01 Jul 2020
ギンザ淑女のニッポン歳時記 夏の風物詩「釣り忍」って知ってる?

知っておきたい日本の言葉、季節のあれこれ。
今月の言葉
釣り忍
苔玉アートの元祖とも言えるのが江戸時代からの夏の風物詩「釣り忍」。割り竹に山苔を巻きつけたものに、シノブというシダ科の植物の根茎を巻きつけて、葉を出させて軒先につるします。シノブとは水が少なくても耐え忍ぶことからきた名前だとか。井桁や帆かけ船など意匠を凝らした形に組まれた土台から青々とした葉が伸びる様子はいかにも涼しげ。視覚で涼を呼ぶ心意気を持ち続けたいものです。
今月の神様
海神
日本の国を生み出した夫婦神、イザナギとイザナミの間に生まれた大勢の子の1人がワタツミ。「ワタ」とは古い言葉で「海」を意味します。深い海の底に、魚のうろこを敷き詰めたような屋根を持つ宮殿に住み、海の世界を司っています。ある時、地上の神ホオリが、誤って海中に落としてしまった釣り針を探しに来たところ、ワタツミは海の魚をすべて呼び集めて、1匹の鯛の喉に刺さっていた針を見つけてくれました。海のように寛大な心を持つ神様なのです。
今月の文様小物
青海波べこ
寄せては返す波の情景を、同心円が連なるグラフィカルなモチーフにデフォルメした「青海波」は、古くからある伝統模様です。水という捉えどころのない存在を視覚的に表し、デザインにまで昇華させてしまうセンスに脱帽です。永遠に反復する波模様で、好機が途切れることなく続く幸福を願いました。この文様を描いた特別な「べこ」を発見。「べこ」は会津伝統の民芸玩具で、紙と胡粉でできた張り子の牛。本来は赤い色をした「赤べこ」がスタンダードです。
青海波べこ 2号 H7.5×W11.5×D5cm ¥2,750*税込み(野沢民芸)
今月の和菓子
糸巻
餡入りの葛羊羹に糸状の筋をつけたういろう生地を縦横にかぶせた上生菓子。これは機織りに欠かせない糸巻きの形を表しています。糸巻きと聞けば連想するのが「七夕」。なぜかって?織姫(織女星)は機織りが得意で、七夕祭の原型である中国の乞巧奠(きこうでん)では笹の葉とともに五色の糸や反物を供えて、女性の手芸・裁縫の上達を祈った、そういう経緯があるのです。店によって色や形の表現は異なりますが、「糸巻」の和菓子を店頭に見かけたら、ああ、もうすぐ七夕だなと気づかされるのです。
糸巻 ¥540*税込み*7月1〜7日限定販売(末富)
Photo: Yuji Ono (itomaki), Chihiro Oshima (seigaihabeko) Illustration: Hisae Maeda Text&Edit: Mari Matsubara
GINZA2019年7月号掲載