26 Sep 2020
岩井俊二が語る最新映像トピックス:現役大学生の映画監督の新星、松本花奈

たくさんのコンテンツがあふれる今、特にチェックしておきたいことをピックアップ。識者が語る、映像業界のニューウェーブに注目!#最新映像トピックス
学生でありながら
確かな技術力を持った新星
作家の中森明夫さんから「すごい若手がいる」と聞いて、『脱脱脱脱17』を観たのが最初。大人が撮ったような映画で驚きました。僕も学生の頃はプロらしい映画を作りたかったけどうまくいかなかった。学生に足りないのは技術なんです。プロになった今言えるのは、仕事はすべて技術で置き換えられるということ。
思い入れだけでは成り立たないし、感性ですら技術で置き換えられる。現場の技術を身につけるには3年くらいの下積みが必要だけど、どういうトレーニングをしたのか、彼女には技術があった。若い監督だと、物語を支えきれずに手前で映画を終わらせてしまうんですが、15分、20分と真っ当に物語が進んで、主人公以外の環境にも変化が起きる。ああ、最後ちゃんとここまで持ってくるんだ、と。作劇から映像にするところまでしっかりしていましたね。
〝新しい感性〟と言われることが多いと思うんですけど、僕としては〝熟練の技術者〟という感じ。すごい大工が現れた!みたいな衝撃でした(笑)。
画づくりのクォリティも高いんです。最初の登校シーンではちゃんとレール移動がある。学生だと「この現場しか用意できなかったから、仕方なく撮った」というロケーションが多いんですが、ちゃんとロケハンをして探していますよね。自主映画ですから、お金をかけずに交渉を重ねたんでしょう。その底力さえあれば、プロになったらお金が用意されてくるし、全然やっていけると思いましたね。
映画監督という職業は、イベント運営に近いんですよ。ステージなんて見ていられない。裏を走り回って、撮影場所の許可はおりているか、何時間でいくらか、すべてを把握する。時間が押したら、たとえ準備をしていても「次に行きましょう」と判断する。撮影現場の真ん中で画だけ見てるわけにいかないんですよ。そういう些末なことを引き受けることが、作品のクォリティに如実に結びついていくんです。松本さんはそのあたりのコントロールスキルが身についているんでしょうね。
実際にお会いするとクールな佇まいなので、どこからあの底力が出るんだろうといつも不思議です。彼女の存在は同世代にとって大いに刺激になるはずなので、これからのスタンダードが変わるのが楽しみですね。あとは何を作るかだと思うんですけど、そこは常にヴィヴィッドでいてほしい。すでに素晴らしい工具箱を持っているので、新しい水準を切り開いて光り輝いてほしいです。
松本花奈 まつもと・はな>> 映画監督。『真夏の夢』(14)が史上最年少の16歳でゆうばり国際ファンタスティック映画祭に正式出品。最新作『キスカム! 〜COME ON, KISS ME AGAIN!〜』が近日公開予定。
『脱脱脱脱17』(16)
高校生活17年の34歳のノブオと同級生リカコの青春ロードムービー。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016で審査員特別賞・観客賞を受賞。
「Step」(18)
岩井さんが監修、松本さんが監督を務めた、3ピースバンド羊文学のMV。3人が演奏するパート以外に、役者を起用したパートも。楽曲の世界観を活かし、映像重視で仕上げた作品。
Profile

岩井俊二 いわい・しゅんじ
映画監督、映像作家、脚本家、音楽家。『8日で死んだ怪獣の12日の物語』が劇場版として、7月31日より全国のミニシアターにて順次公開予定。
Illustration: Masaki Takahashi Text: Neo Iida