荻原守衛《文覚》1908年
“男性”像が、密ってる!? 東京国立近代美術館 コレクションによる小企画「男性彫刻」
竹橋にある東京国立近代美術館で、「男性」だけの彫刻にフォーカスした、「男性彫刻」という、超ストレートなタイトルの小企画展が開催されている。同館では、年に2〜3回程度コレクションを使った小企画があり、大きなスペースではないものの、コレクションを違った切り口で見直すことができる面白い企画が多く、ファンもけっこういる。
和田三造《南風》1907年
それぞれのコーナーには、男性への同じような視線をもつ絵画も一緒に展示してある。こちらは、制作年を考えると、日本人離れした…?身体をもつ中央の漁師が印象的。
この企画では、20世紀初頭から1940年代にかけて日本で生み出された、男性をかたどった彫刻を紹介している。会場は3つのコーナーに分かれていて、筋骨隆々の男たちが並ぶ「強い男」の一群、その奥に続くのは肖像彫刻を中心とする「賢い男」と言えるコーナー。さいごの部屋には、主に老人像を並べた「弱い男」群がある。
陽咸二《優勝チーム》1930年
読者には、彫刻のモデルが男性か女性かに注目したことはないという人が多いかもしれない。古代ギリシャやローマの彫刻は、筋骨隆々のヌードの男性像も多いし、女性像も同様にある。でも、日本において大理石やブロンズといった西洋彫刻にならった作品は、近代以降のものがほとんど。そういうもので思い浮かぶのは、女性の、しかもヌード像の方が多いだろう。
橋本平八《幼児表情》1931年
ちょっと不満げにも見える口元がかわいい、幼児の像。こちらは木彫。
会場配布のパンフレットには、こういう素朴な疑問に答えてくれるQ&Aが載っている。例えば、近代以降のヌードの彫像といって女性がモデルのものが浮かぶ理由については、「スター」彫刻の展示に偏りがちな美術館の責任でもある、と答えている。実際には、女性像と同じくらい男性像も数多く制作され、美術館に収蔵されてもいるという。本企画は、いわば蔵出し展とも言える。
本企画のパンフレット「『男性彫刻』ににじりよるためのQ&A」。なんだか雑誌の付録のような型抜きも印象的。
男性をモチーフにしたものといえば、学校の校庭や街の広場にある偉人の像が浮かぶはず。もちろん、それらは服を着ている。この違いについては、とくに個人をモチーフにしたものは依頼制作のものも多く、モデルの威厳や社会的地位を表す必要があったから、と答えてくれている。西洋彫刻はヌードが基本と言っても、個人の裸をさらすことは、作者にも社会的にも抵抗があったのだ。
白井雨山《たよりなき身》1912年
「弱い男」コーナーには、老人の像が多く展示してある。
ヌードであれ着衣であれ、男性の像が密に集合している様子は、なかなか見たことがない光景。コーナーごとの違いも一目瞭然で、老人の像ってこんなにメジャーだったの!?と、初めて知ることも多い。
男性優位が当たり前だった近代の彫刻家たちは、当時の価値観を利用して、西洋で王道だった裸体彫刻を日本に根付かせもし、逆にそれに縛られもした。それからだいぶ時間が経ち、ジェンダーについての価値観が大いに変わりつつある今、男性像ばかりを集めたこの企画は「男らしさ」とは何か?という問いを、私たちに投げかけている。
【男性彫刻:コレクションによる小企画】
会場: 東京国立近代美術館2階 ギャラリー4
住所: 東京都千代田区北の丸公園3-1
会期: 開催中~2021年2月23日(火・祝)
時間: 10:00-17:00 ※入館は閉館30分前まで(金曜・土曜10:00-20:00)
休館日: 月曜日[ただし1月11日は開館]、12月28日(月)~1月1日(火)、1月12日(火)
※東京国立近代美術館の所蔵作品展の一部として開催中。所蔵品展及び同時開催の「眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで」のチケットで当日に限りご覧いただけます。