映画館で新作を鑑賞すること、美術館で展覧会を見ること、友達と会うこと……。自粛期間中、これまで以上にデジタルを通してあらゆることをするようになった。少しずつ戻りつつある今も、デジタルに頼らざるを得ない日々は続いている。
埼玉県立近代美術館で開催中の「New Photographic Objects 写真と映像の物質性」は、デジタル技術を多用しながらも、それらメディアの物質性を重視した独自のアプローチをする若い作家たちをフィーチャーしたグループ展だ。
参加アーティストは、迫鉄平、滝沢広、Nerhol、牧野貴、横田大輔。数百枚の写真を積み重ねて切断した断面、くしゃくしゃに折りたたまれたプリントの物理的な襞、映像から立ち上がる観る行為に潜在する触覚的な要素など、それぞれのやり方で、デジタルならではのマテリアリティが浮かび上がらせる。ただ、彼らの作品における特徴的な物質性は、単にフェティッシュなこだわりによるものではない。おのおのが用いるメディアの歴史や特性、機能に鋭く分け入り、それを更新するための戦略によって獲得された性質なのだ。
迫鉄平 《2014年のドローイングブック》 2018年、シングルチャンネル・ビデオ
迫鉄平は、なんでもない光景をとらえたスナップ写真の瞬間を引き延ばしたかのような映像作品で、2015年の「Canon写真新世紀」グランプリを受賞。その後も、複数の瞬間を一枚の写真に畳み込むシリーズなどを展開。「決定的瞬間」から被写体と鑑賞者を解放することを試みる。また、シルクスクリーンやドローイングなど、写真や映像以外の方法でも作品制作するほか、加納俊輔、上田良とのアーティストユニット「THE COPY TRAVELERS」としての活動でも注目を集めている。