ミルクマン斉藤が語る、90年代映画業界の「世界同時ミニシアター化」すべては90年代からはじまった!

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1990年代半ばの「世界同時渋谷化」現象。それは、エディター/ライターの故川勝正幸さんが「発見」したフレーズです。当時「渋谷系」と呼ばれた音楽を軸に盛り上がったカルチャームーブメントは、世界同時多発的に起こっていた現象で、世界中のクリエイターやおしゃれ感度の高い若者たちが「渋谷系的概念」を共有し、「好き!」「わかる!」と共感していたということなのです。「いいね!」ボタンもない、インターネット前夜の奇跡。アナログ時代最後のディケイドだったからこその 「渋谷化」だったのかもしれません。


世界同時ミニシアター化
GIRLS × MINI THEATER

90年代、女の子はミニシアターを目指した

だいたい200席程度の、こぢんまりとした映画館。それは全国に点在し、今も新作のみならず、ときには独自な視点でセレクトした旧作を上映したりもしつづけている。……そう、いわゆる「ミニシアター」ですね。

ひょっとすると現在では「シネコンじゃない映画館」「単に小さい映画館」くらいにしか思っていない人も多いだろう。しかし、今からおよそ20年前にはコアな映画好きだけでなく、とりわけサブカルチャーに興味があるならば、東京でいうと渋谷・新宿・銀座あたりに散見されるミニシアターの上映作品はとりあえずチェック! みたいな空気が確かにあった。つまり、高校生や大学生、若者たちが詰めかける場だったのだ。それくらい、音楽や映画や文学や美術を、なにかしら連携したものとしてまるごと捉えようとするムードが強かったんだな、今よりもずっと。

なかでも、「女の子映画」ガーリー・ムーヴィに人気があったのもこの時期の特徴だ。例えば、『なまいきシャルロット』(85年/日本公開89年)や『小さな泥棒』(88年/日本公開90年)のシャルロット・ゲンスブール主演作に注目が集まったのも象徴的。そもそもシャルロットの両親が「渋谷系」のカミサマだったからだ。そんな父セルジュ・ゲンスブールが監督し、母ジェーン・バーキン主演で撮った映画『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』(76年/リヴァイヴァル上映95年)が初公開時より遥かに深く理解されたのも、この一家の生きざまが映画や音楽を通して広く受け入れられたからだろう。

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『小さな泥棒 (HDリマスター版)』 DVD ¥3,800(本体価格) 発売/販売: アルバトロス

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©ORLY FILMS/RENN PRODUCTIONS/CINE CINQ/LES FILMS DU CARROSSE /SEDIF

とにかくフランス色が強かったのもこの時代の特色。フランスのインディペンデントから出発しながら、いまや世界的メジャー映画の一翼を担うようになった(好き嫌いは別として)リュック・ベッソンも、『レオン』(94年/日本公開95年)のミニシアター公開で一躍ブレイクした人物だ。しかし、これもナタリー・ポートマンという美少女の存在なくしてはヒットしなかったはず(ちなみにこの作品の本質は96年に上映された『レオン/完全版』を観なけりゃ判らない。でもこれもまた大入りとなり、この後、後出しジャンケンのような「完全版」「インテグラル版」の濫発がDVD登場まで続くことになる)。

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『レオン 完全版』 DVD ¥1,219(本体価格) Blu-ray ¥2,500(本体価格) 発売元: アスミック・エース 販売元: KADOKAWA

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©1994 MUSIC ERIC SERRA ©1994 GAUMONT

この時期のミニシアター系映画の特徴として、主に60年代の、「その当時は軽んじられていたけれども今観ると無茶苦茶面白い」映画のリヴァイヴァル上映、というのがあった。「渋谷系」の総帥・小西康陽氏が「pizzicato five re-presents」としてリヴァイヴァル上映した作品2本はどちらも、過激で過剰でポップな温故知新的テイストの濃い作品。ビートルズ映画で名を馳せたリチャード・レスター監督の傑作『ナック』(65年)におけるリタ・トゥシンハムのブサカワさ。今では市川崑監督の代表作的扱いをされているが当時は「埋もれた問題作」程度の評価しか与えられていなかった『黒い十人の女』(61年)における超キュートな若き日の中村玉緒。彼女の容姿の激変ぶりに年月の無常を教えられた女性客は多いはずだ。あるいは映画そのものは極めて不条理だけど、60年代テイストのファッションてんこ盛りで目だけは楽しませる『欲望』(66年/リヴァイヴァル上映94年)なども再上映の恩恵に預かった(そういえばこの映画のポスター、『アメイジング・スパイダーマン2』の写真家志望ピーター君の部屋にも貼ってある)。

