長いお休みはお家でゆっくりしたい。そんな時はハリウッドのロマコメ映画を観ましょう。たった2時間で胸がキュンキュンできるのはもちろん、 恋愛観や家族観についてもとことん考えられるんです。前回に続きロマコメの魅力を徹底解剖します!
「運命の人」に性別なんて問題じゃない。21世紀のロマンティックコメディ案内vol.3
恋に性別なんていらない。
「男女の友情はあるのか?」論争については、もうひとつの問題点を指摘できます。それは「男と男の友情は存在する」「女と女の友情は存在する」という価値観を無条件に前提にしているところ。この場合、同性愛者はどうなるのでしょうか。続々と作られている同性愛をテーマにしたロマコメを観てみれば、その疑念はさらに深まることでしょう。これまでのロマコメ映画において、同性愛者は主人公たちのよきアドバイザー的な脇役に甘んじていたことを念頭に置くなら、これもまた21世紀的な傾向と言えるかもしれません。
中でも興味深いのは、『マンハッタン恋愛セラピー』です。ヒロインのグレイは、恋人と見紛うほど仲良しな兄と2人暮らしなのですが、さすがにこんな暮らしもまずいかもと兄の恋人探しに公園へ繰り出したその日、ぴったりの女性チャーリーを発見します。以後、あれよあれよと話は進み、兄とチャーリーは出会った次の日に結婚することになるのですが、酔った勢いで戯れにグレイがチャーリーと口づけをしてしまったことで事態は一変、グレイはチャーリーに恋をしてしまいます。グレイは感嘆せずにはいられません。「独身に満足してて恋愛に興味がないのかと思っていた、でもいつか運命の男がさりげなく現れると思っていた、しかし、待っていたのは運命の女だった」と。もう、おわかりですよね。この作品は、同性愛ものと〝脱「シンデレラコンプレックス」もの〟のコンボなのです。けれども、この作品が〝脱「シンデレラコンプレックス」もの〟としては前述2作より一歩先を行っているなと思うのは、結局、グレイはチャーリーとはうまくいかず、もう1人の別の女性といい感じになるという結末を持ってきている点です。その人とは上手くいくかもしれないし、そうじゃないかもしれない。上手くいかなくてまた男性を好きになるかもしれない。いずれにしても、男女問わず好きになった人を好きになればいいし、お望みならそのつど好きになった人を運命の人と勘違いすればいい。『マンハッタン恋愛セラピー』からは、そんなメッセージがひしひしと伝わってきます。
せっかく同性愛ものの話が出たので、男性と男性のロマコメについても触れておきましょう。『バッド・ブロマンス』がそれです。妻子ある中年男性のダニエルは、高校の同窓会実行委員なのですが、どうにも参加者が集まらないのが悩みの種です。そんなある日、テレビを見ていたらCMにクラスメイトのオリヴァーが出ているではありませんか。彼を呼ぶことさえできれば、きっとみんなも来てくれるに違いない。そう考えてオリヴァーの住むロサンゼルスへと向かったダニエルを、予期せぬ事態が襲います。たちまち打ち解けたオリヴァーと、酔った勢いで体の関係を結んでしまうのです。その後、ダニエルはオリヴァーに翻弄されっぱなしになるわけですが、ゲイ映画と言えば主人公カップルは見目麗しい男子たちが演じるというのが不文律である世の中にあって(最近では『君の名前で僕を呼んで』なんかが最たる例)、ダニエルを演じたのはジャック・ブラックです。お世辞にも美しいとはいえません。そんな彼のベッドシーンをきちんと入れてくるあたり、多種多様な恋愛模様を描いてきた21世紀ロマコメの面目躍如たる1作と言えるんじゃないでしょうか。
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文・鍵和田啓介
ライター。「POPEYE」「GINZA」「BRUTUS」など雑誌を中心に活動。著書に「みんなの映画100選」。来春、インディペンデントファッション雑誌「PENDING MAGAZINE」を立ち上げる予定。
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絵・カナイフユキ
イラストレーター、コミック作家。エッセイも交えたzineの創作を行っており、過去3年間のzineをまとめた書籍『LONG WAY HOME』の発売に合わせ、SUNNY BOY BOOKSで個展を開催中(1月10日まで)。fuyukikanai.tumblr.com