初台の東京オペラシティ アートギャラリーで開催されている『単色のリズム 韓国の抽象』。韓国固有の表現として確立し1970年代に発展した「単色画(ダンセッファ)」と、その流れを汲む現代の作品までまとまって見られる展覧会。欧米の動向を取り入れながらも、東洋的な精神性をたたえた表現が高い評価を受けている。
こういう抽象画をどう見たらいいかわからないという声も多い。そんな人に思い出してもらいたい。例えば一面に稲穂が揺れる景色に私たちはリズムを感じる。延々と広がる砂漠にロマンを抱いたりもする。風景を見るように画面を見てみよう。視覚で感じているはずなのに、じわじわとからだのなかにリズムが生まれてくるはず。しんとした展示室のなかで、絵が奏でるリズムは、ふわふわと、ときに凛と、いろいろなヴァイヴスをもたらしてくれる。
例えば単純なストロークの繰り返しが印象的なこちらの作品。白い絵の具を塗った画面が乾ききる前に、ひっかくように鉛筆で線を描く作業を繰り返す。気の遠くなるようなその作業は、修行のようなストイックさとは裏腹に、心が静かに落ち着いていくような感覚をうける。
朴栖甫(パク・ソボ)《描法 No.27-77》1977年 油彩、鉛筆、キャンバス 194.4 × 259.9cm 福岡アジア美術館蔵
上の画像と同じ作品の部分アップ。鉛筆で削った筆跡が見える。
リズムだけじゃない。色や素材の使い方、ミニマルさに美しさに、オリエンタルとかエキゾチックな魅力というよりも、ぐっと私たちの感覚になじむものを感じる。
和紙に近い質感の韓国の紙(韓紙という)を使ったこちらの作品。韓国でも障子などにはこの韓紙を使うらしく、同じかたちの繰り返しなのに、手の痕跡がわかるちょっとした違いに温かみを感じる。
権寧禹(クォン・ヨンウ)《無題》(部分)1982年 韓紙 157.0 x 122.0cm 個人蔵、シアトル Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo
最近海外でも再評価が高まる「もの派」の主要メンバーの一人であるアーティスト、李禹煥も今回出品している。青一色の筆のストロークが微妙なニュアンスの変化とともに繰り返される代表作は、作家自身の韓国で過ごした幼少期の書の練習がヒントのひとつになっているそう。幼少期に同じ漢字を何度も書かされた記憶は私たちにもなじみ深いものでぐっと親しみがわいてしまう。
李禹煥(リ・ウファン)《線より #80066》 1980年 岩絵具,膠,キャンバス 広島市現代美術館蔵
麻布にブラウンの絵の具が滲んだこちらの作品。タイトルのとおり、深い青と茶の絵の具は大地と水、空を表しているという。このような抽象的なイメージに自然への深い意識が表れるところに、東洋の自然観を感じる。
尹亨根(ユン・ヒョングン)《Umber-Blue 337-75 #203》1975年 ほか
今回は作家ごとにまとめて展示されており、おおよそ年代を追って並べてある。展示室からは次の部屋にある作品が少しだけのぞく。異なる絵画でも、どこかつながるリズムがあって、絵画がエンドレスに続くように感じられる。そのたおやかな流れもまた、この単色画が与えてくれるものに近い。
『単色のリズム 韓国の抽象』展示風景
これは余談だけれど、この展示を観ていて、なんとなく「肌理」という言葉が浮かんできた。アジアの女性はメイクのなかでも、とくに肌理に敏感な気がする。艶感、マット、美白、あえてのナチュラル感……。一見単調に見えて、実は微妙な肌理にこだわって作られる絵画を見るのに、日々スキンケアやメイクにかける微差の感知能力がどうも発動しているように思ってしまい、そんなところにも親しみを感じてしまうのだった。
本展、行くと必ずカタログのような立派なハンドブックがもらえるのもうれしいところ。ぜひ足を運んでみて。
『単色のリズム 韓国の抽象』
会期:2017/10/14(土)〜12/24(日)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
11:00─19:00(金・土は20:00まで/最終入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日
入場料:一般1,200円/大・高生800円/中学生以下無料
http://www.operacity.jp/ag/exh202/
*同時開催「収蔵品展060 懐顧 難波田龍起」、「project N 69 三瓶玲奈」の入場料を含みます。
*障害者手帳をお持ちの方および付添1名は無料。
*本展は毎週日曜撮影可能!(著作権等の都合上、一部撮影いただけない作品もあります)