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韓国のアップカミングなエリア、厚岩洞。3人の若手アーティストがいる風景

韓国のアップカミングなエリア、厚岩洞。3人の若手アーティストがいる風景

ソウルの街の動きは面白い。日本人でも聞き馴染みのある弘大のような繁華街に人が集まると地価が上がって、最近は周辺の延禧洞・延南洞、望遠エリアに若者がカフェやショップをオープンして、ホットなスポットとなっている。他にも工場地帯をリノベーションして新しい街に生まれ変わりつつある文来洞や聖水洞のようなエリアなど、都市の再開発にしたがって街がめまぐるしく変化し、それと共に地域ごとに文化が生まれています。アートにおいてもそういった街の変化が影響しているらしく、元々アートの街と呼ばれていた弘大から若いアーティストが新しい街を求めて動きつつあるといいます。今回はソウルタワーのある南山のふもと、緑豊かな厚岩洞にアトリエTiger Officeを構え、この土地に新たな芽吹きを与えた3人の若手アーティストに話を聞きました。

デジタル化時代のピクセル愛
ジョ・ジェボム

アーティストのジョ・ジェボムさんの作るアニメーションは、なんだか切ない。私達が幼少期にTVモニターに向かってゲームをしていたときの、心地よい孤独を思い出させる。ここに居るのに、どこにも居ない。あの懐かしく不思議な感覚を追体験できるような作品はどのように生まれたのだろうか?

 

−−ピクセルアートを始めたきっかけは?

ジェボム:以前はアニメーション会社に勤めていました。組織の中ではひたすらに正確に上手に描くという事を続けていましたが、その中で自分の持ち味が何なのか悩みました。そんな時に幼い頃から任天堂のゲームやレゴに触れてきた世代なので、そのイメージで知り合いをキャラクター化してピクセルで描いた作品をSNSに載せてみたら、どんどん拡散されるようになったんです。

 

−−これはどうやって作ったんですか?

ジェボム:ピクセルのようにひたすら一針一針刺繍したんです。(笑)「ピクセルアート=ゲーム」のイメージから逸脱させたくて、他にもブロックやタイルなどの変わった素材で作品を作りました。こういった制作を見て企業からオファーが来るように。映像制作の経験もあるのでミュージックビデオなど様々な見せ方に展開していきました。

 

−−実写とピクセルを組み合わせたLEE HIさんのMVが印象的でした。

“손잡아 줘요 (HOLD MY HAND)”  – LEE HI

 

ジェボム:MVの製作時に背景映像の参考として制作した映像のアザーもYouTubeで公開してます。360度アニメーションになっているので、携帯画面を動かして見てください。ここは景福宮というソウルにある古宮ですが、こうやって背景のイメージを膨らませながら制作しました。

 

Silent Palace

 

−−オリジナルのゲームキャラクターがソウルを冒険する本も作られてますね。

ジェボム:ゲームの世界だけでなく、現実の風景をピクセルで描いてみようと思いました。この作品は実際にある世界を描いていますが、ピクセルで描くことでまるでパラレルワールドのように違う世界観になるんです。絵を見れば誰もが「あ、これは市庁だ。私も行ったことがある。」と分かるような場所を描くことによって仮想と現実が繋がっている面白み。あたかも別の世界があるような、ピクセルならではの仮想世界を作ってみたかったんです。

 

ジェボムさんがピクセルアートをするきっかけとなった似顔絵を描くパフォーマンスを実際にやってもらった。描いてる似顔絵の行程が80年代当時のテレビに映し出され、描き終わるとステッカーとして出力される。レトロなブラウン管を使いつつも、ただ紙に書くのではないハイテクな似顔絵の提供方法にビックリ!

ジョ・ジェボム
ピクセルアーティスト
joojaebum.com
instagram @joojaebum

都市で生まれ育ったからこその「自然」
ヨン・サルグ

イラストレーターでガラス工芸作家でもあるヨン・サルグの作品は、ナチュラルで、叙情的。柔らかくささやかなムードが特徴だ。

 

−−どのような作品を制作していますか?

サルグ:元々は趣味で描きたい絵を描いてましたが、ありがたい事に私の絵を気に入ってくださる方に声をかけられて、だんだんと展示会などで発表するようになりました。シーズンによっては、窯のアトリエでグラスマグや陶磁の小さなリビングオブジェなどの商品を制作していますが、仕事としてだけではなく趣味としてもゆっくりと制作を続けています。あとは、子供が好きなので、並行して子供向けの美術教室も行っていますね。

 

−−モチーフに女性や花、動物が多い理由は何ですか?

サルグ:絵は元々ただ好きで描いてきたものなので、モチーフも自然と好きなものに基づいたものが多いですね。好きで描き続けてきたものを見て自然とコラボレーションなどの仕事のオファーが入ってくるようになったので、そういった商品制作など商業的な制作の場合でも元々の個人制作と変わらない絵のスタイルやモチーフで制作を続ける事が出来てます。

 

 

−−製作のインスピレーションはどのようなものでしょうか?

