SEARCH GINZA ID

同時代を生きる人へ、東北から絵と言葉で伝える。「ヨコハマトリエンナーレ2017」最年少アーティスト、瀬尾夏美さん

同時代を生きる人へ、東北から絵と言葉で伝える。「ヨコハマトリエンナーレ2017」最年少アーティスト、瀬尾夏美さん

今回の「ヨコハマトリエンナーレ2017」に参加するアーティストのなかで最年少の瀬尾夏美さん。若干29歳の彼女は、2012年、大学の同級生だった映像作家の小森はるかさんとともに東北に移住した。数年間を陸前高田で過ごした後、現在は仙台を拠点に活動している。

東京出身ながら20代そこそこで被災地への移住を決断し、現在も東北を軸に方々で活躍する瀬尾さん。東北へ移った経緯や、震災との向き合い方、アーティストとしてのスタンスまで、いろいろお聞きしました。

大学生で震災に直面し、移住を決意

「震災が起きた時、私たちは大学生でした。みんなと同じで、これだけの有事に何をするのだ?という美大生なりの自意識があって、最初はボランティアとして現地に入って。そうしたら、「あんたら美大生なら、私の代わりに写真撮ってきてよ」って頼まれたり、体験したことをいっぱい話してくれる人に出会ったりしたんです。そんなニーズがあるのは新鮮だったし、むしろ彼らから役割を与えてもらったと感じた。それで、2011年の4月から月に一回ずつ通って、そこで見聞きしたことを、被災地ではない場所で伝える会を催していました」

彼女たちがやっていた「報告会」は、時間が経つうち「何者としてやっているのか」を問われるようになる。自分たちの役割を考え直した結果、陸前高田で作品を作ると決めた。そして、二人は2012年に陸前高田に移住。ご存知のとおり、そこは津波の被害がとりわけ大きかった場所だ。

「引っ越してみたら、思ったよりも地元の人たちの関係は複雑でした。被災の痛みだけじゃなく社会構造も問題で、そのなかで個人が引き裂かれていく。半端には入れないし、すぐに作品を作る気になんてなれなかった。その間、私は小学校の行事とかを撮る写真屋さんでバイトをしてました。初めて作品を発表したのは、震災から3年半くらい経った2014年の秋です」

R0000357_R

ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景 瀬尾夏美《風景から歌|海のあるまち》2017

二度目の喪失

きっかけは、津波の被害を受けた地域の地面をかさ上げする大規模工事だった。すべて流されてしまった土地でも、もとの家があった場所、亡くなった人がいた場所にはたどり着ける。地元の人々はそこに繰り返しお参りをし、花をたむけていた。それがかさ上げ工事により、埋められる。瀬尾さんは“二度目の喪失”だと感じた。

「もともとあった地面が失われるとなって、やっと自分や小森がメモしてきたものが大事だと気づいて。これを描く作品を作らないと!って強く思いました。陸前高田に住んで3年も経っていたから、地元の人たちとの信頼関係も生まれていて、作品に協力してもいいとか、大事なことだと言ってくれる人が現れたことも大きかったです」

そうやって作られた作品が《波のした、土のうえ》(2014)。陸前高田の風景や出会った人々がもとの土地を訪れる様子、思い出を振り返る姿とともに、彼らから聞いた話を受けて瀬尾さんが書いたテキストがナレーションで流れる映像作品だ。

小森はるか+瀬尾夏美 映像作品「波のした、土のうえ」(2014)予告編

出来事をみんなと共有するために

今回、ヨコハマトリエンナーレ2017には、瀬尾さん一人の名前でインスタレーションを発表した。そこはかとなく震災を想像させる物語と、実在する風景を描いた絵や、ファンタジックなドローイングが入り混じって展示されている。

「今回の展示は、50年後くらい、東日本大震災も知らないような人にその出来事を伝える語りのかたちを考えています。6年経った今ですら、震災の語り直しが進んでいるし、今後もっとフィクションになっていくだろうなと。そうやって改めて書いたお話に、2011年から描いていた過去の絵やドローイングを配置しています」

R0000361_R

ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景 瀬尾夏美《風景から歌|海のあるまち》2017

お話にすることで、人に伝わる可能性が広がる。きっかけとなったのは、『二重のまち』という物語を書いたこと。これは、埋め立てられた土地の下にかつてのまちが広がり、それらをつなぐ道が実は存在するというお話だ。

「『二重のまち』を書いたのは、個別の事象がそのまま終わってしまうのがいやだったから。伝えたいことが、陸前高田だけとか東日本大震災だけの話になってしまうと伝わらないことがある。物語化すると抽象化されて、みんなが共有しやすくなると思う」

