信藤三雄がカルチャームーブメント「世界同時渋谷化現象」を語る。すべては90年代から始まった!

1990年代半ばの「世界同時渋谷化」現象。それは、エディター/ライターの故川勝正幸さんが「発見」したフレーズです。当時「渋谷系」と呼ばれた音楽を軸に盛り上がったカルチャームーブメントは、世界同時多発的に起こっていた現象で、世界中のクリエイターやおしゃれ感度の高い若者たちが「渋谷系的概念」を共有し、「好き!」「わかる!」と共感していたということなのです。「いいね!」ボタンもない、インターネット前夜の奇跡。アナログ時代最後のディケイドだったからこその 「渋谷化」だったのかもしれません。


信藤三雄の渋谷
かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう

 まずはこの人に話を聞かなくてはなりません。アートディレクターの信藤三雄さん。デザイン事務所コンテムポラリー・プロダクション(C.T.P.P.)を率い、CDジャケットやPVで「渋谷系」をヴィジュアル化した張本人。ちなみに、本特集担当の不肖筆者、出版業界でなんとなく働き始めたのが90年代半ばのこと。川勝さんの名フレーズ「世界同時渋谷化」が生まれた信藤さんの初作品集『シーティーピーピーのデザイン』の編集が初仕事。何の役にも立たないタダの新人編集者でしたけれども。


GINZA(以下G) 「渋谷系」とは、フリッパーズ・ギター、ピチカート・ファイヴ、オリジナル・ラヴ(現オリジナル・ラブ)、コーネリアスといった非主流派の音楽カルチャー、それが一般認識だと思うんです。でも、映画にもファッションにも文学にもマンガにも、それぞれに「渋谷系」は存在していたわけで。結局、「渋谷系」って何だったのかというと、「概念」だと思うんです。なにをカッコいいと思うのか、なにを面白いと思うのか、ものの見方、見極める力を養う「文化運動」のような。それをヴィジュアル化したのが信藤さんだったんじゃないかなって。
信藤 でも、それは僕だけじゃなく、小西(康陽/ピチカート・ファイヴ)君なり小山田(圭吾/コーネリアス)君なり、才能あふれる人たちと一緒に作り上げたものだったからね。

G 音とヴィジュアルが完全にシンクロしていましたよね。だからこそ、ピチカートもコーネリアスも、80年代のYMOよりももっと地続きの感覚で、世界各地に点在する「似た人たち」へと届いた、それが、「世界同時渋谷化」だったのかなと。

信藤 川勝さんはうまいことを言いましたよね(笑)。

ここで、川勝さんの文章(『シーティーピーピーのデザイン』序文より)を引用して信藤さんの経歴をザックリ振り返ると、「大学で広告研究会→デザイン学校→デパート業界誌記者→デザイン事務所勤務(クライアントは一般企業だったという)→フリーのデザイナー兼スクーターズの二足のワラジ、と歩んできた」。スクーターズとは80年代の伝説的バンドで、信藤さんはそのリーダー。信藤さんはミュージシャン出身のデザイナーなのだ。ちなみに、信藤さんのジャケット初仕事は松任谷由実のシングル『VOYAGER〜日付のない墓標』(84年)。いまや世界のデフォルトとなった透明CDケース、豆本サイズのインナーブックレット、箱入り仕様、CD棚に収まらないタテ型仕様、3Dレンズ付きやビニールパック仕様など、グッズとしても楽しめる数々の「特殊ジャケ」を始めたのも信藤さんだ。

信藤 アナログレコードのジャケットをデザインしたかったのに、僕がやるようになってから小さなCDになっちゃった。だから、その腹いせにCDでいかに遊ぶかというのがテーマで(笑)。でもやっぱり、小西君との出会いが大きかったんですよね。出会わなかったらここまで実現しなかったと思う。

G 小西さんとの出会いはどういうものだったんですか?

信藤 86年だったかな。小西君から電話がかかってきたのね。スクーターズのファンなのでレコードのジャケットをデザインしてほしいと。ピチカートは、その前の年ぐらいにデビューしていたと思う。それで小西君が事務所にやってきて、そのとき、僕はたまたま『ザ・サバービア・スイート』を聴いていて。

 G トット・テイラーが主宰する英コンパクト・オーガニゼーション・レーベルからリリースされたレコードですね。編集者の橋本徹さんは、その名前を拝借した雑誌『サバービア・スイート』を作ったことでも有名です。

