MADSAKI。知る人にとってはとてつもない怪人だけど、知らない人には全く知られていない存在。幼少時にNYへ移住。その後、パーソンズ・スクール・オブ・デザインを卒業後、アーティスト集団Barnstormersのメンバーとして活動する一方で、彼の生活の基盤はメッセンジャーというNYのストリートで最もハーコーな仕事をすることで成り立っていました。ブレーキなしの自転車に乗りながら、10分刻みの限られた時間でいかに多くの荷物を効率よく届けるか?という命がけのミッションの中で、MADSAKIはあらゆる強さをその心と体に蓄積していったのです。そんなMADSAKIがこの度、村上隆率いるカイカイキキの所属アーティストとして、本格デビューするということになったから、これはただ事じゃない事件だ!ということで、個展直前の本人と話をしにいって“こちらの世界”に行き着くまでの話を聞いて見たところ、そこには、世界のアート界を相手に闘う村上隆の壮絶と言っていい戦略とアクションの裏話がてんこ盛りで、聞いているだけで鳥肌が立つような内容の連続でした。そこでMADSAKIが繰り返し話していたのが、アート界で戦うためにまず必要なのが“体力”だってことでした。スポーツ選手的な体力もあるにはあるけど、アーティストにとってまず大事なのが人間力と経験という名の“体力“。MADSAKIが村上隆に惚れられた一つの大きな理由は、そのNYのストリートで鍛えあげれられた無尽蔵のタフな体力がありつつも、それとは裏腹なナイーブな感性を秘めた作家性の共存というところだったのです。日本のアート界では見向きもされず、傷心のまま世界に飛び出した村上隆と、NYのアートスクールで学びストリートで命を削ったのちに帰国し、アーティストとして、日本人としてのアイデンティティの隙間で悩み葛藤していたMADSAKIという、規格外の日本人二人が出会ったのはそこに偶然的必然性があったからだと思うのです。それは、NYから帰国後に出版された村上隆の「芸術起業論」をMADSAKIがリアルタイムで読み、共感していた時からこの未来は始まっていたのかもしれません。村上隆がMADSAKIの作家性に惚れたというその意味が、本個展「HERE TODAY, GONE TOMORROW」で目撃できることでしょう。
ヌード以外の日常の妻の姿を描いた作品も展示。夫としての目線、アーティストとしての目線・・・そこにはMADSAKIの苦悩や葛藤、最終的に解脱した境地が見え隠れしている(展覧会オープニング時の会場にて撮影)。
MADSAKIにとっての女神が降臨したかのような立体作品(展覧会オープニング時の会場にて撮影)。
グラフィティーライターとの共作インスタレーション。グラフィティー界隈からみてみも、この共演は衝撃的なコラボレーションと言っていい(展覧会オープニング時の会場にて撮影)。
今回の展覧会を象徴する作品「Republique」。MADSAKIにとっての新境地は、愛する妻があってこそ成立したと言っていい(展覧会オープニング時の会場にて撮影)。