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パリの下町で花開く、恋と友情と音楽の映画5本。『ルネ・クレール レトロスペクティブ』を解説

パリの下町で花開く、恋と友情と音楽の映画5本。『ルネ・クレール レトロスペクティブ』を解説

フランスの巨匠、ルネ・クレール監督。無声映画からトーキーへ、映画技術が目まぐるしく発展していく時期に活躍し、映画の原点を作ったといわれる人物です。彼のモットーは「映画は人を喜ばせるのを第一にすべき」。歌や笑いをたっぷり盛り込みながら、パリの下町を舞台に恋や友情を描き、ユニバーサルな魅力を備えた映画を多く残しました。チャールズ・チャップリン、小津安二郎監督ら、名だたる映画人に影響を与えたといいます。

クレール監督の没後40周年を控え、トーキー初期の4作品と円熟期の注目作を4Kデジタル修復版で観られるレトロスペクティブが、10/15より新宿武蔵野館ほかでスタート。古い映画だからといって、食わず嫌いしてはもったいない。衣装の着こなしや美術の名人芸に至るまで、上映作の魅力を解説します。


『巴里の屋根の下
4Kデジタル・リマスター版』
いわゆるパリのイメージを確立した1本

ラリー・クラーク監督が『The Smell of Us』(14)でパリのスケートカルチャーを取り上げたり、〈アミ アレクサンドル マテュッシ〉などリアルクローズを展開するブランドが躍進したりと、今でこそヒップな印象もあるパリ。とはいえパリと聞いてまず思い浮かぶのは、『アメリ』(01)で描かれていたようなノスタルジックな下町の風景だったりするが、そのイメージを決定づけたのは『巴里の屋根の下』(30)だという。

キーパーソンは、美術監督のラザール・メールソンと、撮影監督のジョルジュ・ペリナル。クレール監督にはロシア革命を逃れてパリに亡命したロシア人の映画人たちとの親交があり、メールソンもその一人だった。この作品に登場するパリの街並みは、実は全編にせもので、メールソンによるセットだ。一見リアルだが、目をこらすとたしかにトロンプルイユのように少しいびつで、それが味になっている。そんなセットをペリナルがクレーンショットで自在に捉えていったわけだが、彼は後に『悲しみよこんにちは』(58)の撮影も手掛けた人物。二人が生み出したパリ像が、ルネ・クレール作品のシグネチャーになり、ひいては街のイメージも確立した。

実は、『巴里の屋根の下』はフランス初のトーキー作品。クレール監督は、夜のシーンであえて画面を真っ暗にした状態で男女の会話を聴かせるなど、音と映像を交替的に使う、当時としては新しい手法を多く試みた。

『ル・ミリオン
4Kデジタル・リマスター版』
音と映像の融合が素晴らしいコメディ

主人公の貧乏画家ミシェルは、家賃を半年滞納し、食料品店のツケも払えていない体たらく。そんな彼が宝くじに当選し、億万長者になった……と思いきや手違いで、ポケットにくじを入れておいたジャケットが、チューリップおやじの手に渡ってしまう。彼は表向きは古道具屋の店主だが、実は富裕層からお金を奪う義賊団の親分だ。白鳥の剥製やら中世風の甲冑やら、盗品であろう品々が雑多に並ぶ、その古道具屋を訪れるのは、オペラ歌手のソプラネッリ。パリ・オペラ座での公演のためにNYからやってきた彼は、件のジャケットを舞台衣装として購入する。

一癖ある登場人物たちが、目がくらむほどのスピードで巻き起こすドタバタが見どころで、音と映像が巧みに組み合わされている。たとえばオペラ座の舞台裏での、ジャケットの争奪戦。ミシェル、彼の友人、義賊団、オペラ座のスタッフらが各々ジャケットを追い、タックルし合うは、スクラムを組むは。「ラグビーみたい」と思っていると、本当にホイッスルの音やスタジアムの歓声が聞こえてくるというギャグだ。

オペラ座の豪華絢爛な舞台上でのシーンも見応えあり。ミシェルの婚約者で、フィンガーウェーブがお似合いのベアトリスはオペラ座のバレエダンサー。エドガー・ドガが描いた絵のような、クラシカルなチュチュ姿も楽しめる。

『自由を我等に
4Kデジタル・リマスター版』
あのチャップリンが真似した?風刺劇

富裕層が支配し、機械化が進む資本主義社会への批判が込められた風刺劇でありながら、『ル・ミリオン』に輪をかけたコメディっぷりの本作。チャップリンの名作『モダン・タイムス』(36)に影響を与えたといわれ、これを映画会社が剽窃だとして訴訟問題に発展。しかし当のクレール監督が「敬愛するチャップリンに模倣されたとしても非難するつもりはない」と述べ、ことなきを得たそう。

