アンビバレントなエクスタシー。ロバート メイプルソープ写真展 『MEMENTO MORI』が3月14日よりシャネル・ネクサス・ホールにて開催

アンビバレントなエクスタシー。ロバート メイプルソープ写真展 『MEMENTO MORI』が3月14日よりシャネル・ネクサス・ホールにて開催

Share it!

20世紀における最も重要なアーティストのひとりである写真家、ロバート メイプルソープ。彼は、パティ・スミスの運命のボーイフレンドだったこと、たくさんのセレブのポートレートを撮影したこと、SMなど過激なモチーフを作品にして政治論争を巻き起こしたこと、最後は80年代のNYに蔓延していたエイズで亡くなったこと……。さまざまな噂で知られることも多い。

けれど、そんな彼の噂話とは裏腹に、彼の写真は、時が止まったような静かで、エレガント。

挑発的で過激なモチーフが、丁寧に、あくまで美しく写される。そのギャップが、見る者を魅了する。黒と白、SとM、聖と俗……。メイプルソープの作品の魅力は、二つのものが相反する、アンビバレンスにある。

Tulip,1984 Gelatin Silver PrintTulip, 1984
Gelatin Silver Print
© Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission

メイプルソープは多くのヌードを撮っている。白い布におおわれた女性のヌードは、ピュアな印象で女神のよう。男性の鍛え抜かれた肉体の部分をクローズアップして写したシリーズも、まるでギリシャ彫刻と見間違えるほどの美しさだ。一方で、特殊な性的志向をもつ人々のプレイなど、いわゆる倫理観からは外れたヌードも、同じく完璧な構図とクオリティで写している。それらは、一般的にはタブーとされるものだ。美しい女性のヌードを聖とするなら、それらは俗と呼ばれるものだろう。

Ken Moody & Robert Sherman,1984 Gelatin Silver PrintKen Moody and Robert Sherman, 1984
Gelatin Silver Print
© Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission

メイプルソープが繰り返し写したのがSMプレイの愛好者たちだった。全身をぴったりとゴム製のコスチュームで包まれ、皮膚呼吸さえ不可能にされた状態の男性。頭や四肢を鎖で固定された人。ボンデージファッションに身を包み、拘束・束縛された人たちの姿は衝撃的だ。聞くところによると、SMプレイは、立場としてはサドの方が上だけれど、実のところマゾの方が官能の度合いは高いらしい。極限まで制限され、貶められた自らに、得も言われぬ興奮を憶えるんだそうだ。その倒錯した感覚は、メイプルソープの作品がもつアンビバレンスに近い。彼は過激なモチーフを、静物を撮るのと同じく、丁寧に、冷静に、写しとる。その抑制された写し方は、モチーフのショッキングなインパクトを取り払ってしまう。鑑賞者ののぞき見的な関心もはぎ取ってしまう。マゾの側が(きっと)感じているように、抑制されるからこそ、そのもの本来の官能性が露わになる。そうやって、メイプルソープの作品は、聖と俗の相反するものの両方が誰の中にもあることを教えてくれる。核にまでそぎ落とされたソリッドな感情や感覚を見る者に知らしめることこそ、本当の挑発じゃないだろうか。

3月14日から、ロバート メイプルソープの作品がまとめて見られる大規模な個展「MEMENTO MORI(メメント モリ)」が東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで開催される。シャネル銀座ビルディングの設計を手がけるなど、国際的に活躍する建築家ピーター マリーノのプライベートコレクションから約90点を展示するもので、日本で行われるメイプルソープの大規模な個展としては2002年以来となる。展覧会は3つの部屋に分かれていて、最初の2つは白を基調とした部屋に古典的な彫刻・静物・人体のクローズアップ、そして布をまとった人物の写真を展示。第3の展示室は黒一色の空間に、より挑発的な作品が展示される。メイプルソープの作品がもつアンビバレントな魅力が感じられる絶好の機会となりそうだ。

Watermelon with Knife,1985 Gelatin Silver Print

Watermelon with Knife, 1985
Gelatin Silver Print
© Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.

「MEMENTO MORI―ロバート メイプルソープ写真展 ピーター マリーノ コレクション」

開催日時:2017年3月14日(火)~4月9日(日)

12:00~20:00 (入場無料・無休)

会場:シャネル・ネクサス・ホール

(中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F)

主催:シャネル株式会社

ロバート メイプルソープ

1946年11月4日米国ニューヨーク州フローラルパーク生まれ。写真を中心とするミクストメディアの作品制作に取り組んだ後、70年代中頃から写真に焦点を絞り、鮮明な個性を肖像写真に捉える才能で知られるように。被写体は社交界の名士、有名人から、芸術家やニューヨークの前衛的サブカルチャーの担い手にまで及んだ。80年代からは、よりフォーマルな肖像写真と、とりわけ花に主眼を置いた静物写真へと向かい、1988年にスタートした巡回個展「The Perfect Moment」は、そのセンセーショナルな内容から物議をかもし、「芸術」の定義を問う、国を挙げての大々的な政治論争の的となった。1988年、AIDSとHIV感染の医学的研究への支援と、美術としての写真に対する支援を目的に、非営利団体のロバート メイプルソープ財団を設立。その翌年、1989年3月9日マサチューセッツ州ボストンでAIDSにより逝去。


 

柴原聡子 Satoko Shibahara

建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など。

top flower photo:

Orchid, 1988
Gelatin Silver Print
© Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.


line02

Share it!

FOLLOW US

GINZA公式アカウント