橋本徹

信藤 で、小西君が部屋に入ってきたときに、「信藤さん、こんなの聴いてるんですか!」ってビックリされて。それで趣味の話を始めたら、好きなものが驚くほど一緒だった。音楽も映画も。映画はリチャード・レスターの『ナック』(65年)とジャック・タチの『ぼくの伯父さん』(58年)が大好きだと。

ちなみに。90年代初頭、ピチカート・ファイヴ&コレクターズ・プレゼンツで『ナック』やミケランジェロ・アントニオーニの『欲望』(67年)のリバイバル上映がシネヴィヴァン六本木で行われ、当時学生の筆者、もちろん観に行きました。信藤さんデザインによる箱入り豪華パンフももちろん購入。箱に入っていた『欲望』のポスターをご多分に漏れず部屋の壁に貼っていたということも告白しておきマス。

世界同時ミニシアター化

G ということは、86年の時点で90年代の「渋谷系」が信藤さんと小西さんの間ではもう始まっていたんですね

信藤 そう。あのときに話したことが次々と実現していったんだよね。作りたいジャケットも映画も。振り返れば、小西君と会った瞬間に、そこで魔法にかかったんだと思う(笑)。

G 90年代は「おしゃれを掘り起こす時代」だったと思うんです。映画のリバイバル、そこから派生したフレンチファッションブーム、音楽の「レアグルーヴ」ブームもそうでした。

信藤 掘り起こしたよね(笑)。僕は、いまでもそうだけど、流行の先端にいきたいとは思わない。早川義夫さんの『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』(69年/URC)が根底にあるから。だから、サンプリングしてリミックスして“新しいもの”を作る。やっぱり僕は、半分ミュージシャンですから。
G 音楽を作るようにヴィジュアルもデザインする。

信藤 信藤さんの作風はね(笑)。あと、音とジャケットの微妙な距離感がいちばん大切だと思ってるから、デザインをするときもPVを撮るときも、歌詞をあんまり読まないのね。パッと曲を聴いて、ひっかかった言葉からイメージを広げるんです。

G いまあらためて、90年代を振り返ってどう思いますか。

信藤 よく思うのは、ピチカートもフリッパーズもオリジナル・ラヴも、みんな小さな事務所だったから、渋谷系はメジャーから出ているインディーズだったなって。いまでは考えられないけどね。だから、僕のなかでは96年に渋谷系は終わったんです。原宿のラフォーレミュージアムの展覧会(『C.T.P.P.のデザイン展』。信藤さんの初個展)で。あのあと、渋谷系は方々に拡散していったんでしょうね。いま、90年代ブームだとすれば、あの頃の僕らに影響を受けた層がだんだん世の中の中心になって動き出しているからだろうし、僕らが古い映画をリバイバルさせたのと同じ気分だろうなと思うんだよね。

信藤三雄

1948年東京生まれ。アートディレクター、フォトグラファー、映像ディレクター、映画監督、C.T.P.P.を経て、2011年より信藤三雄事務所に。松任谷由実、Mr.Children 、サザンオールスターズといったメジャーアーティストのジャケットも多数。手がけたジャケットは優に1000枚は超える。最近は書道家としても活動。


PIZZOCATO FIVE
Design by C.T.P.P.

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『ベリッシマ!』(88)

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『女王陛下のピチカート・ファイヴ』(89)

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『女性上位時代』(91)

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『インスタント・リプレイ』(93)

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『インスタント・リプレイ』(93)

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『ボサ・ノヴァ2001』(93)

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『ロマンティーク96』(95)

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『ロマンティーク96』(95)

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『PIZZICATO FIVE』(99)

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『さ・え・ら ジャポン』(01)

FLIPPER’S GUITAR, CORNELIUS,etc.
Design by C.T.P.P.

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FLIPPER’S GUITAR

『CAMERA TALK』(90)

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FLIPPER’S GUITAR

『DOCTOR HEAD’S WORLD TOWER ヘッド博士の世界塔』(91)

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CORNELIUS

『69/96』(95)

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CORNELIUS

『FANTASMA』(97)

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ORIGINAL LOVE

『LOVE! LOVE! & LOVE!』

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ORIGINAL LOVE

『LOVE! LOVE! & LOVE!』(91)

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ORIGINAL LOVE

『結晶 SOUL LIBERATION』(92)

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カヒミ・カリィ

『LEUR L’EXISTENCE〜「彼ら」の存在』(95)

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夏木マリ

『九月のマリー』(95)

Art Direction & Design: Toshimasa kimura, Photo: Gosuke Sugiyama(Gottingham Inc.), Text&Edit: Izumi Karashima

GINZA2014年6月号別冊付録掲載