サルグ:10代の時に触れた音楽、舞台、文学、映画、ファッションやモデル、それから自分のライフスタイルにまつまるありとあらゆる物が今の私の感じ方、考え方を構成しているように思えます。

あとは最近都市で生まれ育ったからこそ、「自然」についてもよく考えるようになりました。「自然」と言っても、都市に存在している自然というのは人間に手をつけられた不自然な状態と言えますよね。この状況をとても不憫に思うんです。当たり前のように都会のあちこちで見られる都市開発の為の工事現場から生まれる大気粉塵などの環境汚染。こういった人間の行いのせいで土地や巣を失い苦しむ動物たち。このような自然の痛みは、ソウルだけではなく、あちこちの都市に存在していて、そんな中で今は描く事しかできないとしても、自分ができることは何だろうと考えるようになりました。なのでこういった部分もある意味私の制作活動に影響を与えているものだと言えますね。

ペインター、陶芸家
ヨン・サルグ
instagram @1225y

都市に登り描く「シティートレッキング」
ソル・ドンジュ

ドローイング作家のソル・ドンジュが描き出す都市の風景は、精巧で思わず見入ってしまうような密度がある。都市の混沌や人々の動きを一枚に収めたドローイングが生まれたきっかけと、その制作方法を聞いた。

 

−−このスタイルになったきっかけはなんですか?

ドンジュ:元々3Dアニメーションを制作していました。アニメーターの仕事はPCモニタに向かって、ひたすらにマウスを動かす仕事。「あ~絵が描きたい!」と一念発起して会社を辞めて、1年間オーストラリアの道端でイラストを描いて生活しました。モレスキンのノートにペンで描き始めたのが今のスタイルの始まりです。その時描いたノートの写真を撮ってインスタグラムに載せると好評で、その後も旅行を続けながら「シティートレッキング」と題し、都市の風景を描き続けました。写真は旅行に行く時に簡単に沢山撮れるので、記憶に残りにくいんですが、絵にするともっと強く自分の中に残るんですよ。

−−こういった風景画はどのように描いているのでしょう?

ドンジュ:下書き無しでペンで一発で書いていきます。なぜ鉛筆を使わないかというと、滞在時間が限られた旅行の中で書いているのでスピードが大切。鉛筆でスケッチして消して…という時間がないので、最大2時間です。いつの間にかこれが一つのスタイルにもなってきて、最近は絵を描いている風景をタイムラプス動画で撮ったりもしています。

 

−−絵を描く場所はどのように選んでいるんですか?

ドンジュ:自分が見て面白いと思ったものを選んでいます。例えば日本でいうとスクランブル交差点で人々が1列に並んでて、皆がマスクをしている姿。日本人の方には見慣れた風景かもしれませんが、こういう瞬間も私からすると面白く感じます。他にもいわゆる観光名所じゃなくて工事現場とか。自分がどういうのを見てどういうのを面白いと思ったのか、お見せたいという気持ちで描いてます。次はニューヨークに1ヶ月間シティートレッキングをする予定です。

ドローイングアーティスト
ソル・ドンジュ
seoldongju.com
instagram @skinheduck

 


 

全く異なるスタイルの3人が集まるアトリエは、それぞれの個性がぶつかり合うように壁に多くの作品が飾られていた。それぞれが全く違う作風だからこそ、一つの空間に融合している面白さを感じる。

−−ジェボムさんとドンジュさんは元々アニメーターとのことですが、どのように出会ったのでしょうか。

ジェボム:私たちは違う会社でしたが、お互いにアニメーションの仕事をしていたので、共通の知人も多く自然と繋がりました。自然と「アトリエ作ろうと思うんだけど一人で作ると高いから一緒にやる?」という感じで、サルグとドンジュと一つの空間をシェアしていこうという話になりました。一人で作業すれば退屈だけど、一緒にいれば助け合えるし、一緒に何かを感じたりするのは良いものです。

ドンジュ:自然に集まったけど、席だけ見ても明らかに3人のカラーがそれぞれ違っていますよね。それぞれの趣向がよくわかる。(笑)だからより面白いです。

 

−−なぜこの場所を選んだのでしょうか?

ジェボム:韓国でアーティストのアトリエといえば上水、弘大にとても多いですが、家賃がものすごく高いんです。私は南山に長く住んでいたし、近くの明洞にあるアニメーションセンターという場所で長い間働いていたのでこの周辺をよく知っていました。ソウル駅なので交通の便もいいし。

ドンジュ:ちなみにここは元々倉庫でした。 浄水機の会社の事務所だったのですが、事務所というより物を置いている物置のような場所でした。

ジェボム:なので最初は自分達で1から壁をペイントをして、掃除もして大変でした…。でも、結果として少しづつ話題になったんですよ、アーティスト達がこの辺に集まってるみたいだぞって。そのせいかこの近辺に少しづつアトリエが集まってきてるみたいです。

サルグ:最初本当に大変だったけど、だからこそ記憶にたくさん残っていますね。

 

−−アトリエまで向かう道もすごく良かったです。南山タワーに向かって歩いていく感じ。

ドンジュ:日本人の方々にもこの街の雰囲気はよく好まれます。丘を越えたら経理団通りというカフェや飲食店の集まる地域があって、そこまで足を伸ばせば人が多いですが、この辺りはまだ人が少なくて静かで気に入っています。

サルグ:南山が好きで。いつも南山が見えて、遊歩道を散策することができることが一番幸せです。最近は近所に新しいお店やオフィスが出来始めていますが、まだまだソウルの昔懐かしい雰囲気が残っています。

ジェボム:アトリエを構えて1年過ぎたのですが、こうやって人に会う時も、私が知ってる人だけでなく、他の二人の知り合いも集まるようになって、お互いが知らない人に会うきっかけにもなるし、良い部分が大きいですね。

Interview&Text: Mannalo Magazine(erinam)

Erinam
韓国在住。雑誌社でグラフィックデザイナーとして働く傍、韓国カルチャー関連のライティング・コーディネートなど。
ソウルの今気になる人に会いにいくMannalo Magazineの製作を始めました。
instagram @i.mannalo.you @mannalo_magazine

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