13 Jan 2017
本屋「SUNNY BOY BOOKS」の今月の古書 – ちゃめっけたっぷり、ボーイな建築家。ル・コルビュジェ『小さな家』(集文社)

僕の本屋は小さい(5坪)です。狭いといったほうがいいのかもしれません。でも最近はこの小ささを楽しんでいるようなところも少なくありません。本や人の流れを考えて棚を作ったり、手を加えながら3年半でゆっくりと今の形ができてきました。日々空間を自由に整えていけるのはお店をやっているものとして醍醐味のひとつのように思います。
今回取り上げるのはそんな小さな空間を工夫と演出で表情豊かな建築に仕上げた巨匠ル・コルビュジェの『小さな家』(集文社)という一冊。本書は36歳の若きコルビジェが両親のためにスイス・レマン湖畔に建てたその名も「小さな家」(18坪)についての回想録ともいえる内容で、多数収められた写真やデッサン、原書を忠実に再現したレイアウトが見た目にも小さくて可愛い本になっています。
シンプルな表紙デザインとめくりやすいサイズ感。
造本の都合により再現できなかったカバーデザインと扉部分。
コルビジェ本人によるカバーデザインと本文レイアウトだった原書を極力再現した作りになっています。
なにより立地条件や構造、デザイン、窓や庭の役割について、あたかも彼に小さな家を案内してもらっているかのように感じられるのが読んでいて楽しいです。訳のおかげなのか、原文がどうなのかはわかりませんが、その語り口調はちゃめっけたっぷりで、わくわくを隠しきれない少年のように感じられる方も多いはず。とわいえ、この家が出来た年に世界中に注目されるきっかけとなった名著『建築をめざして』が出版されていることからも1923年とはコルビジェの歴史のなかで重要な位置を示していることがわかります。
地下水は生きているのだと力説。言い回しが少年っぽい。
後半はカラーページで本によるデッサンを紹介。
この家に父親は1年しか住めませんでしたが、母親は101歳で他界するまでの36年間を過ごしました。出来た当初は白い壁が自然との不協和との批判があり、そのことは本書の最後で彼自身も触れています。
“ここの町長はある集会をもち、この地に建てられたようなたぐいの建築物は、実のところ“自然に対する冒瀆”に値するのではないかと計った。”
しかし彼は何を言われても屈することなく、自身と出来あがった建物を信じました。今ではこの小さな家はル・コルビュジェの建築作品として世界文化遺産に登録され、ミュージアムとして一般公開されるなど世界の人々に広く受け入れられています。間違った信念はときに凶器にもなりかねませんが、彼がもっていたそれは純粋に良きものを見つめていたことが時間の流れのなかではっきりしたのではないでしょうか。
酒造を照らすための横長の小さな窓と幅広のベンチ。
今回、アートワーク(一番上のビジュアル)で箕輪麻紀子さんがイラストにしてくれた小さな家の写真。
家の外と内との統一感ある流れがストレスのない快適な生活へ繋がっていく――小さいからこそのコンパクトな作りが人と建物の関係をともに長く暮らす方向へと導いていくのだと教えてくれています。限られた空間にどこまで自由な広がりを作れるのか、この小さな本が示すストーリーは限りなく大きなこととして読み手に伝わっていくにちがいありません。
高橋和也 Kazuya Takahashi
SUNNY BOY BOOKS店主。
普段本のない場所を期間限定で本屋にする「本屋の二人」や紙モノの制作部門「SUNNY BOY THINGS」の活動も行う。
http://www.sunnyboybooks.jp/
箕輪麻紀子 / Makiko Minowa (イラストレーター)
広告、書籍、雑誌などで活動する。
http://makikominowa.com/