センスのいい6人に長年愛用しているアイテムについて尋ねると、それぞれの思いがこもった話が返ってきた。料理、創作活動、お出かけ…。日常に欠かせない大切な相棒について聞きました。今回はミュージシャンの塩塚モエカさんのストーリーを紹介。
ミュージシャン・塩塚モエカのマイパートナーは“フラワーベース”|長く一緒に過ごすもの vol.5
フラワーベース
塩塚モエカ(ミュージシャン)
ポップな楽曲もオルタナティヴなサウンドも心ざわめく歌詞も聴く人の耳に心にするりと入り込む。3ピースバンド「羊文学」の ギターヴォーカルで、すべての曲づくりも担う塩塚モエカさんが 身の周りに置きたいと思うのは、きれいな色の花と花器。レコーディングの合間に買うこともある、フラワーベースの話。
「何年か前に、テレビで『エデンワークス』の方々の仕事を見て以来、お花屋さんに憧れているんです。『リトル ショップ オブ フラワーズ』の花束があまりにもかわいくて驚いたりもしました。来世ではお花屋さんになりたい」
楽しそうにそう話す塩塚さん。窓際、机の上、宅録用アンプの横など、部屋のあちこちに花を挿したガラスの器が置かれている。
「黄色い模様の入ったグラスは、祐天寺のセレクトショップ『steef』で、サンプル品などが並ぶ〝セカンダリー・ストア〟の日に見つけました。フジグラスというつくり手のものなんですけど、本当は黄色い点々模様ができるはずがこうなっちゃったらしく、めちゃくちゃかわいいと思って買ったんです。アネモネを挿したのは、西原のフラワーショップ『forager』の花器、背が高いのはライヴの時に友達が持ってきてくれたお酒の瓶。脚付きのグラスは、閉店したカフェの食器や家具を売っている西荻窪の『村田商會』のもの。300円だったと思います」
何について尋ねても、どこで見つけたどんな器で、なぜ気に入ったのかがすぐに返ってくる。
「赤い花を入れたのは、西荻窪の『FALL』という雑貨店にあったグラス。すごく気に入ってるんです。〈TERAI craftment〉っていうブランドの帽子作家さんが、時々ガラスの器も吹いている、世界に一個のグラスだよと言われて買っちゃった。モノを買う時は、つくった人のことも気になります。どういう方なのか、ほかには何をつくっているのかを知りたくなるし、それがわかるとうれしいんです」
つくり手という意味では塩塚さんのようなソングライターも同じ。普段どんな気持ちで歌を書いているのかを聞いてみた。
「思ったことを日記みたいな感じで歌詞にすることが多いのですが、後でその歌詞を読んで、救われたりするんです。だから、誰かのためというより、私自身が切実に必要だと感じるものをつくることが、いちばん真摯なのかなって思う。スタートは自分のためでも、ちゃんと向き合ったものは人にも伝わる気がします」
ゆっくりと言葉を選びながら話した後、「今の私に必要なのは部屋に置ける大きな木。寂しい時や不安で眠れない夜は、木に語りかけたい」と、照れたように笑ってからこう続けた。
「木もそうですが、イキイキしたものに囲まれていると気分も変わりますよね。きれいな色の花を置くだけで部屋が明るく見える。好きな音楽さえあれば、代わり映えしない帰り道も気持ちよく歩ける。それがあるだけでありふれた毎日の景色がちょっと豊かになる。そういうものに、美しさを感じます」
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塩塚モエカ
ミュージシャン
ロックバンド「羊文学」Vo・Gt。メジャーデビューアルバム『POWERS』発売中。