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小林武史さんに聞く〝切なさ〟と音楽 3.季節は移ろい水は流れる

小林武史さんに聞く〝切なさ〟と音楽 3.季節は移ろい水は流れる

夏の夕暮れは、他のどの季節よりも切ない顔をしている。この感傷を紐解きたくて、音楽によって日本のド真ん中に〝切なさ〟を届け続けてきた小林武史さんを訪ねた。


〝季節は移ろい水は流れる〟

「これは座右の銘というわけではないんだけど、よく〝水が流れるが如し〟って言葉を思い浮かべています。最近仕事をしたSEKAI NO OWARIにしてもback numberにしても、彼らはやろうとしていることに強い想いがあるんだけど、曲が生まれた段階ではまだ、それが何かはっきりわかっていなくて迷っている。僕はその曲の魂をすくいとって、その魂に一番フィットする方法で水を流れやすくするのが仕事というか。『そこはやっぱり水しぶきが来た方がいいだろう』とか『あれ、ここで流れ止まったの?』とか。一瞬ドキッとするような音の起伏をつける作業や、グラデーションで色づけをしていくような作業を経て、最終的には、それをあたかも必然かのように仕上げることですかね。無理やりよく見せようとしているものに対して、人は感動しないから」

湿気と切ないメロディの関係を紐解いていくと、〝切なさ〟を作る過程で小林さんの思考の中にも、水のイメージが存在していたのだ。

最後に、ご本人がどんな時に〝切なさ〟を感じるのか、お聞きしてみた。

「もう30年くらいダイビングを続けているんだけど、陽が沈む少し前の海に潜っている時間って、切ないんですよね。夕暮れだから海の色も少し色褪せていて。水にスーッと深く潜った時の、あの無重力状態は宇宙体験みたいなものなんです。僕が生まれるずっと前からあった海にお邪魔して、そこに泳いでいる魚たちを見ると、海の中では数え切れない命が入れ替わっているんだと感じます。音楽もそうなんだけど、大きく見ていくと、最終的には〝循環〟に向かっているのかもしれません。日本ってほら、海に囲まれているでしょ。だから僕たちは、常に水がそばにある。たとえば、カンカン照りの日に突然の夕立ちが降り出す。台所で蛇口をひねる。コップに水を注ぐ。汗かいた女の子がサイダーを飲む。なんでもいいんだけど、特に夏って、水の音が存在しますよね。水のような流動性と、四季の移ろいを感じられる日本、それに心動かされてしまう日本人の感性は、大きな財産だと思っています。旬の食べ物を目の前に、『今年も食べ納めだね』なんて言うのは日本人だけですよね。欧米のように、言うべきことをストレートに伝える感覚とは違い、名残とか余韻に浸ることができる。だから僕たちは〝切なさ〟を楽しめるのではないでしょうか」

 

 

小林武史 Takeshi Kobayashi

80年代より数多くのアーティストの音楽プロデュースや映画音楽を手がける。2003年にMr.Childrenの桜井和寿氏、音楽家・坂本龍一氏と非営利団体「ap bank」を設立。自然エネルギーや食の循環を目指す活動を行う。

Photo: Yoshiyuki Okuyama Model: Yui Sakuma Styling: Haruhisa Shirayama Make-up: Mihoko Fujiwara(LUCK HAIR) Text&edit: Satoko Muroga Cooperation: Spinninggarage

GINZA2018年8月号掲載

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