写真家 松本昇大が写す、ボルダリング選手 野中生萌

写真家 松本昇大が写す、ボルダリング選手 野中生萌

人工壁にはホールドと呼ばれるカラフルな突起物が散りばめられている。
ジムはまだ営業時間前で、掃除機の音が広い空間のどこかから聞こえていた。

ボルダリングジム

野中生萌は、グリーンのソファに座って話してくれた。
黒髪にホワイトのヘアバンド、ピンクのウインドブレーカーはよく映える。
「登ることは生活の一部だし、自分のことをストイックだとは思わないです。
強くなりたくて、好きでやっていることだから」
彼女が発する言葉の響きが印象的だった。
回り道を嫌うような直線的な音が、ダイレクトに届く。
同じような印象を三年前に初めて彼女を撮った時にも感じた。
まっすぐ自然体にカメラを見ることができる。
これは簡単ではないし、一つの才能だと思う。
意志の強さが彼女自身の佇まいや声とリンクしているかのようだ。

ボルダリング野中生萌

〝いろんな壁を登って欲しい〟
ずいぶん曖昧なリクエストをしてしまったが、彼女は真剣な表情で壁と向き合う。
登る様子を下から見ていると背中の筋肉に目を奪われる。
彼女が手を伸ばすと、筋肉が目を覚ましたかのように隆起してとても素直に動く。
照明が彼女と重なりシルエットに見える一瞬は、ハッとするぐらい綺麗で何度も探してしまう。
こちらが見惚れている間に登りきり、ホールドから手を離して降りてくる。
着地した場所のマットが少しだけ沈み、彼女はまた次の壁に歩き出す。
手を叩いて滑り止めのチョークをはらったり、ときどき小さく口笛の音が聞こえた。

ボルダリング野中生萌
ボルダリング野中生萌
ボルダリング野中生萌

ボルダリング野中生萌
ボルダリング野中生萌
一通り登ってもらったあと、スポンジ・ボブのチョークバッグを撮らせて欲しいとお願いすると、
「シンガポールの友達が作ってくれたものなんです。中にはお気に入りのぬいぐるみも入っていて。
これ、私の手のサイズにピッタリじゃないですか?」
ぬいぐるみを握りながら、笑顔でそう教えてくれた。

ボルダリング野中生萌
ボルダリング チョークバック

ボルダリング チョーク

オフの二日間でディズニーランドと草津温泉に行ったこと。
ピアスとネックレスは登る時にも着けていること。
何か一つを聞いてしまうと、前のめりになってまた違う何かを聞きたくなる。
あらためて、彼女の魅力に引き込まれていることに心地良さを感じていた。
話を聞きながら、シャッターを切りながら、ついつい彼女の未来に期待してしまう。
ボルダリング 野中生萌

Profile

選手
野中生萌 Mihou Nonaka

1997年5月21日生まれ、東京都出身。プロクライマー。16歳でボルダリングワールドカップに初参戦し、19歳で世界ランク2位を獲得。2020年東京オリンピックから競技形式として採用された、スポーツクライミングの史上初の金メダルを目指し奮闘中。

写真・文
松本昇大 Shota Matsumoto

写真家。雑誌や広告などで活躍する一方、スポーツを題材に作品を撮り続け、写真作家としても活動の場を広げている。shotamatsumoto.co

Edit: Ryo Muramatsu

2019年2月号掲載

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