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松尾スズキ「東京の夫婦」#18

松尾スズキ「東京の夫婦」#18

 

「おかまに行政支援は不要」

最近、高い教育を受けているはずの人間の痛い発言をよく耳にする。

いや、最近ではないな、高い教育を受けている=弱い立場の気持ちがわからない、みたいななんというかもう、高等教育そのものが人間の想像力を奪う構造になっているんじゃないかと思うほど、頭を抱えるようなことを言う人がちょいちょいいて、自分は偏差値の低い大学を出ておいてよかったとすら思えてくる。

冒頭の発言は、新潟県のある市議が、地元のFM放送局でオネエキャラの男性パーソナリティについて「おかまと聞いている。正常な形でない人を行政が支援する必要はないのではないか」と言ったものだ。市の広報番組への制作委託料に関する話なのだが、いろんなことをこの人は間違っている。

まず、市の広報番組を制作委託するためのお金は支援じゃない。対等な取引だし。ましてや、そのオネエキャラの人にすべて支払われるお金じゃないし。おかま=正常な形でない、という紋切り型の表現もどうかと思うし、正常な形でないものには、ギャラなんか払わなくてよいのだ、という根本的で絶対的な差別意識がそこにあるし。

 

アドルフ・ヒットラーのことを少しでも知っていれば、そのような「ノーマルでないもの」に対する差別がファシズムの根幹と大いに関わっていることくらいわかるでしょう。さらに追い打ちをかけるようにこの人は、「自民党公認候補者は、党の『男は男らしく、女は女らしく』という伝統的な価値観を広める立場にある」という暴言まで吐いて言いわけしておるのだ。だとしたら、あのゲイ臭のプンプンしている武藤議員や、岩松了さんそっくりの「やる気 元気 イワキ」の井脇ノブ子さんは、なんで自民党に入れたのかとか。あんなに男らしい女性、そうそう、町で見かけませんが。そもそも、自民党がそんな柔道部みたいな価値観を掲げているの聞いたことないし。多くの自民党員も驚いているでしょうよ。

また、この間は某中学校の校長が、全校集会で「女性にとって最も大切なのは、子供を二人以上産むこと」と発言し、さらに「男女が協力して子供を作るのが社会への恩返し、子供が産めず育てられない人は、その分、施設などに寄付すればいい」などという超差別的なことも主張している。

子供を作れない人こそ、将来、自分の老後の後始末をするとき、お金が必要になるのに。子供がいない老人に対して、行政的にまったく甘くない日本の現状を想像すらできてない。

まあ、力を持っている人が、保守的なことを主張することはわかる。

保守的な姿勢が、最も彼らの既得権益を守るからである。

僕は、心の中に野蛮人を飼っているので(拙著『現代、野蛮人入門』参照)、そういう「○○が○○するのが当たり前」という言葉ですべてを片付ける人たちのものの考え方が大嫌いだ。

この間、九州の姉から荷物が届いた。と、妻から言われた。

「なにが?」離れた場所にいた僕は、電話で聞いた。

「お父さんの、いはい」

「遺灰!? なに、お骨が?」

僕は、気が動転してスマホをとり落としそうになった。

「その遺灰じゃなくて、位牌。お位牌」

「なんだ、焦った」

「位牌でもじゅうぶん焦りますよ。今、気をまぎらわせようとして、huluで『ちびまる子ちゃん』つけっぱなしにしてるんだから」

その位牌には手紙が添えられていた。姉は、死んだ父の位牌を持っていて、「私は松尾家の人間じゃないから、松尾家を継ぐあなたが位牌の面倒を見るのが当たり前だということに気づきました。私がやっていたように、毎日、ご飯をお供えして、線香をあげてください」とのことだった。

相変わらず一方的だ。

位牌の面倒を見ろと言っても、僕は、無宗教だ。自分が死んでも、「遺灰はどこかにいてくれ」ってことで、全然かまわない人間だ。そんな不信心者に位牌の面倒が見られるのか、ってことをまず考えてないし、僕は基本朝と夜は炭水化物をとらないので、そういう人間は、お米を炊かないってことも想像できてないし、そもそも、パン食だったらどうすんだって話だし、「松尾家を継ぐ」と言われても、子供がいない我が家では、継ぎようもないのに。

これは、荷物という名の暴力だ。と、僕は思ったのだった。

ある人にとって当たり前のことが、別の人間には当たり前ではない、ということを想像できない、「だって、当たり前だから」という考え方。僕は、野蛮な行為だと思う。僕の「野蛮」は心の中だけの、人に迷惑をかけない、なんというか野に咲くスミレのようなかわいらしい「野蛮」だが、「当たり前」を人に押し付けるのは、実害の伴う「野蛮」であるから、とうてい容認できない。

押し付けないでほしい。

とにかく僕は、願うのだ。

東京の片隅で、無宗教で、子供を持たないことを選択し、ただひっそりと死んでいこうと決めた夫婦だって、世にはたくさんいるのだ。そこに、良識を押し付けるのは暴力なのだ。前述の市議や校長先生の考え方からしたら、僕ら夫婦は「ほぼ、ゲイ」という生き方になるだろう。

それでもかまわない。

matsuo01

 

 

 

松尾スズキ まつお・すずき

作家・演出家・俳優。作・演出を手がける『ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン』がBunkamuraシアターコクーンにて7月に上演決定!

イラスト・近藤ようこ

GINZA2016年5月号掲載

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