24 Dec 2019
台湾在住4年のイラストレーター永岡裕介に訊ねる、向こう側での生活。翔平のもしもし台湾 vol.5

こんにちは。松㟢翔平です。東京は冬真っ只中ですが、南国の台湾では12月頭まではフーディでも過ごせます。11月ごろにはなぜか街中にコートやダウンを着込む紳士淑女が出現。完全なオーバースペックじゃない?と友人に訊ねると「冬服着てお洒落したいでしょ?」という答え。すみません、そうですよね。そんな台湾も12月後半から2月までは結構寒いです。湿度が高いので身体が芯から冷える気がします。
最近は「台湾ではどうやって生活していたのか」と質問されることが増えました。僕は住んでいた時間も短いので、今日は僕よりも何倍も長く台湾で生活し、現地に溶け込んでいる日本人の先輩にお電話してみようと思います。
本日のゲストは….
永岡裕介
イラストレーター、コーディネーター
instagram: @ngkysk
永岡さんは『POPEYE』など日本の雑誌にイラストを寄稿したり、自分でZINEやイラストブックを作って世界各地のアートブックフェアに出展したりしながら、生活拠点を台湾に置いているイラストレーターです。在学期間はかぶっていませんが、僕の大学の先輩でもあります。
Shohei: こんにちは!お疲れ様です!
Yusuke: どうも。元気?忙しそうだね〜。
Shohei: 元気ですよ。最近、台湾での生活について訊かれることが多くて。今日永岡さんにお電話したのは、僕よりちゃんと台湾に住んでいる永岡さんの話の方が参考になるなと思って。
Yusuke: いや、別にちゃんとは住んでないよ(笑)。俺も日本と行ったり来たりだしね。
Shohei: でも、もう結構長いですよね?
Yusuke: そうだねー。今年で4年目かな。俺なんかよりも、こういう生活を長く続けてる人は台湾にはいっぱいいるけどね。
台湾の生活
Shohei: 台湾ではどうやって過ごしているんですか。
Yusuke: 俺の仕事は主にイラストで。たまに雑誌のライターや翻訳、コーディネーターみたいなこともやるんだけど、基本は雑誌やウェブ、ブランドの広告にイラストを描いて、データにして東京に送って、お給料をもらうという感じ。だから台湾では仕事って仕事はしていないんだよね。ビザの問題もあるからね。
Shohei: じゃあ台湾には、本当に住んでいるだけってことですか?
Yusuke: 時々、作家の仲間を集めて、展覧会を開いたりもしているよ。これは台湾でも東京でもやってる。住んでいるだけといえば、そうかも。俺の仕事はどこに居ても出来るから、居心地がいいところに居たいな、という感じ。
Shohei: 台湾は僕も居心地いいです。仕事が遠隔で出来れば、好きな場所にいるのが一番いいですもんね。仕事にとっても、健康にとっても。
Yusuke: 先輩に、長野に家を買った人がいるんだけど、移住した後に自分が寒さに弱いってことに気が付いたらしくて、冬の間だけ台湾に住んでいる人もいるよ。
台湾に住んだ理由
Shohei: そもそもどうして台湾だったんですか?って、これもすごいよく訊かれます。
Yusuke: うん、訊かれるよね。俺は大学を卒業してから会社でサラリーマンをしていたんだけど、業界自体が不況のあおりを受けて荒んでいっちゃって、自分も荒んでいく感じがして辞めたんだ。すごく良い会社だったんだけどね。そのあと2年間くらいは、サラリーマン時代の貯金を切り崩しながら、前から続けてた絵を描くことに今まで以上に時間をかけて、展示会を開いたりもしていて。
Yusuke: そんな中、今の彼女のChou Yiと東京アートブックフェアで出会って。付き合い始めてから、台湾華語(中国語)を勉強するようになったんだよね。最初は師範大学ってところで1ヶ月の短期語学留学とかして。
「国立台湾師範大学国語教育センター」
住所: 台北市大安区和平東路1段162号
Tel: 02-7734-5130
最寄り駅: MRT古亭駅から徒歩10分
Shohei: なるほど、台湾人のパートナーができたから、台湾なんですね。
