映画『ロード・オブ・ザ・リング』の舞台となったホビット村のセットがそのまま現存する。ここマタマタ地区は、オークランドより2時間弱。そんな好立地な場所で、非現実的なファンタジーを堪能できる。©️Ian Brodie
いつか、また世界へ飛び立てる日が来たら、新たな旅の目的地としてニュージーランドはいかが?自然と一体化するコンパクトシティが点在し、アートやカルチャーに対する考えも寛大である。さらには、食やコスメのオーガニック先進地としても有名。フリーダムな空気が流れる国の知られざる魅力を旅の賢者に聞いてみた。
旅人2

佐藤健寿さん
フォトグラファー。世界各地の“奇妙なもの”を対象に、博物学的・美学的視点から撮影・執筆をする。写真集『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)をはじめ、『世界不思議地図』『THE ISLAND – 軍艦島』、『SATELLITE』(朝日新聞出版)、『世界の廃墟』(飛鳥新社)、『奇界紀行』(角川)、『TRANSIT 佐藤健寿特別編集号』(講談社)、『諸星大二郎 マッドメンの世界』(河出書房新社)などがある。
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「オセアニア方面へ撮影に向かう際に、オークランドを経由しました。空港の入国審査で靴に付着しているものを丁寧にチェックする姿を覚えています。固有種の動植物の生態系を守るために、外来種が入ってくるリスクを回避している。豊かな自然を守る意志の強さに触れた瞬間でした。トランジットで1日滞在しただけなので、どこかを撮影することまでは叶いませんでしたが、おだやかな国であることは空気感で伝わってきました。また、ポリネシアとイギリスの文化が共存し、独特のカルチャーを生んでいることも。さらに、フレンドリーな人々ののんびりとしたムードも記憶に残っています。日本でDJ活動をしているニュージーランド出身の友人からも、美しい自然についてよく耳にします。南極に近いエリアに点在する不思議な産物や、かつて火山の噴火によって消滅した街など。僕もいつかその圧倒的な光景を目にしてみたい。ニュージーランドが魅せるユニークな表情を切り取っていきたいです」
Kenji’s Recommendation
1 .ワイトモ洞窟で土ボタルを撮影したい
オークランドから南の内陸に2時間半進んでいくと、神秘的な光景と出会える。3400万年前〜2300万年前の石灰石が水に削られて形成されたワイトモ洞窟。つららのようにぶら下がる鍾乳石もさることながら、土ボタルが放つ青白い光は圧巻だ。「以前旅の途中に寄るつもりでしたが、予定が合わずに断念した場所。自然が織りなすミステリアスな世界をぜひ撮りたいです」
©️ZUMA Press/アフロ
2.モエラキ海岸に点在する不思議な石をカメラに収める
南島・オアマルからおよそ40km離れた海岸に散らばる巨石、モエラキ・ボールダーズ。重さは数トン、高さは2mに及ぶものもある。さまざまな伝説が残るが、科学者の分析によると6500万年前の海底で水晶化したカルシウムと炭素が400万年ほどの年月をかけて徐々に集積し、巨大な丸石が形成されたそう。それから1500万年前に泥石地帯が地上に現れ、雨風や海の浸食作用によって硬い丸石になったとのことだ。「実は、中米のベリーズにも似たようなものがあり、かつては宇宙人が作った石とか言われていました。現代では形成された背景が科学的に解明されていますが、古代の人にとっては神秘的で信仰対象にもなったんじゃないかと思います。その不可思議さがおもしろい。海岸に広がる光景はニュージーランドにしかなさそうで、好奇心をくすぐられます」
©️AGE FOTOSTOCK/アフロ
3.最南端のスロープポイントに生える奇妙な木々を眺める
「世界各地にある不思議な場所を旅した際に、現地の人から話を聞くことがよくあります。そこで感じたのが、人は自然にまつわる不思議な光景に関して、伝説や神様と結びつける傾向があるということ。美しい景色ではなく、自分たちが描くイメージの範疇を超えた現象に因縁を見出している。ニュージーランド南島最南端にある、ここスロープポイントという土地に生える奇妙な木々。これも、数多くの逸話がありそうですよね。なんて、僕自身の想像力も刺激されています」。地球上でも最も強い風が吹く南極大陸の影響をもろに受ける立地にあるため、木は成長の過程でなぎ倒されたように育つ。風がない日もまるで強風に晒されたかのような姿に。
©️Alamy/アフロ
4.カラフルな熱泉地帯ワイ・オ・タプ
マオリ語で「神聖な水」を意味する。タウポ火山帯の活動が活発な地域にあり、景観保護区にも指定。硫黄や酸化鉄、ヒ素などの天然物質によって、黄色やオレンジ色や緑色などの彩りも醍醐味の一つ。温泉地として名高い北島・ロトルア中心地から車で約20〜30分と好アクセスなのも魅力だ。「バヌアツの話になりますが、噴火する火山を見てみたいというコロンブスを地元の人が『聖なる場所だからダメだ』と制したエピソードがあるそうです。このエピソードからエネルギーのある火山は神様そのものだと考えられていたのかも。国や地域に伝わる文化の根源を探ると、最後はその土地固有の自然に行き着く。ニュージーランドの人々にとっても大切なこの場所で、文化のルーツを辿っていきたい」
©️David Wall/アフロ
5.「ウェリントン市立美術館」の屋上にあるオブジェを鑑賞
