27 Jan 2017
フローリスト・越智 康貴の”花咲くかげに” 02 – ブーケのように香りが開いていく〈セルジュ・ルタンス〉の香水

花の仕事をしていると、小さな驚きや発見がいくつもあって、季節や気持ちに敏感になる。この連載は、そのきらめきやインスピレーション、自分を取り巻く素敵な出来事を、言葉や写真で書き出す様な、そういうもの。ベッドで眠る前の3分間に。(photograph by Shun Wakui)
数年前、恋人の様な関係だった人に、身につけている香水の銘柄は人に教えてはいけない、と習った。理由はいまいち覚えていないけれど、印象的な一言だった。
誰もが香水に関するエピソードをひとつくらいは持っているんじゃないかと思う。香り、と聞くと、つい記憶との連鎖を思い浮かべる。
記憶……、そう。自身を取り巻くコミュニティの中で、どういう役割を演じるか、という時に、香水は非常に重要な助言をくれる。
花を扱う時には、花そのものの香りがぼやけるので、香水はあまりつけない。けれど毎日持ち歩いていて、自分の印象を強調したい時や、眠る前や、好きな人を迎えにいく時にサッとつける。忘
れてくると、ひどくそわそわする、心の鎧のようなもの。
セルジュ・ルタンスのローセルジュルタンスは、瑞々しく透き通った、軽く心地の良い香り。なのに、付けるとハッキリと感じさせる芯の強さが、かなり気持ちいい。
ローセルジュルタンスの“ロー”は、水という意味。澄み切った空気や水の気配、そよ風のような香り。
リーフレットには、
“このクリエーションは、過剰な香水の匂いに満ち溢れたこの世界に対する反発です。
人々にとって香りは魅了するものではなく、本来の意味を忘れ去られた儀式と成り果てています。L’EAU SERGE RUTENSは、世を支配する作為的な香りと一線を画し、「清潔さ」を守ろうとする至上の精気体(エーテル)なのです。”
という強い書き出しがあった。
ベッドに入る前に少しつけて、一日をリセットする。
爽やかなアクアノートを感じながら眠り、起きる頃には、かすかに柔らかいマグノリアの花の香りが残っている。
次々と香りが開いていく香水は、複雑に組み合わされたブーケそのもの。SNS全盛の2010年代オープン&シェア文化の中、体験した人にしかわからない、クローズな感動や心の安らぎを、確かに感じる。
画面から香りをスパイするのは、とても困難なこと。
ローセルジュルタンス オードパルファム
税抜 13,000円 100ml
税抜 8,000円 50ml
問い合わせ;
東京ミッドタウン イセタンサローネ
03-6434-7975
涌井 駿
写真家。いま一番行きたい場所は中国のハイラル。
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フローリスト・越智 康貴の”花咲くかげに” 01 センスというものを与えてくれる 〈MA déshabillé〉のパジャマ