抜け目ないルイは脱獄後、巨大な蓄音機会社の社長にまで出世し、モダニズム的なデザインの工場を建設。そこでは工員たちが、一日中ベルトコンベアーの前に座ったまま、蓄音機を組み立て、食事も摂る。不気味なほど単調な生活は、まるで囚人のよう。だがルイの刑務所仲間でドジなエミールが、出所後にその工場で働き始め、ドタバタと引っかき回していく。全編を通し、ルイとエミールは何度も「自由を我等に!」と歌う。“自由”はお金によってしか得られないのか、それとも……? 圧巻なのが、風で舞い上がった無数の紙幣を、裕福な紳士たちが必死に奪い合うシーン。公開から80年後の今にも通じるアイロニーだ。

ルネ・クレール作品の女性キャラには親しみやすい下町っ子が多いが、本作に登場するルイの妻は例外。マーメイドラインのイヴニングドレスや、ファーのショールカラー&カフスなど、当時最新の流行を取り入れた、社長夫人らしい優雅な衣装が目を引く。

『巴里祭
4Kデジタル・リマスター版』
喜劇と悲劇が絶妙に入り混じった「傑作」

本作により「パリ祭」という呼び名が日本で広まった、7月14日のフランス独立記念日。その前夜から始まるラブストーリーだ。街中に提灯が灯り、酔っ払った楽団が演奏する中、路上でダンスパーティが繰り広げられている、お祭り気分のパリ。密かに両思いだったジャンとアンナは、にわか雨をきっかけにキスを交わし、幸福の絶頂に。しかしジャンの家へ昔の恋人ポーラが気まぐれに現れたことで、ジャンとアンナは決定的にすれ違ってしまう。

ジャン=リュック・ゴダール監督が本作に捧げた『女は女である』(61)では、ジャン=ポール・ベルモンド演じるアルフレッドが「これは悲劇かい? 喜劇かい?」と言う。このセリフがほのめかすように、『巴里祭』(33)は公開当時から、喜劇と悲劇が自然なかたちで共存しているとして絶賛され、戦前のクレール監督の最高傑作といわれている。

可憐なアンナには『ル・ミリオン』のアナベラ、妖艶なポーラには『巴里の屋根の下』のポーラ・イレリと、ルネ・クレール作品を代表する女優同士が共演。衣装にも対照的な役の性格が表れていて、アンナはドット柄のワンピースなど、ガーリーなムード。ポーラは当時流行中のサテンを用いた、デコルテの開いたパフスリーブドレスなど、洗練された印象だ。帽子を斜めに被ったり、大ぶりなネックレスをしたりと小物使いもこなれているので、ファッション対決はポーラの勝ち?

『リラの門
4Kデジタル・リマスター版』
もの哀しい下町の情景を描いたドラマ

「Porte de Lilas(リラの門)」というメトロ駅は、今もパリの北東部にある。20世紀初頭までその辺りに、パリを囲む市壁の門があったことから名づけられたそう。賑やかな下町が描かれていたほかの4作品とは違い、クレール監督の円熟期に撮られた本作の舞台はパリの隅っこの、どこか寂しい下町だ。

中心人物は、ろくに仕事もせず飲んだくれているジュジュと、彼の友人で「芸術家」と呼ばれている酒場歌手。二人はある日、芸術家の家に逃げ込んできた、指名手配中の殺人犯バルビエを匿うことに。単純なジュジュは、おしゃれで色男のバルビエをヒーロー視し始める。フィルター付きのイギリス煙草を吸う理由を、「唇が汚れるから」と答えたバルビエのキザな言い回しをそっくり真似するほど。二人は奇妙な友情で結ばれていく。ただし、ジュジュが淡い恋心を寄せている、酒場の娘マリアとバルビエが鉢合わせるまでは……。

ジュジュと違い、バルビエに懐疑的な芸術家を演じたのは、フランスを代表するシャンソン歌手のジョルジュ・ブラッサンス。劇中では『Au bois de mon cœur(わが心の森には)』、『L’amandier(アーモンド)』、『Le vin(酒)』といった、ブラッサンス自身の名曲をギターの弾き語りで哀愁たっぷりに披露。芸術家の飼い猫も、何気に登場頻度が高くてかわいい。実は猫好きにたまらない映画かもしれない。

『ルネ・クレール レトロスペクティブ』

<映画の原点を作った4大巨匠の一人>といわれるルネ・クレール。26歳の若さで、写真家マン・レイや画家マルセル・デュシャン、音楽家エリック・サティらとシュールレアリスム短編映画『幕間』(24)を発表、映像と音楽の大胆なコラボレーションを試み、世界を熱狂させた天才作家だ。没後40周年のメモリアルイヤーに、トーキー初期の大ヒット4作品と円熟期の傑作が、4Kデジタル修復版でスクリーンに蘇る! 耳に残る歌声とユーモアたっぷりの大らかな恋と友情の物語が、優しく心に響きわたる――。

10月15日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開
配給: セテラ・インターナショナル

公式HPはこちら

Edit&Text: Milli Kawaguchi

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