突然ですが、『MASHING UP』というイベントを知っていますか? 様々な切り口から「ダイバーシティ」についてのスピーチやトークセッションを行う複合型のビジネスイベント。今回、11月末に行われた第2回のイベントに、GINZA編集部が潜入してきました。
“ダイバーシティ”って何だ?フェス感覚で学べるイベント『MASHING UP』に潜入
フェス感覚で「ダイバーシティ」を学べる
『MASHING UP』潜入レポート
そもそも「ダイバーシティ」とは何なのかというと、「性別や国籍、性的指向に関係なく活躍できる社会を作ること」。
ファッション業界を見ていても、最近はグッチやバレンシアガのショーが男女合同で行われたりしていて、ジェンダーの垣根が取り払われてきています。筆者の周りでも、「(自分が)女性というだけで、上司からの対応を変えられている気がする」という話を友人から聞くことがあったりして、ダイバーシティの問題は身近にあると個人的にも感じていました。
イベントが行われたのは11月の29日と30日。今年の2月に行われた初回に引き続き、場所は渋谷の「TRUNK(HOTEL)」。40以上のトークセッションがタイムテーブルに沿って、4つの会場で行われました。「ダイバーシティ」、ブロックチェーンを活用したこれからのマーケティングの話や、女性のカラダの話まで種類豊富。自分が聞きたいセッションに好きに参加することができます。
登壇者は、途上国のトイレ普及活動を行う活動家のジャック・シムさん、世界中のアーティストと企業やNPO、行政を繋ぐエージェンシー「MASSIVart」のアジア責任者、クレア・トゥジーニャさん、「星野リゾート」代表の星野佳路さん、精神科医・産業医の濱田章裕さん、フリースタイリストの清水文太さんなど、性別、国籍、年齢、職業も様々な人たち。
タイムテーブルを見ながら「次はこの人の話を聞いてみたいな」なんて考えていると、さながらフェスに参加した気分。トランクホテルの落ち着いた内装も居心地がよくて、コーヒーや紅茶も自由に飲めるから休憩も気兼ねなくできます。トーク自体はテーマの本質に踏み込んだ、普段はなかなか聞くことのできない内容なのに、お堅いイメージの「勉強会」や「講演会」よりもカジュアルに楽しめました。
トークセッションの中でも特に考えさせられたのは、「性」についての話と「ビジネスと孤独」の話。見てきたことを全て語るにはどちらも長すぎるので、ここでは印象に残った部分だけをピックアップして紹介してみます。
避妊具の認識を変えていく。
まずは『「10代のセックス=タブー」誰もが買えるコンドームと生理カップで韓国の性文化に革命を起こす』というテーマのセッション。
登壇したのは、韓国で高校の友人3人と、避妊具や生理用品のスタートアップ企業〈EVE Condorm〉を立ち上げたジーナ・パークさん。若い世代の方が国の根強い問題にポジティブに向き合っている姿には、奮い立たせられました。
左が主催者の中村寛子さん、右がジーナさん
ちょっとディープな話ですが、ジーナさん曰く韓国では10代の40%の人しか避妊具をつけないそう。その理由は、コンビニでしか購入できず、レジで冷ややかな目で見られるから。中でも女性が購入しようとすると“軽い女だ”と思われかねないから。そういった風潮には、”薄さ”ばかり主張するパッケージに見られる、いかにも”男性向け”な売り出し方も大きく関係しているとジーナさん。「40%」という数字だけを聞くと意外ですが、その背景にある意識を知ると、日本でも他人事ではないように思えてきます。
そこでジーナさんが開発したのが、可愛らしく女性的なパッケージで、誰でも買いやすいコンドーム。開発の際に動物実験も行わず、健康を害する素材も使っていないことから、“ヴィーガンコンドーム”と名付けられました。
「自分の性行為に責任を持つことは恥ずかしくありません。自分の身体を自分でコントロールする。これはセクシャルなヘルスケアです」ジーナさんは語ります。そうした売り方が功を奏して、今では男性以外にも、女性がヴィーガンコンドームを買うことも多いそう。
ジーナさんは今後の目標をこう語りました。「セックスをするのは自然なこと。愛を表現する権利は誰にでもある。そう思える社会を作るには、私たちが発信し続けないと。時間はかかりますが、教育レベルで認識を変えていく必要があります」
ジーナ・パーク 韓国発の女性に向けたウェルネスサポートを目的としたヘルスケアブランド、EVEの創立者。www.evecondoms.com
デジタル社会の孤独は結構深刻?
