27 Aug 2020
気鋭の3作家が誘う、原美術館の特別な空間体験「メルセデス・ベンツ アート・スコープ 2018-2020」

TOP上: 小泉明郎「抗夢#1 (彫刻のある部屋)」2020年、サウンド・スカルプチャー(サウンド・デバイス、ヘッドフォン、ムービングヘッド・ライト、コラージュ、空っぽの部屋)サイズ可変
TOP下: 久門剛史「Resume」2020年、ラワン材、ラワン合板、アクリル絵の具、自然光、航空機の音、虫の音、電車の音、サンルームから聞こえるあらゆる音、6000Hz 正弦波、サイズ可変
来年1月で閉館する品川の原美術館は、もともと邸宅だった部屋を改装した、いわゆるホワイトキューブではない展示室が、特徴のひとつにあげられる。その醍醐味が味わえる、3人のアーティストによる展覧会が開催中だ。
本展に出品するのは、久門剛史、ハリス・エパミノンダ、小泉明郎の3名。いずれもこのプログラムに参加し、それぞれがドイツと日本に滞在してきた。3名共に、この困難な状況の下、熱意を持って新たなチャレンジをし、現在の状況に対峙するような新作を発表している。
タイトルにもある「メルセデス・ベンツ アート・スコープ」は、メルセデス・ベンツ日本による、日本とドイツの間で、現代美術の作家を相互に派遣・招聘し、交流を図るプログラム。原美術館は、2003年よりパートナーをつとめ、滞在の成果を発表する展覧会を開催している。
久門剛史「Resume」2020年、ラワン材、ラワン合板、アクリル絵の具、自然光、航空機の音、虫の音、電車の音、サンルームから聞こえるあらゆる音、6000Hz 正弦波、サイズ可変
豊田市美術館での個展「らせんの練習」も好評だった久門剛史は、身の回りの現象や特定の場所がもつ記憶、歴史的事象から、音や光、立体を用いたインスタレーションを作ることで知られている。昨年は、第58回ヴェネチア・ビエンナーレにて、アピチャッポン・ウィーラセタクンとの共作を出品、チェルフィッチュの舞台美術と音を手がけた経験があり、また初めて劇場作品『らせんの練習』を手がけるなど活動の場を広げている。
本展では、緩やかな円弧を描いた空間が特徴的なギャラリーⅡを使用し、久門が得意とする空間との対話から生み出される新作のインスタレーションを発表している。自然光のみで展示を行う本作は、展示空間を仄かな色に包み込み、鑑賞者を視覚や聴覚を研ぎ澄ますように誘う。
ハリス・エパミノンダ(ダニエル・グスタフ・クラマーとの共作)「Untitled #01 b/l」2020年
ハリス・エパミノンダは、コラージュの技法を用いた映像やインスタレーションを制作しています。昨年開催された第58回ヴェネチア・ビエンナーレにおいて、企画参加アーティスト部門で銀獅子賞を受賞した注目のアーティスト。日本では約10年ぶりの展覧会となる本展は、彼女の作品を見られる貴重な機会となっている。
ハリス・エパミノンダ「日本日記」2020年、スーパー8フィルムをデジタル化、カラー、サウンド、21分8秒
もともと小津安二郎の映画をきっかけに、長年日本に強い関心を抱いてきたというエパミノンダ。昨年の夏にレジデンス・プログラムで初めて東京と京都に滞在し、リサーチや創作を行った。本展では、原美術館とも関係の深い音楽家、吉村弘を題材に、アーティスト、ダニエル・グスタフ・クラマーと共作した《Untitled #01 b/l》、日本滞在時にスーパー8フィルムで撮影した映像をデジタル化した《日本日記》を出品している。
小泉明郎「抗夢#1 (彫刻のある部屋)」2020年、サウンド・スカルプチャー(サウンド・デバイス、ヘッドフォン、ムービングヘッド・ライト、コラージュ、空っぽの部屋)、サイズ可変
演劇的手法を取り入れた映像作品によって、人間と人間、人間と社会の関係、また言葉と身体の関係を浮かび上がらせる小泉明郎。昨年は「あいちトリエンナーレ2019」でVR技術を使った初の演劇作品『縛られたプロメテウス』を発表し、大きな反響を呼んだ。本展では、二つの展示室内を行き来しながら音声を聞くサウンド・スカルプチャー《抗夢#1(彫刻のある部屋)》、各自のデバイスで音声をダウンロードして街中で聞く《抗夢#2(神殿にて)》が体験できる。
