今にも動き出しそうな大きな熊!ステファニー・クエールの作品は、素材である生の粘土をこねた手の痕跡がしっかりと残っているのに、リアルな生々しい動物に見える。
作家の名前を知らなくとも、ドーバー ストリート マーケット ギンザの1階にある象の作品を作った作家だと言えば、みんな思い出せるだろう。
現在、神宮前の「Gallery38」で開催中の個展のテーマは「クマ」。いろいろな大きさ、ポーズのクマが会場のあちこちにいる。入口にいるのは、グリズリーまではいかなくても、かなり大きい等身大のクマ。森でこんなのに出くわしたら、ひとたまりもないな……と想像してしまう。
クエールは、生まれ育ったイギリスのマン島を拠点に、今も制作を続けている。豊かな自然に囲まれた農場で働き、生活しながら、作品を作っているという。彼女の作り出す動物は野性味にあふれていて、動物園にいるのとは全然違う。それらを観ていると、野生や大自然に憧れたり、崇高さを感じたりする気持ちが浮かんでくる。一方で、都会に暮らす私たちの生活では、こういった動物や大自然そのもの触れる機会すらない事実をつきつけられた気分にもなる。なんともアンビバレントな感情が、湧き出てしまうのだ。
クエールのステイトメントには、はるか昔から現在までの、クマと人間の関係が書かれている。古代文明において、クマは人間と共存するとともに、崇拝の対象でもあった。けれど、現代において擬人化されキャラクター化したクマには、荒々しさのかけらもなく、とびきり可愛い存在だ。