Yusuke: うん、Chou Yiは大きな理由だね。それと、その時はちょうどアジアの同世代の作る物に興味を持ち始めたころだったんだ。台湾とか韓国とか香港、それに中国とかに同世代で同じ温度感のアーティストやバンドがいるっていうことが、今ほど当たり前に知られている状況じゃなかった気がする。もちろんずっと前から追っかけている人や盛り上がっている人もいたんだけれど、もっと局所的だったと思う。そんな時に台湾のSKIP SKIP BEN BENってミュージシャンが東京の小さなライブハウスに来ているって聞いて、フライヤーを貰ったらすごいかっこよくてさ。ドキッとしたんだよね。それがChou Yiが作ったフライヤーだったの。
Chou Yiの作ったSKIP BEN BENの東京ツアーフライヤー
Shohei: 透明雑誌とかスティッキーライスの全盛期頃ですね。スティッキーライスの馬念先(マーネンシェン)は今年の初め、9m88(ジョーエンバーバー)と共作した曲をヒットさせてましたね。
糯米糰 Sticky Rice – 巴黎草莓
馬念先 & 9m88 – 你朝我的方向走來 Walking Towards Me
Yusuke: やっぱりそれまでは、台湾といえば小籠包とマッサージが有名でみたいなことしか知らなかったから、そういうバンドとかアーティストがいるんだっていうのは衝撃的だった。俺たちみたいな若者が台湾にもいるんだ、みたいな。よくよく考えたら当たり前のことなんだけど。
Shohei: ちょうどそのころは、台湾はひまわり学生運動で、学生たちが国会を占拠していました。
Yusuke: その時も、ひまわり学生運動のための曲とかライブっていうのを同世代のバンドがやったりしているのを見て、台湾って国が若者によって変わっていっているって感覚がすごくあった。そのあとの選挙で国民党が負けて、民進党の蔡英文が女性初の総統になったりしてさ。新しい時代が来るんだって思ったんだよね。
台湾に住んでみて
Shohei: 最初から同棲だったんですか?
Yusuke: そう。Chou Yiが実家を出たいっていうタイミングで、俺も台湾に移って来た。やっぱり生活しないと言葉を覚えられないぞっていう危機感もあったんだよね。使う必要に迫られないと。今はChou Yiと一緒にYY PRESSっていう名前で印刷物を作ったり、各々で作品を作って合同展示をしたりしているよ。毎年1回はアメリカのアートブックフェアに行って出展もしてる。
アメリカのアートブックフェアにて。
Shohei: 台湾のカップルたちは一緒に会社を作ったり、ブランドをやっていたり、永岡さん達みたいに一緒に制作しているってカップルが多い気がします。
Yusuke: そうかな?考えたことなかったけど、恋人であり、パートナーでもあるっていう考えは日本よりも台湾の方が強いかもね。
Shohei: 私も台湾に住んでみたいです、ってDMがめちゃ来るんですよ。
Yusuke: そうなんだ(笑)。これだけインターネットが発達していても来ないとわからないことは多いよね。現地じゃないと見つからない印刷物とか作品集とかいっぱいあるなって思うし。でもさ、最近は『POPEYE』の台湾特集もそうだけど、あの中に、行った方がいい場所がたくさん載っているじゃない?どこに行けばなにがあるっていうのが、最初っからわかってる。だからなのか、理由とか目的を始めに作ってから旅に出る人が多くなった気がするよ。一昔前は、行き着いて台湾なんですとか、なんとなく台湾にだらだらいちゃって、みたいな人が多かった。良し悪しだけどね。
Shohei: 僕も、「台湾行ったことないんですけど、どこに行ったらいいですか」って訊かれたりすると、とりあえず行って自分で色々探したほうが楽しいのになと思います。よく3泊4日とかに予定詰め詰めで来る人がいますけど、いくつかだけ絶対に行きたい場所を決めておいて、あとはのんびり散策するのが楽しいと思うんですよね。台湾は治安もいいし。暖かいから凍死することもないですし。
台湾のオススメのお店