「先鋭的な作品を、室内ではなく、誰もが目にするパブリックな場所で公開。アートに対するニュージーランドの器の大きさがうかがえます」首都であるウェリントンの新たなランドマークとして注目を浴びる高さ5mの手の甲のオブジェ。人の顔が刻まれていることで、そのインパクトは絶大だ。同国のアーティストであるロニー・バン・ハウトによるもので作品名は「Quasi」。2016年より「クライストチャーチ美術館」で展示。2019年に現在の「ウェリントン市立美術館」へと貸し出されてきた。
©️Getty Images
6.火山の噴火で消えたテ・ワイロア埋没村へ
ロトルア中心地から車で約15分、蘇った村を見ることができる。1886年6月、タラウェラ山の大噴火によってテ・ワイロアの集落は壊滅的に被災。およそ130数年を経た今、村が発掘されて見学できるように。同噴火前は、世界でも有名な観光地であったピンク・テラスとホワイト・テラス(シリカが堆積してできた棚)でガイド役を務めたマオリの人々の当時の暮らしぶりが紹介されている。「日本を含めて太平洋周辺の国は良くも悪くも火山によって大きな影響を受けている。島そのものも、ほとんどは火山から生まれたもので、富士山もそうですが、私たちは火山を囲んで生きているともいえる。一方で、こうした景色を見ると、その対極にある自然の破壊力を思い知らされます」
©️Alamy/アフロ
7.珍しい動物たちをウォッチング:ヴァレーブラックノーズ
まるでぬいぐるみ!? 白×黒の毛が愛らしく、世界一かわいいと評判のヴァレーブラックノーズ。スイスを主な生息地としていたが、ある夫妻が繁殖に成功。以来ニュージーランドを代表する動物の仲間入りを果たしている。「日本でヴァレーブラックノーズが誕生したら、きっとバズると思います。でもニュージーランドでは当たり前の存在すぎて、あまり話題にすらならないそうです。新種を生もうとする計画からも、ニュージーランドの人々と羊は親密な関係であることがうかがえます。そういえば、迷子になった羊が6年後に発見されて、毛が生えっぱなしで超巨大化していたなんて話もありましたね」
©️Juniors Bildarchiv/アフロ
7.珍しい動物たちをウォッチング:飛べないオウム「カカポ」
体重はおよそ4kg。世界で唯一飛べないオウムとされている「カカポ」は、夜行性で敵に見つかると固まって動けなくなる。外来種の流入によって絶滅の危機に瀕していたが、積極的な保全活動が実り、今も存在し続けている。ニュージーランドではカカポをはじめとした固有種を守るために、2050年までに外来種を根絶するPredator freeプロジェクトを遂行中。「珍しい生物や環境をキープしていこうとする姿勢に共感します。ニュージーランドには、たくさんの固有種が存在するので、それを探しに行くだけでも価値があります」
©️Photoshot/アフロ
8.世界で最もクールなマクドナルド!?
北島中央部に位置するタウポには、飛行機型の「マクドナルド」が営業している。1943年にカルフォルニアで製造され、1961年までオーストラリアで旅客機として実際に活躍し、廃棄されたダグラスDC-3型機。その後、ニュージーランド郵便局などを経て、1990年に「マクドナルド」の店舗としてオープン。機体のロゴと座席の追加以外は当時のままだ。「UFOの町として名高い米国のロズヴェルでUFO型の同店を見かけたことがあります。ご当地マックってあるんだ!って感激したのを覚えている。そんな風に観光名所でもなく、地元の人からしたら当たり前の建物や景色の方がずっと心に残っていることって多いんですよ。この飛行機型の店舗もぜひ訪ねてみたい」
©️Alamy/アフロ
9.タラナキ山を空撮したい
「仕事で人工衛星からの景色を切り取るという機会があって、タラナキ山を上空から見下ろした際に均整の取れた円を描く地形にびっくりしました。以来、空撮をしたいと思っている場所です」マオリ語でTARA=山頂、NAKI=輝くという意味を冠した2,518mの山。北島にそびえるタラナキ山は、頂きより10kmが森林保護区となっている。横側から眺めるとその姿は富士山と瓜二つ。そのため映画『ラスト・サムライ』のロケ地にも選ばれた。
©️David Wall/アフロ
10.ティラウの観光センターは必見!
オークランドから車で2時間ほど走っていくと、ギャラリーやアンティークショップに並んで羊と牧羊犬を象った大きな建物が出現!ニュージーランドで建築資材として重宝されているナマコ板(波形にしたトタン)を用いて建てられたユニークな観光施設だ。「個人的に建てたものではなく、街の観光センターとして機能しているのがいい。ユーモアのある土地柄であるということが伝わってきます。何も知らずに遭遇するともっと興奮しそう!」ちなみにこの地では他にもプケコ、カマキリを立体化したものもあるそうだ。
©️Alamy/アフロ
番外編: ホビットの村を訪ねてみたい
マタマタというエリアに、映画『ロード・オブ・ザ・リング』三部作と『ホビット』を撮影するために作られた「ホビトン™・ムービー・セット」。自然と一体化した住居や田園風景は中つの国そのもの!ファンタジックな世界が広がるこの施設を、ガイドとともに巡るツアーなども催行している。
©️Matt Crawford
番外編: ホビットの村を訪ねてみたい
「各地を旅していると洞窟の住居なんかに遭遇することもあります。そんな世界観を人の力でどこまで再現しているのか、以前から気になっていました。とても興味深いスポットです」。本物の草花が育ち、主人公フロドの家や劇中に登場した有名なパブ「グリーンドラゴン」も存在する。
©️Matt Crawford
Text: Mako Matsuoka Edit: Yu-ka Matsumoto