「あぁ、これが」
何年か前だが、編集者の友人二人が食事中にもかかわらず真剣に考え込んでいた。浦和レッズに所属する山田直輝のボールタッチについて。どうやら、そのボールタッチを表現する言葉が見つからないらしい。〝柔らかい〟とか〝足元に吸いつくような〟という、よく使われる言葉だとなんだかチープに聞こえてしまうし、かといって、直接的な言葉で説明してしまうと繊細さに欠けるような気がする。何かしらの言葉にした途端、それは壊れてしまうかのように。二人が議論を交わしている光景を今でもよく覚えている。それから、僕は山田直輝という選手が気になり始めた。
大原サッカー場の周りは桜が満開で、水を撒いたばかりの芝生からは緑の気持ち良い香りが漂っていた。仲間にボールを求め、山田直輝はがむしゃらにボールを追いかけていた。赤い10番のビブスと、緑と青のスパイクのコントラストがとても鮮やかだった。
彼は自分のボールタッチをどう表現するのだろうか。
「自分がしたいように、思うように。感覚がすべてです」
言葉にするのが難しいことや、できないことには興味を掻き立てられる。
スポーツシーンでしばしば起こりうるそれは、選手の自己表現でもあるからだろうか。
感覚という言葉はどこまでも個人的な解釈で、想像をさらに膨らませることになりそうだ。