Shohei: じゃあ、ここだけは行っておいた方がいいってところだけ教えてください。って、さっきまで話していたことと真逆のことお願いしちゃう訳なんですが(笑)。「ここだけは行くって決めとこう」っていうリストに入れてもらえたらいいかなって!それと、単純に僕が気になります、永岡さんのお気に入りのお店。
Yusuke: あはは。そうだな〜。普段は台北から少しだけ離れた新北ってところに住んでいるから、台北に出るときはちょっと「観光客」な気分で街を歩いてる。例えば海外から友達が来たときによく連れて行くのは『饞食坊(ツァンシーファン)』ってご飯屋さん。最近、改装して良い雰囲気になってたよ。
Shohei: あ!ここは僕が住んでいた家のすごく近くで、たまに行ってました。確かに汚くないし、変に綺麗すぎず、良い雰囲気ですよね。デートにも使えそう。
「饞食坊」
住所: 台北市信義路4段30巷8弄13-1號
営業時間: 18:00~2:00
定休日: 不定休
Tel: 02-2755-5859
最寄り駅: MRT大安駅 4番出口から徒歩5分
Yusuke: あとは、日本からの観光客でも松山区の富錦街あたりに行く人が多いと思うんだけど、富錦街の外れにあるオールドスクールな中華スタイルのケーキ屋『美心食品 MAXIMʼS BAKERY』が良かったな。ケーキがもちろんオススメなんだけど、ラーメン、チャーハン、排骨飯とか定食の充実っぷりも気になるね……。
「美心食品 MAXIMʼS BAKERY」
住所: 台北市民生東路4段47號
営業時間: 月曜~金曜7:30~20:00、土曜~日曜9:00~20:00
定休日: 年中無休
Tel: 02-2713-8900
最寄り駅: MRT中山國中駅 出口から徒歩5分
Shohei: この前観て面白かった、チェン・ユーシェン監督の『ラブゴーゴー』という映画も、可愛い街のケーキ屋さんが舞台になっていて。ここ、今度行ってみようと思います。パートナーと街をぶらぶらするの羨ましいなあ。
Yusuke: あはは。Chou Yiも俺も好きな場所が似ていて。ちょっとスリルがある場所も好きなんだ。ネットで廟會(お寺のお祭り)の情報をチェックして観に行ったり。大体夜中までやってるから、神出鬼没の屋台で小腹を満たしつつ、爆竹と花火、神様のパレードを堪能したり。そのあとの西門の『珍品養生坊』は定番コースかも。ご飯食べて歩き回った後の体に染み渡るよ。台湾は暑いからかき氷とか冷たいスイーツのイメージだけど、これからの季節はあったかい豆花や小豆湯っていうのも、実は台湾の定番だよね。
「珍品養生坊」
住所: 台北市萬華區漢口街2段46號
営業時間: 11:00~23:00
定休日: 金曜日
Tel: 02-2381-8626
最寄り駅: MRT西門駅 から徒歩10分
Shohei: 楽しそう……。二人の写真が眩しくて涙が出て来ました。
Yusuke: うん、今度一緒に行こうよ!
永岡さんの近況
Shohei: 最近はいかがですか。永岡さんとはずっと行き違いになってしまってますよね。僕が台湾にいるとき、永岡さんは台湾、永岡さんが台湾にいるとき、僕は日本にいるという……。次はお会いできればいいのですが!
Yusuke: そうなんだよね。よくよく考えると春先の台南取材旅行以来会えていないんだよね。最近はベルリンのZINEレーベル〈Re:Surgo! Editions〉から新作ZINEを出したよ。絵以外の活動だと、ソウルの友達の〈Helicopter Records〉と一緒に、香港のアーバンポップスをセレクトしたミックステープを作ったり。「台湾に住んでる日本人がセレクトした香港のポップスのミックステープが韓国のレーベルから出る」っていうのがすごく今の自分ぽくて気に入ってます。日本のレコード屋さんとかにも卸す予定らしいよ。
Shohei: 面白いですね。今度、ぜひ聴かせてください。
Yusuke: うん、1月に東京に行くから、そのときは絶対遊ぼう!
Edit: Aguri Kawashima Cover design: Taro Kambe(PRETEND Prints & co.)