ベル・エポック(良き時代)とも呼ばれた世紀末のパリ。キャバレーやダンスホールといった娯楽・大衆文化が花開き、裕福なエリート層のためにあったアートが、庶民が道行くストリートにあふれていった時代。三菱一号館美術館で開催中の『パリ♥グラフィック―ロートレックとアートになった版画・ポスター展』は、そんなパリの街角を彩った版画やリトグラフ、ポスターといったグラフィックが主役の展覧会だ。
『パリ♥グラフィック』展会場風景 会場の一部では、当時の流行り歌がBGMとして流れている。世紀末パリ雰囲気たっぷりの演出がにくい。こちらの展示室は撮影OK。
キャバレー、ムーラン・ルージュ
街角やお店、キャバレーに貼られるポスターのグラフィックを担っていたのは、新進気鋭の画家たち。トゥールズ=ロートレックやボナール、ヴュイヤールなど、その後の近代絵画にも大きな影響を与えるアーティストたちが、こぞって手掛けていたのだ。
とりわけ人気だったキャバレーがムーラン・ルージュ。家賃が安いと庶民が住んだモンマルトルは、このキャバレーのおかげで一大歓楽街に。アーティストたちは、そこに集う人々や舞台の踊り子や芸人たちを熱心に描いた。
エリートからストリートへ
何枚もの絵が簡単に刷れるリトグラフは、一点ものが当たり前だった絵画にとってあまりに画期的なメディアだった。今で言えばSNSなんかが登場したようなもの?新しいツールを手に実験しまくるアーティストたちのギャラリーはストリートに移ったというわけ。
人々がわいわいと行き交い語り合うパリの風景は、画家も描きたくなる魅力的な街だったのだろう。
エドゥアール・ヴュイヤール《街路(風景と室内)》1899年 多色刷りリトグラフ アムステルダム、ファン・ゴッホ美術館
浮世絵の影響も?
このリトグラフは、色を何回も重ねて刷る技法。展示では、刷りを重ねるプロセスがわかるものもあるので、お見逃しなく。よく見ると、派手な色使いや、モチーフの描き方が、どことなく浮世絵っぽさを感じるものも多い。当時パリではジャポニスムが大人気。その流行とリトグラフが出会って、浮世絵風の作品が生まれたのかもしれない。なかには《エッフェル塔36景》なんていうタイトルがついた作品も!
『パリ♥グラフィック』展会場風景 写真右手のように、衝立にした作品まで登場。
日常とアートがつながるとき
アートがストリートにあふれ、ふつうの人々が街を歩くだけでアートに触れていた一方、お金持ちたちは、カーテンや壁紙から家具まで、日常をアートでうめつくそうとした。その欲望が高まり、その後版画はコレクターズアイテムや富裕層の愉みになっていく。
そんな日常の何気ない風景を捉えたシーンの連作もおもしろい。ラブルールという作家の『化粧』という連作には、朝起きてから身支度をする女のフツーの様子が淡々と描かれている。足のタコを見るとか、床に落ちたピンを拾うとか、裸で髪を梳かすとか。女性なら「あるある」と頷いてしまうシーンばかり(どんな作品かはぜひ会場で見てみて!)。
ヴァロットンは、室内の親密さや後ろめたいシーンを描くのがほんとうにうまい。深い陰影に背徳感が漂う。
BGM効果もあいまって、世紀末パリのワクワク感が楽しめるこの展覧会。美術館の外に出れば、クリスマスシーズンのイルミネーションでキラキラした丸の内。鑑賞後のお散歩もあわせて冬のパリ気分を味わってみて。
『パリ♥グラフィック―ロートレックとアートになった版画・ポスター展』
会期: 10月18日(水)~ 2018年1月8日(月・祝)
会場: 三菱一号館美術館
住所: 東京都千代田区丸の内2-6-2)
開館時間: 10:00~18:00(祝日を除く金曜、11/8、12/13、1/4、1/5は21:00まで)※入館は閉館の30分前まで
チケット:一般1,700円、大学生1,000円、小中学生500円(事前購入はこちらから)
月曜休館(但し、1/8と、「トークフリーデー」の11/27(月)、12/25(月)は開館)、年末年始休館:2017/12/29~2018/1/1
お問い合わせ 03-5777-8600(ハローダイヤル)