箱根にあるポーラ美術館で、開館20周年を記念する展覧会「ポーラ美術館開館20周年記念展 モネからリヒターへ―新収蔵作品を中心に」が開催されている。2002年9月6日に開館したポーラ美術館は、ポーラ創業家二代目の鈴木常司(1930-2000)が戦後約40年をかけて収集したコレクションを基盤として、さまざまな企画展を開催してきた。とくにモネやルノワールといった印象派のコレクションは多くの人を魅了してきた。
19世紀末から現代へ。箱根の森で、アートを辿る 「ポーラ美術館開館20周年記念展 モネからリヒターへ―新収蔵作品を中心に」
クロード・モネ 《睡蓮》 1907年 油彩/カンヴァス 93.3 x 89.2 cm
近年は、従来のコレクションに加えて20世紀から現代までの美術の展開を跡づける重要な作品の収集を行っている。なかでも、2020年にゲルハルト・リヒターの作品をオークションで落札したことは大きなニュースになった。2022年現在、収蔵点数は全部で約1万点(!)になるという。本展覧会は、鈴木常司が収集したコレクションと、近年新収蔵した作品を合わせて紹介する、初の機会となる。
ゲルハルト・リヒター 《抽象絵画(649-2)》 1987年 油彩/カンヴァス 200.7 x 200.8 cm © Gerhard Richter 2021(20102021)
「光」をテーマに、珠玉のコレクションを紹介
19世紀後半から現代まで、多岐にわたる展示作品に通底するテーマは、「光」だ。クロード・モネをはじめとする印象派の画家たちが、光の表現を追究することで独特の絵画を切り拓いたことは有名な話。ポーラ美術館が箱根にあるのも、印象派が多く描いた豊かな自然を感じながら、寛いだ雰囲気で鑑賞できる場所を求めたからだという。
展示風景
また、現代の作家たちの作品にも光への強い関心がうかがえる。シャイン(光、仮象)を表現し続けるゲルハルト・リヒター、光の色そのものを写し撮る作品を展開する杉本博司、ネオン管を用いたケリス・ウィン・エヴァンスの作品など、彼らが表す「光」は造形的な意味に留まらない。現在を照らし出す「光」、あるいは私たちが持続可能な未来へと進むための道標となる「光」をも内包していると言えるだろう。
杉本博司の作品が並ぶ展示室
本物の作品を見ながら、近代美術の歴史を辿る贅沢
展覧会は2部構成となっており、第1部では、鈴木常司が収集したコレクションと、これをさらに拡充する新収蔵作品を、テーマや時代、作家ごとに組み合わせて紹介している。ルノワールやセザンヌ、マティスなど近代絵画の巨匠たちの作品はもちろん、日本の近代洋画も充実。大正の洋画(岸田劉生、村山槐多、関根正二)や日本のフォーヴ(里見勝蔵、佐伯祐三)、その他、レオナール・フジタ(藤田嗣治)や松本竣介、坂本繁二郎などが並ぶ。
レオナール・フジタの作品。乳白色の女性の肌の表現は、フジタの真骨頂
注目したいのが、印象派の女性画家ベルト・モリゾ。身近な人物や風景を主題として制作し、自分なりの表現を追求した作家だ。今回出品される《ベランダにて》は、陽光溢れる邸宅のサンルームで、机に向かい花らしきものを手にしている画家の一人娘ジュリー・マネの姿が、明るくやわらかな色彩と素早い筆致で描かれている。モリゾはマネの弟と結婚したので、この少女はマネの姪にあたる。
ベルト・モリゾ《ベランダにて》1884年 油彩/カンヴァス 81.0×100.2 cm
女性作家の作品も充実のラインナップ
ずっと男性中心だった美術界だが、近年はジェンダー意識の変化に伴い、女性作家への注目も高まっている。先に紹介したベルト・モリゾはもちろん、田中敦子や三島喜美代、ブリジット・ライリー、ヘレン・フランケンサーラーなど、現代美術において重要な役割を果たしてきた女性作家の作品もぜひ堪能してほしい。
今年3月まで開催されていたロニ・ホーン展の作品も一部新収蔵となり、森の遊歩道に設置。新緑の中に佇むガラスの彫刻は、秋から冬にかけて行われた企画展の時とはまた違った表情を見せている。
キュレーションの妙も楽しめる第2部
展覧会の第2部では、従来のコレクションには含まれていない、近代と現代を結ぶ作家たちの作品を紹介。山口長男、山田正亮、猪熊弦一郎らの戦後日本の抽象絵画、ジャン・デュビュッフェ、斎藤義重、李禹煥、白髪一雄、中西夏之らマティエール(材質感)を探究した画家たち、そしてモーリス・ルイスやゲルハルト・リヒターら欧米の作家たちによる抽象絵画など、戦後の重要な作品が見られる。
左が李禹煥の作品、中央と右が白髪一雄の作品
また、現在も活躍する作家の作品も充実。ゲルハルト・リヒター《抽象絵画(649-2)》は約2メートル角という大きさ。幅が3mもある大型作品も展示されていて、見ごたえたっぷりだ。また、リヒターのフォト・ペインティングのシリーズと、「北欧のフェルメール」とも称されるヴィルヘルム・ハマスホイの作品を並べた展示室など、意外な組み合わせも楽しめる。
ハマスホイ(左)とリヒター(右)の絵画が並ぶ展示室
1日では見切れないボリューム!
本展は、館内の5つの展示室、2017年に新設された現代美術を展示するアトリウム ギャラリー、ロビー空間、森の遊歩道にいたるまで作品を展示。開館以来最大規模となる超大型企画となっている。総展示点数は約120点。一日で見切れないほどのボリュームだ。従来は印象派をはじめ、クラシックなものが多いイメージだったポーラ美術館だが、最近はロニ・ホーン展がSNSで話題になるなど、来館者も幅広くなってきているという。
展覧会のタイトルにある通り、モネからリヒターまで、この百数十年で美術はとんでもなく変化した。近代から現代まで網羅した本展は、どの世代にとってもなじみ深いもの/新鮮なものがある。展覧会は9月まで。温泉旅行がてら、2世代3世代で訪れてみるのはどうだろう。
以上、展示風景写真すべて ©Ken KATO