところに鏡面を設置し、著名人のポートレート写真を鑑賞しながら、自分の姿が鏡に映り込み「他者を見ながら自分に気づく」ような仕掛けを作り出すようです。
(上)Photography by TOILETPAPER: Maurizio Cattelan and Pierpaolo Ferrari. (下)「TOILETPAPER: Maurizio Cattelan and Pierpaolo Ferrari. Love is More presented by FUJIFILM」展示シミュレーション
〈 TOILETPAPERの日本初個展も! 〉
現代美術家のマウリツィオ・カテランと、ファッション写真家のピエールパオロ・フェラーリのデュオが、アートディレクターのミコル・タルソを迎え共同で発行するアートヴィジュアル雑誌『TOILETPAPER』。「KENZO」や「メゾン キツネ」などファッションブランドとのコラボレーションなどで日本でも知られる彼らの初個展が「KYOTOGRAPHIE 2017」で実現します。3階建てのASPHODELを『TOILETPAPER』のカオスなヴィジュアルがジャックし、触れたり座ったりしながらその世界観を体感しできる内容。1階に併設するショップも要チェックです!
(上)「KYOTOGRAPHIE」ロゴ(下)サテライトイベント「KG+」ロゴ
〈 サテライトイベント「KG+」も約50カ所で開催 〉
今年の「KYOTOGRAPHIE」は全部で16カ所で開催。会場にはロゴ入りの赤い旗が立てられるのですが、街を歩いているとあちこちに「KG+」と書いた黄色い旗も揚がっていることに気づくはずです。「KG+」は、これから活躍が期待される写真家やキュレーターの発掘と支援を目的とした「KYOTOGRAPHIE」のサテライトイベント。24のアワード対象展覧会の中で、「KG+ AWARD 2017」を受賞した1つの展覧会は次年度の「KYOTOGRAPHIE」の本プログラムで展覧会を行えるので、写真家たちの力の入れ方も生半可な物ではありません。個人的に注目している展覧会は、ポルノ作品のディレクターに密着取材し、4年間にわたり世界中にある撮影現場を撮りおさめたソフィ・エブラードの「It’s Just Love KYOTO」展(FRANK WORK STUDIOにて、4月15日〜5月7日開催)。女性写真家が捉えるポルノ産業がどのように表現されるのか、インスタレーションもかなり作り込むようで楽しみです。
ほかにも、アワード対象外の展覧会も含めると、約50カ所で「KG+」を開催し、町中で写真を楽しんでいただけます。花々が咲き乱れ、鴨川散歩も心地よい春の京都で、皆さんのご来場をお待ちしております!
It’s Just Love ©Sophie Ebrar
エディター&ライター。東京で美術雑誌の編集者を経て、京都でフリーランスに。雑誌や書籍への寄稿しつつ、「KYOTOGRAPHIE」事務局スタッフも務める。桜にアートに、美味しいもの……春の京都は大忙しです!
top photo:Photography by TOILETPAPER
Maurizio Cattelan and Pierpaolo Ferrari.