どうしてもアメリカ映画中心になりがちだったその当時の映画状況のなかで、メジャーにはのらない別の地域に目を向けさせたのもミニシアター・ブームの功績。とりわけウォン・カーウァイ『恋する惑星』(94年/日本公開95年)は「香港映画=カンフー」な固定観念を根底から覆すオシャレさで衝撃を与えた。みんなフェイ・ウォンのキュートさに参ったし、使われる音楽の趣味や物語のメンタリティにアジア映画の面白さを痛感して、その後もっとディープな世界へとのめりこんだヒトも数知れない。中国映画『初恋のきた道』(99年/日本公開00年)のチャン・ツィイーの可憐さにメロメロになったヒトも多いはずだ(ま、この映画では数十年後の変わり果てた姿も描かれるのだが……そこ、誰も覚えてないのよね)。

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『恋する惑星』 DVD ¥3,800(本体価格) Blu-ray ¥4,800(本体価格) 発売元: アスミック・エース 販売元: KADOKAWA

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©1994, 2008 Block 2 Pictures Inc. All Rights Reserved.

それはともかく、今思えばミニシアターがサブカル系の牙城たりえたのは2000年ちょい過ぎくらいまでだろうか。しかしその時期にガーリー映画の佳作・秀作が相次ぐ。まずは『バッファロー’66』(98年/日本公開99年)。当時僕はコメントフライヤーに「この映画にあるすべてのものは、リッチという白く丸い球体のまわりを巡る塵芥に過ぎない」なぁんて書いてるのだが、まさにその通りで、ヴィンセント・ギャロというスーパー・ナルシシストの自意識をぶち壊すような(ぽっちゃりしてた時代の)クリスティーナ・リッチの存在感に圧倒される傑作ではあった。

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『バッファロー’66』 Blu-ray ¥2,500(本体価格) 発売元: ギャガ 販売元: TCエンタテインメント

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©1998 Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved.

これに次いで現れたのが、おそらく女の子である時間を体験したヒトにしかその真実は実感できないのではないかと思われるくらいセンシティヴな女の子映画『ヴァージン・スーサイズ』(99年/日本公開00年)。そして、超級のヒットとなりその後さまざまなかたちで模倣された妄想系ラヴ・ストーリーのバイブル『アメリ』(01年)。いま思えば、これがミニシアターの、そして90年代サブカルチャーの最後の花火だったのだろう。

 

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『ヴァージン・スーサイズ』 *DVDは現在廃盤、レンタルは可能

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『アメリ』 Blu-ray ¥2,381(本体価格) 発売: ニューセレクト/ ソニー・ピクチャーズ 販売: ソニー・ピクチャーズ

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©2001 UGC IMAGES-TAPIOCA FILM-FRANCE 3 CINEMA-MMC INDEPENDENT-Tous droits reserves.

それからおよそ10年余り。10代、20代の文化一般に対する興味があのころより薄れたというのはどうやら否定しがたいようで、いつしかミニシアターが若者でいっぱいになる、というような場面を見ることは稀になってしまった。あの頃に映画の魅力に目覚めた世代は、いまだせっせと映画館や映画のイヴェントに通い続けているんだが。

しかし2014年の今、『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』『チョコレートドーナツ』『アクト・オブ・キリング』といった単館系作品に若い世代が詰めかけていると聞く。そう捨てたもんじゃないのだよ!

ミルクマン斉藤

1963年京都生まれ。映画評論家。デザイン集団groovisionsの唯一デザインしないメンバー。ピチカートのライヴではVJを担当。川勝正幸氏による映画パンフレットや、『relax』誌での試写&トークショーなどで、その全盛期にミニシアターと深い関わりをもつ。

Art Direction & Design: Toshimasa kimura Photo: Gosuke Sugiyama(Gottingham Inc.) Text&Edit: Izumi Karashima

GINZA2014年6月号別冊付録

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