三者とも、単に作品を見るだけではない、多様な表現方法による作品となっている本展。原美術館を「体感」するためにも、ぜひ足を運んでみてほしい。
以上画像すべて:Photo by Keizo Kioku
久門 剛史 ひさかど つよし
1981年京都府生まれ、在住。2007年京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。近年の主な展覧会に「あいちトリエンナーレ2016」、「東アジア文化都市2017京都 アジア回廊現代美術展」(元離宮二条城)があるほか「MAMプロジェクト025」(森美術館、2018年)、第58回ヴェネチア・ビエンナーレ「May You Live in Interesting Time」(2019年)ではアピチャッポン・ウィーラセタクンとの共作を展示した。チェルフィッチュ『部屋に流れる時間の旅』(2016年)の舞台美術と音を担当、KYOTO EXPERIMENT京都国際舞台芸術祭にて初の劇場作品『らせんの練習』(ロームシアター京都、2019年)を上演。2020年3月より豊田市美術館にて国内初の大規模な個展「らせんの練習」を開催。
ハリス・エパミノンダ
1980年キプロス、ニコシア生まれ、ベルリン在住。ロイヤル・カレッジ・オブ・アートとキングストン大学(ロンドン)で学ぶ。第52回ヴェネチア・ビエンナーレキプロス代表(2007年)、「若手芸術家のための国立美術館賞」(ドイツ、2013年)ノミネート。第58回ヴェネチア・ビエンナーレ「May You Live in Interesting Times」企画参加アーティスト部門で銀獅子賞を受賞。その他にも「ベルリンビエンナーレ」(2008年)や「ドクメンタ14」(カッセル、2017年)など多数の国際展に出品。日本ではグループ展「万華鏡の視覚」(森美術館、東京、2009年)に出品。
小泉 明郎 こいずみ めいろう
1976 年群馬県生まれ、横浜市在住。国際基督教大学卒業後、チェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン(ロンドン)にて映像表現を学ぶ。主な個展に「MAM Project 009:小泉明郎」(森美術館、2009年)、「Projects 99: Meiro Koizumi」(ニューヨーク近代美術館、2013 年)、「捕われた声は静寂の夢を見る」(アーツ前橋、2015 年)、「バトルランズ」(ペレス・アート・ミュージアム・マイアミ、2018年)など。主なグループ展に『「アート・スコープ2009-2011」―インビジブル・メモリーズ』(原美術館、2011年)、「フューチャー・ジェネレーション・アート・プライズ2012」(ピンチュク・アートセンター、キエフ、ウクライナ、2012年)、「境界:高山明+小泉明郎展」(銀座メゾンエルメス フォーラム、2015年)、「第12回上海ビエンナーレ」(2018年)、「シャルジャ・ビエンナーレ14」(アラブ首長国連邦、2019年)など。「あいちトリエンナーレ2019」にてVR技術を使用した演劇『縛られたプロメテウス』(2019年)を発表。
メルセデス・ベンツ アート・スコープ 2018-2020
会場: 原美術館
住所: 東京都品川区北品川 4-7-25
会期: 開催中~9月6日(日)
時間: 平日 11:00-16:00、土日祝 11:00-17:00
休館日: 月曜日
HP: https://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/exhibition/741/
※本展は日時指定の予約制です。予約方法等の詳細はこちら。
※本展には有線イヤホンを使用する作品があります。できる限りご自身の有線イヤホンやヘッドフォンをご持参ください。

柴原聡子
建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など