知っておきたい日本の言葉、季節のあれこれ。
ギンザ淑女のニッポン歳時記 涼しい秋の夜は読書にふさわしい「灯火親しむ」
灯火親しむ(とうかしたしむ)
厳しい残暑がいつの間にか過ぎ去り、長雨や風のそよぎに秋の到来を感じると、落ち着いて本でも読みたくなるもの。その気持ちは唐時代から同じだったようで、韓愈(かんゆ)という文人が「燈火稍可親」(灯火ようやく親しむべし)、涼しい秋の夜は読書にふさわしいと説いています。ページをスクロールするスマホやタブレット自体が光を放つ時代になっても、ランプやデスクライトの明かりで、しみじみと本を味わう時間も愛しいものです。
今月の神様
八咫烏(やたがらす)
アマテラスの命令で天上から遣わされたイワレビコ(=のち初代・神武天皇)が地上世界にやってきて、九州から東征(東の方を治める遠征)に出かけました。熊野の険しい山中から大和へと道案内をしてくれたのが、3本足の霊鳥「八咫烏」。「咫(あた)」とは親指と中指を広げた間の長さのことで、これが8つ分の大きな鳥だったのですね。目的地に達する、ゴールに導くという意味から、日本サッカー協会のマークにもなりました。
今月の文様小物
猪鹿蝶のぽち筒(いのしかちょうのぽちづつ)
江戸享保年間(18世紀前半)に将軍家の坊主衆が考案し、城中の女性たちが遊んだ「花かるた」(のちの花札)。賭博の取り締まりで、その後約100年の間、ほぼ禁じられていた遊びは明治期に復活しました。一説には賭博とすぐにわからないように、札に数字を表記するのをやめて、絵を描いたとか。「萩に猪」「紅葉に鹿」「牡丹に蝶」の3枚を全部そろえれば高得点の役がつきました。美しく派手な絵柄なので、今でも親しまれる文様です。
筒状のポチ袋として考案された「POCHI-PON」。蓋を開けるとポン!とおめでたい音がなる。POCHI-PON *3個入り ¥1,320 *税込み(大成紙器製作所)
今月の和菓子
木守(きまもり)
秋も深まる頃、葉がすっかり落ち、実もほとんど取り尽くされた柿の木に、赤々と熟した柿が1個だけ残っている、その柿のことを「木守」と言います。ひとつだけ実を残しておくことで、来年もまたたくさん実ることを願ったのです。針金のように伸びた裸木にポツンと残された柿の実は、日暮れの早い晩秋の空に灯った明かりのようにも見えます。
白餡に生の柿をすり下ろしたものを加え、橙色の求肥で包んだ。木守 ¥360*税込み(御菓子処さゝま)
Photo : Hiromi Kurokawa (wagashi), Natsumi Kakuto (komono) Illustration: Hisae Maeda Text&Edit: Mari Matsubara