「もうひとつの日常」に出会う、ペインティングめぐり。六本木のギャラリー3つで絵画の展覧会が開催中

「もうひとつの日常」に出会う、ペインティングめぐり。六本木のギャラリー3つで絵画の展覧会が開催中

ご存知のとおり、六本木には現代美術を扱うギャラリーがとても多い。2016年にはcomplex665がオープンし、お隣のピラミデビルとあわせると、けっこうな数になる。ちょうどいまは、見ごたえのあるペインティングの展覧会が重なっていて、一度に何度も美味しいラインナップになっている。

 

村瀬恭子「park」

六本木のギャラリー 村瀬恭子村瀬恭子 「park」展示風景 タカ・イシイギャラリー 東京 Photo: Kenji Takahashi

Complex665にあるタカ・イシイギャラリー 東京では、村瀬恭子「park」展が開催中。ホワイトキューブに並ぶのは、ほとんど同じ構図に見える色違いの大きな絵。中央には沐浴をしているような女性がいる。26年間暮らしたデュッセルドルフから2016年に帰国し、現在は東京で制作をしている村瀬。今回の作品には、環境の変化に反応する自身の感覚が表れている。目の前の光景が一気に鮮明に見えることもあれば、強い光が風景を一瞬にじませることもある。そういう、何気ない日常の中にぽつぽつとある瞬間がぎゅっとつめこまれているような絵だ。

六本木のギャラリー 村瀬恭子
村瀬恭子 「park」展示風景 タカ・イシイギャラリー 東京 Photo: Kenji Takahashi

これまでの彼女の作品は、さまざまな色を使うカラフルな絵が多い印象だったので、単色で描いているのは新鮮に映った。それでも、表面の質感の違いや緻密な描き分けにより、絵を見ているというより、自分の皮膚で感じているような感覚におちいる。村瀬のこの詩のようなコメントを読むと、絵から受けた皮膚感覚はより強いものとなった。

新しい街の庭園に何度か通う、一度目は母と、、。
ゆっくり前を歩くその背に揺れる木漏れ日を目で追いながら。
大雪の後また出かけたら草木の息吹がすっかり消えていた。
白い塊が網膜に飛び込んですべてが平たくなって、
奥の向こうまで手が届きそうだ。
夏には気が付かなかった女性がぽつんと座っている。
コンクリートのなだらかな肩で遠くを眺めて。

村瀬恭子

 

村瀬恭子「park」
会期: 開催中~2月16日(土)
開場時間: 11:00 – 19:00
定休日: 日・月・祝
会場: タカ・イシイギャラリー 東京
住所: 東京都港区六本木6-5-24 3F

 

落合多武「旅行程、ノン?」

六本木のギャラリー 落合多武
落合多武《august》, 2018, oil on canvas. 193.2 x 131.3 cm, Photo by Kenji Takahashi
©Tam Ochiai , Courtesy of Tomio Koyama Gallery

階下の小山登美夫ギャラリーでは、落合多武の展覧会が開催中。落合もやはり日常を作品の大きなヒントにしている作家だ。国内では久しぶりとなる個展のテーマは、旅。1年12ヶ月分、それぞれ1ヶ月ずつ、異なる背景の色と共に、世界中の国に実際にあるその月の休日、祝日の名称が都市名と共に描かれている。つまり、その休日、祝日にあわせてその世界中の都市を旅するという「旅行程」となっているのだ。画面にはある色と、都市の名前と休日の名前しかなく、ビジュアル的な要素はない。でも、だからこそ、各地の休日を、鑑賞者は同時に想像することになる。落合の作品は、そういうちょっとしたアイデアによって、日々がぐっと色鮮やかにある仕掛けに満ちている。言葉がきっかけとなって、各国の休日は、祝うものもさまざま。宗教、そして独立記念日といった、休日の根っこにある歴史へと、考えはめぐりめぐっていく。

六本木のギャラリー 落合多武
Installation view from “Itinerary, non?” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2019
©Tam Ochiai photo by Kenji Takahashi

 

落合多武「旅行程、ノン?」
会期: 開催中~2月9日 (土)
開場時間: 11:00-19:00
定休日: 月曜
会場: 小山登美夫ギャラリー
住所: 東京都港区六本木6-5-24 complex665ビル2F

 

クリス・ヒュン・シンカン「陽の当たる日常」

六本木のギャラリー クリス・ヒュン・シンカン「陽の当たる日常」
Balltsz and Joel, 2018, oil on canvas, 150 x 200 cm © Chris Huen Sin-Kan Courtesy of Ota Fine Arts

移動してピラミドビルへ。オオタファインアーツでは、香港のアーティスト、クリス・ヒュン・シンカンの日本初となる個展「陽のあたる日常」が開催中。「見る」ことで人はどのように物事を理解するかに注目し、記憶を頼りに描くというヒュン。だからか、家族や身の回りの風景といったモチーフも、なんとなくおぼろげ。それは、記憶の中でいろいろなものが混じり合っていった脳内の光景みたいだ。今展で展示される作品では、青や茶色、黒といった色が加えられ、まるで一日の移ろいを表したような光のコントラストが描き出されている。

今回の3つの展示は、どれも日常や誰にもなじみ深いものや風景を描いている。けれど、画面に表れるものは三者三様。奇しくもモチーフが近いところにあるぶん、ありふれたものをこんなにも自由に表現できるのかというレンジの広さや豊かさを感じることができた。点数は少なくとも、作品ひとつひとつの向こうに、別の日常が広がっているからボリュームはたっぷり。六本木の街角で、“もうひとつの日常”を体験してみてほしい。

 

クリス・ヒュン・シンカン「陽の当たる日常」
会期:  開催中~3月9日(土)
開場時間: 11:00-19:00
定休日: 日・月・祝
会場: オオタファインアーツ
住所: 東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル 3F

柴原聡子

建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など

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