22 Mar 2019
どうつながって、どこへ向かう?「六本木クロッシング」に見る、今の日本のアートシーン

「六本木クロッシング」は森美術館が3年に一度開催する、日本の現代アートシーンを総覧する展覧会。6回目の開催となる今回は、1970-80年代生まれを中心とした日本のアーティスト25組が出品している。
展示風景:「六本木クロッシング2019展:つないでみる」森美術館(東京) 撮影:木奥惠三 画像提供:森美術館
テーマは、現代の表現を通して見えてくる「つながり」だ。ネットやSNSによって、シェアが一般化し、同じ趣味のコミュニティが生まれやすくなっている一方で、同じツールが新たな分断や軋轢を生む温床にもなっていることは、誰しもが実感しているはず。
本展は、同時代のアーティストたちが見る、この時代の特徴を、対極のものや異質なもの同士を接続・融合したり、本来あるはずのつながりを可視化することによって、さまざまな「つながり」を提示している。
アンリアレイジ《A LIVE UN LIVE》2019年 展示風景:「六本木クロッシング2019展:つないでみる」森美術館(東京)
展覧会の冒頭は、いわゆる最先端のテクノロジーを使った作品が多い。ご存知アンリアレイジは、東京大学の川原研究室とコラボレーションし、人の体温で形状が変化する新しい服を提案。林千歩は、映像作品《人工的な恋人と本当の愛》で、拙いAIロボットの「社長」と人間の「女生徒」の愛の物語を面白可笑しく描く。映画『ゴースト』のように、イチャイチャしながらろくろを回す二人の様子は、AIというテクノロジーを、愛やエロに接続することで、近い将来を生々しく表現している。
林 千歩《人工的な恋人と本当の愛-Artificial Lover & True Love-》2016/2019年
展示風景:「六本木クロッシング2019展:つないでみる」森美術館(東京) 撮影:木奥惠三 画像提供:森美術館
荒神明香と南川憲二、増山宏文を中心とするアーティストユニット「目」は、巨大な波をそのまま物質的な彫刻にしてしまった。半透明で、青々とした波が部屋を埋めている様子は異様。時がぴたりと止まったような波の姿は、圧倒的な塊としてそこにある。写真がそのまま3Dになったようなこの光景は、見たことのある海のイメージと微妙にずれる。そのズレをピンポイントに刺激してくるこの作品を観ていると、ちょっとした眩暈のような感覚に陥る。
目《景体》2019年 展示風景:「六本木クロッシング2019展:つないでみる」森美術館(東京) 撮影:木奥惠三
津田道子の作品は、モニターや鏡、フレームが置かれた空間の中を、歩いて回りながら鑑賞する作品。鏡に映った像かと思ったら、別の場所を映したモニターの映像だったり、はたまた単なるフレームでその向こうだ見えているだけだったり、なかなか自分が映り込む像を見つけることができない。これまた何か感覚のズレを刺激される感じ。この作品の映り込みのちぐはぐさを面白がって、写真に撮ろうとする人たちも多い。ズレを意識しつつ、記念写真を撮ろうとする人たちの様子もなんとなく不思議な感じで、つい見入ってしまう。そんな楽しみ方?もできる作品だ。
津田道子《王様は他人を記録するが》2019年 Courtesy:TARO NASU, Tokyo
展示風景:「六本木クロッシング2019展:つないでみる」森美術館(東京) 撮影:木奥惠三 画像提供:森美術館
たくさんある作品の中で個人的に一番ヒットしたのが、田村友一郎の作品だった。田村は、テーマとなるものの歴史や記憶を掘り起こし、あるシーンの再現セットのようなものと映像、言葉などを組み合わせて独自のストーリーを展開するアーティスト。今回出品している《MJ》は、マイケル・ジャクソンのこと。映像は、マイケルが来日した時に訪れた、とある児童施設での出来事から始まる。そして、マイケルの発明した「ムーンウォーク」は、人類初の月面着陸につながり、古代神話や旧約聖書にまでつながっていく。小さなきっかけから壮大なテーマへとぐいぐい広げていく手腕はさすが。言葉遊びとも取れるような些細な糸口やきっかけから、人にとっての根源的なアイコンや、ポピュラリティとは何かを考えてしまう。そこで発せられるメッセージは、「テクノロジー」の行く末を強く批評しているように思える。
田村友一郎《MJ》2018年 Courtesy:Yuka Tsuruno Gallery, Tokyo
展示風景:「六本木クロッシング2019展:つないでみる」森美術館(東京) 撮影:木奥惠三 画像提供:森美術館
もちろん、他にもいろいろな作品があって、ここでは紹介しきれない。くすっと笑ってしまったり、考えたり、驚いたり、カラフルに展開する作品は見ごたえ十分。親しみのある身近なテーマを、鋭く、そしてユーモアたっぷりに切り取るこの展示は、自分たちの少し先の「超現実的な」未来を映しているのかもしれない。
【森美術館15周年記念展 六本木クロッシング2019展:つないでみる】
開催期間: 開催中~5月26日(日)(会期中無休)
開館時間: 10:00~22:00(最終入館 21:30)
※火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30)
※ただし4月30日(火)は22:00まで(最終入館 21:30)
※「六本木アートナイト2019」開催に伴い、5月25日(土)は翌朝6:00まで(最終入館 5:30)
料金: 一般 1,800円/学生(高校・大学生)1,200円/子供(4歳~中学生)600円/シニア(65歳以上)1,500円

柴原聡子
建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など