02 Sep 2016
ちょっと普通とは変わった音楽の話 音楽家・蓮沼執太 「何にも似てない、滋養豊かな音世界」

音楽ってたくさんあるのでみなさんいろんなやつを聴いてると思いますけど、もう夏も終わったことだし、ちょっと普通とは変わった音楽の話をしましょうか。
この前ツイッターで
57本人@biftech
https://twitter.com/biftech/status/767038271520026624
っていう話がありました。
Facebookでアメリカのそれぞれの大学の学生が「お気に入り」にしているミュージシャンの上位10位をピックアップし、それぞれの大学の偏差値ごとにマッピングした図です。これによるとおしなべてビヨンセを聴いている人は偏差値が低く、ベートーベンやスフィアン・スティーブンスを聴いている人は偏差値が高い(その下のカウンティング・クローズというのは無視してください)。スフィアン・スティーブンスというのはアメリカのシンガー・ソングライターで、多様な音楽的要素をもとに生み出す暖かく緻密なフォークサウンドで知的な層に人気が高い人です。
偏差値の高い音楽…。日本でそんな知的な音楽を作ってるのはどんな人かしら?とお思いの貴女。そんなあなたのために今日ご紹介するのは、蓮沼執太さんというミュージシャンです。蓮沼さんの作る音楽は、知的ですがスノッブな冷たさとは無縁。豊かであたたかく、まるで滋養のあるスープのように染みこんでくる音です。
蓮沼さんは1983年東京生まれ。GINZA読者には『H BEAUTY&YOUTH Special Movie produced by GINZAMAGAZINE』で見たことがある人もいるかも。
Shuta Hasunuma “Raw Town” (Official Music Video)
AppleMusicに「はじめての蓮沼執太」があるので聴きながらこちらを読んでいただくのもナイス。
今年リリースしたアルバム『メロディーズ』には美メロと緻密なサウンドのポップスが揃い、いまもっともネクスト星野源と言われているといないとかという蓮沼さんの活動はかなり幅広く、ソロのミュージシャンとしての活動から、15人のオーケストラ編成の蓮沼フィル名義の活動も。プロデューサーとして楽曲を提供&プロデュースしたり、CM音楽を手がけたり。
15人編成の「蓮沼執太フィル」
タイの音楽フェスティバル<Big Mountain Music Festival>出演時
またコラボレーションの相手は演劇やダンスのための音楽からTARO HORIUCHIらのファッションブランド、映画のためのサントラ、小説の朗読、現代美術などなどあらゆる表現にまたがります。発表の機会もCDのリリースから商業ビルのためのBGMや美術館でのパフォーマンスなど場所と時間を選びません。
さらにステージで風船を割っちゃったりして
ビルボード東京でのライブ映像
それらの音楽に共通しているのは、質の高いアレンジメントと、一度聴いたら忘れらないポップなメロディが両立した、とても豊かな音楽性。現代音楽や環境音楽、エレクトロニカなどの実験的でアカデミックな要素が、ソウルやヒップホップなど理屈じゃなく気持ち良い音楽のなかに溶け込んでいるので、聴いていてとても心地がいいんです。こんなリストに入れられてたりして。
料理がおいしくなるメロウj-pop(Googlr Play Music)
【通勤・通学用BGM】憂鬱な朝を楽しくしてくれるソング集(commuter time song)
こうして見るだけでもえらい幅広い蓮沼さんの活動ですが、実は音楽だけにとどまらず、全国各地の美術館で個展を開くなど、現代美術作家としても活躍しています。
青森公立大学国際芸術センター青森[ACAC]で開催された個展 蓮沼執太「作曲的|compositions: space, time and architecture」
それほどまでに幅広い活動が可能になるのはなぜか?それは、蓮沼さんの活動が「音を表現する」というもとに行われていることだから。最初に蓮沼さんが音楽を作ろうと思ったのは大学生の頃。普通であれば楽器や音楽ソフトを買って音楽を作りはじめるものですが、蓮沼さんは街に出て世界の音を録音する「フィールド・レコーディング」を行ったのだそう。
蓮沼さん(iPhoneチェック中)
蓮沼さんにとって音楽とは楽器から出た音がCDに収まっているものというものにとどまらない、もっと広いものであり、「音」の可能性をとても大きくとらえ、ひろがっていくもの。おそろしく幅広いジャンルの音楽を深く聴くマニア的な知識がありつつ、さらに「音」そのものに対する興味から、多方面からのアプローチが行われる。それがものすごく様々な要素を含んでいて、だから聴いていると豊かな気持ちになれるのかもしれません。
1つのコンサート、2つのライブ、1つの個展
今月、そんな蓮沼さんの多方面の活動を見ることができるイベントがいろいろ開催されます。オーケストラとの共演からライブハウスでの公演、現代美術の個展などなど、ぜひ訪れて、音というものの可能性の豊かさに触れてみてください。
1.京都のクロスジャンル音楽フェス「OKAZAKI LOOPS」
京都で開催される『OKAZAKI LOOPS』に参加。9月3日(土)は、南米チリの砂漠に建設された「アルマ望遠鏡」がとらえた”死にゆく星”のデータから作った楽曲を京都市交響楽団とオーケストラ・アレンジで演奏。9月4日(日)には 電子音楽のみのパフォーマンス『岡崎アンビエント』を行うそうです。
・OKAZAKI LOOPS
日時:9月3日(土) 16:00開演(15:00開場) / 17:30終演予定
9月4日(日) 13:00開演(12:00開場) / 14:30終演予定
会場 :みやこめっせ3階 第3展示場
・岡崎アンビエント
日程:9月4日(日)
時間:18:30開演(18:00開場)
会場:ロームシアター京都 ノースホール
- 渋谷の新ランドマークでのソロライブ
9月6日(火)には、シネマライズ跡にできた渋谷WWW Xのオープニングイヴェントとして、ライブ「活動10周年記念公演 蓮沼 X 執太」を開催。音楽活動10周年記念ということで、約20名のゲストとともに10年間に渡る歴史で作られた楽曲が演奏されるそう。
・活動10周年記念公演 蓮沼 X 執太
日程:9月6日(火)
時間:18時開場、19時開演
会場:渋谷WWW X(元:シネマライズ)
http://www.shutahasunuma.com/performance/3145/
3.スパイラルで大規模個展
東京での大規模な個展『作曲的|compositions : rhythm』をスパイラルガーデンにて開催。作曲の手法を展開したインスタレーション作品を展示。会期中にもダンス公演やアーティストトークなども。
・蓮沼執太展『作曲的|compositions : rhythm』
会期 2016年9月27日(火) ~2016年10月5日(水)
時間 11:00~20:00
会場:スパイラルガーデン
http://www.shutahasunuma.com/compositions/
【ほかおすすめ】
染谷将太さん主演の映画『5windows』の音楽
アニメーション作家、水尻自子さんの音楽
蓮沼執太 Shuta Hasunuma / Hello Everything(2012)
環ROY / YES
坂本美雨「Waving Flags」
MUJI無印良品: MUJI to GO
齋藤あきこ
宮城県出身。図書館司書を志していたが、“これからはインターネットが来る”と神の啓示を受けて上京。青山ブックセンター六本木店書店員などを経て現在フリーランスのライター/エディター。Webコロカル、雑誌Switch、Popeyeに寄稿、GINZAにて連載中。http://twitter.com/akiko_saito
Text:Akiko Saito
photo:Takehiro Goto
2016年9月号掲載