それは、ヨコトリの赤レンガ倉庫の会場に展示されている第二次世界大戦を扱った作品にも共通している。

「戦争の体験談は、もう定型ができちゃってる。起きたこと、つらかったこと、最後は平和へのメッセージみたいな。それも大事だけれど、どうも話が体に入ってこない。でも、直接お話しながら、もとの話をほぐしていくと、こぼれ落ちたものがどんどん出てくるんです。体験者ってナイーブなものとか聖人みたいに扱われることが多いけど、そのレッテルをはがして普通の人に戻してあげたときに、誰もが共感できるものになるんじゃないかな」

R0000368_R

ヨコハマトリエンナーレの会場である横浜美術館の図書室では、『二重のまち』の朗読を聞くことができる。ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景 瀬尾夏美《二重のまち》2017

アクチュアルな、今の物語

生身の体験者から話を聞く作業を続ける瀬尾さん。もっと昔の出来事や直接話を聞けない人の体験に興味はある?

「実はあんまりなくて(笑)。それより同時代に興味があるんです。今を生きる人のなかに、ある種のトラウマや痛みを体験する人がいる。それを見ないようにしたり、強引に忘れることもできてしまうけど、それでいいのかな?って。むしろ、彼らと一緒に生きていく社会を追求したい。今の人同士をつなげる回路を作りたいだけなんです」

アーカイブが記憶やトレンドにすらなっている現代アートにおいて、意外過ぎるお言葉。彼女は、これからアクチュアルな物語をどうつむいでいくのか。それはきっと、同時代を生きる「私たちの物語」になるだろう。

R0000356_Rヨコハマトリエンナーレ2017ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景 瀬尾夏美《大きな石のある風景》2017

R0000362_Rヨコハマトリエンナーレ2017展示風景 瀬尾夏美《風穴》(2017) 写真家の畠山直哉さんの展示「風景」の一角に、瀬尾さんのドローイングが。

おまけの話:移住のススメ

現在は仙台在住の瀬尾さん。20代の移住ライフをお聞きしました!

「東北に移住して6年ですけど、東京より住みやすいですね。いわゆるアート業界とかもないので、一緒にやる人と共通の言語がないのは当たり前。コミュニケーション能力が鍛えられます。生活面でも、ある程度の都市ならインフラめちゃくちゃそろってるし、ちょっと移動すれば自然が豊か。産直の野菜は全部100円。鹿もいっぱいいます。全国にも「銀座」と名の付く街はありますし、一度どうですか?(笑)」

R0000352_R瀬尾夏美さん

瀬尾夏美(せお・なつみ)

1988年、東京都生まれ。宮城県在住。東京芸術大学美術学部先端芸術表現科卒業、同大学院修士課程油画専攻修了。土地の人びとのことばと風景の記録を考えながら、絵や文章をつくっている。2012年より、映像作家の小森はるかとともに岩手県陸前高田市に拠点を移す。以後、地元写真館に勤務しながら、まちを歩き、地域の中でワークショップや対話の場を運営。2015年、仙台市で土地との協同を通した記録活動を行う一般社団法人NOOK(のおく)を立ち上げる。主な展覧会に「VOCA2015」(上野の森美術館、東京、2015年)、「クリテリオム91」(水戸芸術館、茨城、2015年)など。小森とのユニットで、巡回展「波のした、土のうえ」「遠い日|山の終戦」を各地で開催。2016年より、陸前高田で編んだ物語「二重のまち」をもって広島を歩きはじめた。

ヨコハマトリエンナーレ2017「島と星座とガラパゴス」
会期:2017年8月4日(金)〜11月5 日(日)
休場日:第2・4木曜日(10/12、10/26)
会場:横浜美術館/横浜赤レンガ倉庫1号館/横浜市開港記念会館 地下ほか
開場時間:10:00-18:00
(ただし10/27〈金〉〜29〈日〉、11/2〈木〉〜4〈土〉は20:30まで/いずれも入場は閉場の30分前まで)
入場料:一般1,800円、大学・専門学校生1,200円、高校生800円、中学生以下無料 ※障がいのある方とその介護者1名は無料
お問い合わせ:ハローダイヤル 03-5777-8600(8:00-22:00)
URL:http://www.yokohamatriennale.jp

*瀬尾夏美さんの作品は、横浜美術館/横浜赤レンガ倉庫1号館に展示してあります。

柴原聡子

建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など

#Share it!

#Share it!

FOLLOW US

GINZA公式アカウント

PICK UP

MAGAZINE

2019年12月号
2019年11月12日発売

GINZA2019年12月号

No.270 / 2019年11月12日発売 / 予価840円(税込み)

This Issue:
ミュージシャンに夢中!

好きなミュージシャン
好きな曲

...続きを読む

BUY NOW

今すぐネットで購入

MAGAZINE HOUSE amazon

1年間定期購読
(17% OFF)