『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ 月9)は、田村由美の同名人気マンガのドラマ化。5話で登場し、整(菅田将暉)を新たな事件へと誘っていたライカ(門脇麦)との別れ……。第10話を、ドラマを愛するライター・釣木文恵が振り返ります。オカヤイヅミのイラストもお楽しみください。第9回はこちら(レビューはネタバレを含みます)。
菅田将暉×門脇麦『ミステリと言う勿れ』10話。初めての友達との別れの焼肉
意外なチョイス!だがぴったりのエピソード
原作マンガを愛読していた身からすれば、なかなかに意外なチョイスだった。「episode final」と銘打たれているからには、これまでの整(菅田将暉)の総決算的な、なにか大きな事件が選ばれるのではと想像していた。しかし実際に10話として放送されたのは、焼肉店のエピソード。原作でも1話で完結したものだ。
けれど、こういったエピソードにこそ『ミステリと言う勿れ』の魅力が詰まっている、と言えるかもしれない。整が誰かと出会い、その観察眼で違和感を見つけ出し、真相に近づく。そうやって彼はこれまで事件の解決を重ねてきたのだ。
しかも、今回は整に初めての感情をいくつも教えたライカ(門脇麦)と一緒。ライカも、整同様”気づく人”だ。初詣の帰りにふだん開いていないはずの焼肉店が開いていることに気づき、店に入ってその異変に二人で気づいた。
いつもの『自省録』を使った暗号で話したりしながら、二人はその異変に確信を深め、それはやがて店を乗っ取っていた強盗逮捕へとつながる。バディもののような連携プレイを楽しむこともできた。
同じ経験を共有するライカとの別れ
整が事件と全く関係のないタイミングでライカといっしょに出かけること自体珍しい。整が「デート!?」と戸惑うのも無理はない。いつもより整のコミカル度が高い分、ライカとの別れが悲しい。
初めて人と店で焼肉を食べるという経験、親に虐げられてきた過去。同じように周りを見る目を持っていたライカと整は、同じ経験を重ねている。整がライカに振り回されながらも初めての感情を得たのと同様、整と一緒にいることでライカも楽しい、うれしいという気持ちを初めて感じていた。
けれどもライカは、虐待に傷つき果てた千夜子が生み出した別人格。痛みを受け止めるためだけに生まれた、千夜子が快方に向かうとともに必要なくなる存在だった。この初めての焼肉は、二人にとって別れの焼肉になってしまった。
「ミステリ」らしくない「ミステリ」
焼肉店に刑事とともに引き返してきた整が、刑事たちが強盗を捕まえる直前に話す。
「僕サスペンスドラマとか見ていると、よく不思議なシーンを見かけるんですが。刑事が犯人を見つけると、すごく遠くから声をかけるんですよ、大きな声で。だから当然逃げられちゃうんです。だから常々思ってたんです、どうしてもっと近づいてしっかり捕まえてから名前を呼ばないんだろう、って」
思えば、この「らしくなさ」が『ミステリと言う勿れ』だ。ふつうのドラマのように犯人を走って追い立てたりしない、拳銃も発砲しない、ただの大学生が気づいたことを話しているうちに事件が解決していく。10話は、その象徴のようなエピソードとして「episode final」に実にふさわしいものだったのかもしれない。
ライカに別れを告げられた整は、自分の悲しみを伝えるよりも先に、それがライカの願いがかなうことなのかと確認する。この視点こそが整の持つ得難い能力だ。
次回は「episode2.5」となっている。時間軸としてはバスジャックのあと、爆弾魔に遭遇する前ということになるのだろうか。1話でひとりぼっちだった整は、ずいぶんたくさんの人と出会ったものだ。そしてそのぶん、別れも経験する。一度は別れたかと思った我路(永山瑛太)との再会は、どんなものになるだろう。
脚本: 相沢友子
演出: 松山博昭、品田俊介、相沢秀幸
出演: 菅田将暉、伊藤沙莉、尾上松也、白石麻衣、鈴木浩介、筒井道隆、門脇麦 他
原作:『ミステリと言う勿れ』田村由美/小学館(『月刊フラワーズ』連載中)
主題歌: King Gnu『カメレオン』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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