平松洋子さんの銀座の小さな物語 「長く続けるとはどういうことか?」を学ぶ街

平松洋子さんの銀座の小さな物語 「長く続けるとはどういうことか?」を学ぶ街

表通りのキラキラ、裏通りのひっそりしたところ。歩けば誰しもが主役になれるこの街では、それぞれに小さな物語がある。7人のレディが綴る、銀座の街の素敵な素敵なおはなし。

銀座の質の良さを下支えする、裏通りの店々。

昔、今は〈バーニーズ ニューヨーク〉が建っているあたりに、日暮れどきになると屋台の花屋さんが、もうちょっと夜がふけると磯辺焼き屋さんが、それぞれ屋台を出していたんです。きっとバーやクラブに行くお父さんたちが買っていたんでしょうね。90年代の最初の頃くらいまでは残っていたと思いますが、他の街では見ない風景だったからか、銀座というとなぜかそれを思い出すんです。それを目にしたとき、きらびやかな表通りからではわからない表情があるんだな、こういう街にも仕事をしたり住んでいたりする人たちがいてその人たちの暮らしがあるんだなと気付かされたのを覚えています。

しかも、そういう裏通りのお店が、銀座という街の佇まいや質のよさを下支えしていることもあるんです。例えば、「みやざわ」という昔ながらの喫茶店さんがあるんですね。あそこはバーとかから注文が入ると、たまごサンドやかつサンドを自転車で配達してくれるんですよ。ちなみに、まだ黒電話なんですが(笑)。以前、店主にお話をうかがったことがあるんですが、「ゆで卵の殻むきには命を賭けています」とおっしゃっていました。なぜかというと、殻がわずかでも残っていたら舌触りを損なうし、そのバーの信用問題に関わるから。だから、カジュアルなたまごサンドにも細やかな神経が注がれているんです。それを聞いて、ここは銀座だから銀座じゃないとできないサービスを自分たちが保証するんだっていう強い意識があるし、それが仕事のやりがいにもなっているんだなと再認識しました。私がお使いもののときによく使う8丁目の「ピエスモンテ」っていう洋菓子店や、買い物の合間にひと休みする喫茶店「トリコロール」や「銀座ウエスト」なんかにもそれを感じます。どこもそれぞれのスタイルで、こちらには見えないように、銀座でお店を続けるための努力を続けてらっしゃる。

もなかの「空也」のお店のあり方はその究極ですよね。あの質をずっとキープしているというのがまずすばらしいと思います。しかも、お店はほとんど信用商売で成り立っています。なにしろ品物が入った包みをお代を交換するだけで、商品を見ないで買うんですから(笑)。他の街ではなかなか成立しないかも。でも、その商いの仕方を理解さえしていれば、誰にでも売ってくれるし、予約が必要だけれど、必ず信頼したものが手に入る。銀座を象徴するような存在ですよね。銀座って、そういう意識の集合体みたいな街なんだと思います。ここ数年でなくなってしまったお店も多いですが、そういう意識があるお店はやっぱり残っていますし、街の色を作っていますよね。つくづく銀座は、「長く続けるとはどういうことか?」ということについて学ぶことが多い街だなと思います。[談]

ひらまつ・ようこ=1958年、岡山県生まれ。主な著作に『日本のすごい味 おいしさは進化する』『日本のすごい味 土地の記憶を食べる』『彼女の家出』『味なメニュー』などのほか、食を題材にした著書多数。本誌でも「小さな料理  大きな味」を連載中。

Artwork: Marefumi Komura Text: Keisuke Kagiwada

GINZA2018年12月号掲載

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