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耳を済ますと聴こえてくる、名のない無数の物語。音楽家OLAibiさんが森の中で作った 5年ぶりのソロアルバム 『みみはわす』

耳を済ますと聴こえてくる、名のない無数の物語。音楽家OLAibiさんが森の中で作った 5年ぶりのソロアルバム 『みみはわす』

鳥取県の名峰、大山の麓の森の中に音楽家OLAibiさん一家は暮らしている。空間や家具のデザイン・制作を手がける夫と、コーヒーを淹れる息子と、豆柴のハナとトト、3人2匹暮らし。自然の赴くまま森はほとんど手つかずで残されていて、一家は森で小さなアトリエ<HUT sbalcodesign>を営んでいる。地元の人たちは親しみを込めて、その森を〝HUTの森〞と呼んでいる。

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長い東京での暮らしを離れ、一家が大山の森に住まいを移したのは4年前のこと。森を切り開き、小屋を建て、すべて自分たちの手で暮らしを整えてきた。何もないところから作り出す生活を送るうちに、彼女の音楽とのつき合い方も変わったと言う。長年在籍したロックバンドを辞め、1年間、音楽との付き合い方を考えた。「初めて音楽が鳴らない日々の暮らしに、気持ちが少し伏せていた」と、OLAibiさんは言う。その時、夫と息子は、“音楽の家”を建てることにした。高い天井のシェルターには大きな窓があり、防音設備はなく、鳥の声も草刈り機のモーター音もすべて筒抜け。だけど、不思議な静けさと温かさのある空間。

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「初めて森で音を出したら、なぜだかそれまでのような大きな音が出せなかったんです」と、OLAibiさんは振り返る。

 

ーー森の中で暮らしていると、耳を這わすよな感覚がある。鳥の声が聞こえてきたり、カサカサっという葉っぱの音に風を感じたり、遠くの雷の音を聞いて、あ、雨が来るかな、と想像したりーー。

思うままに音を鳴らし、向き合ううちに、一つの物語を作ろうと考えた。

耳を這わせていると聴こえてくる、名のない、無数の物語。

『みみはわす』

それが、この物語の題名。

小さな太鼓の音、カセットテープ、古いミニ鍵盤、そして声。

夜の10時、耳を澄ませても聞こえるか聴こえないかくらいの小さな音で録音された、40分間1曲の物語。

 

風が吹くように耳をかすめていく優しい鍵盤音。その先に聞こえてくるささやき声、心をくすぐるような軽やかな太鼓のリズム。

トゥクトゥク、カサカサ、ポ〜ン、コツ・コツ。

森の光や鳥のさえずりを感じ、自然と調和していたと思ったら、ページをめくるように、突如、まったく別の世界へ連れて行かれる。薄いベールのように何層にも折り重なりあう音は脳の中で溶けあい、時空を超えた旅物語を聴いているよう。それは、ある人には耳元で囁きかける子守唄のようだったり。ある人には、朝陽とともに1日の始まりを告げる始まりの歌のようだったり。聴く場所、聴くたび、聴く人によっていくつもの物語を紡いでいく。

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『みみはわす』

OLAibiが5年ぶりに完成させたソロアルバムは、森の中に建てた音楽小屋で録音した40分間1曲の音楽。小さな太鼓の音、カセットテープ、古いミニ鍵盤、そして声が生み出す、無数の名のない物語。日本各地でリリースライブなども開催予定。2,800円。

OLAibi

おらいび/太鼓、ドラム叩き、歌をうたう音楽家。2006年、ファーストソロアルバム『Humming moon drip』を発表。2012年発表のサードアルバム『new rain』では、ハナレグミ、カヒミカリィ、オオルタイチら異種多様なアーティストと競演。2013年に鳥取県大山の麓の森の中に住まいを移し、長年ドラマーとして在籍していたロックバンドOOIOOを脱退。ライブ活動や音楽制作をしながら不定期オープンのアトリエ<HUT>も運営。http://olaibi.com

Text: Chisa Nishinoiri

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