『MASHING UP』では、これからの職場のあり方や働き方も大きなトピックになっています。次は、その中から「職場の孤独マネジメント」というテーマを。
今やSlackやSkypeで会議にも参加できる時代になり、職場に出勤せず、遠隔で仕事をする「リモート」でのワークスタイルも増えてきています。その一方、一人で仕事をすることに疎外感を感じて、精神的な問題を抱えてしまうケースが増えているのだとか。
また、お昼時に一人でいるのが恥ずかしいから、トイレでこっそりご飯を食べる、いわゆる“便所飯”が、六本木ヒルズや丸の内でも起きているというお話も。デキるイメージの職場でもトイレのゴミ箱には空の弁当箱が溢れている、と聞くと確かに痛々しい。
今や見過ごせない問題となっている「仕事上の孤独」にいかに向き合っていくべきなのか、様々な立場から話し合うのがこのセッション。
集中力を測定できる眼鏡「JINS MEME」を開発した〈JINS〉の井上一鷹さんからは、むしろ自分のための時間は作るべきだ、というお話が。人が深い集中状態に入るには平均で23分かかるといわれていますが、職場内のコミュニケーションが多すぎると集中し始める前に「ちょっといいですか?」と声がかかってしまう。孤独になることそのものよりも、「孤独になったらいけない」という強迫観念の方が問題なのではないか、と初っ端から前提が覆える意見でした。
井上 一鷹(いのうえ・かずたか) JINS MEME事業統括リーダー「集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方」(日本能率協会マネジメントセンター)を執筆。
「人がよりよく生きるとは何か(Well-being)」について研究する石川善樹さんは、孤独への対策について「職場でも上司や同僚ではなく“友達”と呼べる関係を作ることが大事」と主張します。
具体的にいうと、それはメールの冒頭で「大変お世話になっております」と書かなくてもいい間柄。仕事上で関わりが深い人に対しては思い切って“社会の儀礼”的なものを取っ払って接してみるのも、一歩踏み出すきっかけになるかもしれません。
また今後、日本が迎える“平均年齢が50代を超えていく”時代が到来し、さらには組織の中にいない時間が増えたとき、“どう友達を作っていくか?”が社会全体として重要なポイントになる、というお話でした。
石川 善樹(いしかわ・よしき) 予防医学研究者 (株)Campus for H共同創業者。「人がよりよく生きるとは何か(Well-being)」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。@ishikun3
ビジネス向けのチャットアプリを開発する「Slack Japan」のマネージャー、生垣侑依さんは、自身が行っている対策の話を投げかけます。生垣さんの部署では、ビジネス的な話はオンラインで、プライベートなことはオフラインとチャンネルを使い分けて、週1回の1on1では基本的に身の上話しかしないようにしているそう。それくらい潔く分けた方が、確かに良好な交友関係を築きやすいのかも。
生垣 侑依(いけがき・ゆい) 米国カンザス州立大学を卒業後、株式会社リクルートを経て、2018年、Slackの営業マネージャーに着任。
もう一つ石川さんの話で興味深かったのは「デジタルとリアルの最大の違い」。それは接触があるかどうか。人と触れると、いわゆる「幸せホルモン」のオキシトシンが出るのだそう。オフラインでの交流は、リモートで済む今の時代だからこそ大事にするべきなのかもしれません。
孤独といっても精神的なものから物理的なものまであって、むしろ必要なこともある。いろいろな立場の意見を聞くほどに、自分の中の「孤独」の定義が更新されていくセッションでした。
決して気負わずに参加できるけど、会場を出る頃には視野が広くなっている。『MASHING UP』はそんな場。他にもたくさんのセッションがありました。今回の登壇者やトークセッションのテーマ、などは『MASHING UP』のWEBサイトでも見られるので、ぜひチェックを!
Text: Koki Yamanashi