26 May 2019
初めての民藝の古い器、価値あるアイテムを自宅に カルチャー体験vol.3

高尚に思える伝統芸能や教養の世界を知るにはどうしたらいい?それなら「体験」にお金をかけるのもその一歩です!
Q) 民藝の古い器の魅力とは?
A) 現代作家には真似できない、無心の美です。
民藝との付き合い方
1. 実際に使ってこそ生きてくる民藝。
2. 自分の好きな世界に結びつけて集める。
3. 値段が落ち着いてきた今が買うチャンス。
「民藝」という言葉は1925年に思想家の柳宗悦や陶芸家の濱田庄司、河井寛次郎らが造った言葉で、「民衆的工芸」を指します。それまで誰も見向きもしなかった、日々の暮らしに当たり前のように使われている日用品や無名職人が作った工芸品に初めて美を見出したのが、彼らが提唱した民藝運動の始まりです。
長いことこの商売をやってきてひとつだけ確実に言えることは、現代の作家がどれだけ一生懸命修業しても、幕末頃の雑器の良さには勝てないということ。それなりに形は写せるでしょうが、何かが違う。そもそも昔と今では生活様式や材料や職人の意識がまるで違う。昔は日銭を稼ぐために無心で量産したのでしょう。またろくろを回す人、高台を削る人、絵付けする人が別々で分業制でしたから、「自分が作った器だ」という意識さえなく、作家性なんて考えもしなかった。ひたすら必要性に答えるための形や寸法を追求していた。その揺るぎない確かな仕事から生まれた造形には、どうしたって今の作家ものは負けてしまいます。
最近は、実は民藝の古い器の買い時だと思います。20年ぐらい前まではバブル景気もあり、民藝専門の強者マニアがたくさんいたので、値段も法外に高騰しましたが、今はだいぶ落ち着いてきました。それにSNSの発達で、誰もが気軽に瞬時に情報にアクセスできるようになり、古物は一部の好事家だけのものではなくなりました。現代のクラフトブームから民藝に興味を持たれた方には、民藝の古物は高い、と感じるかもしれません。でももう絶対に再現できないものの価値をわかってほしい。それには数を見ること。民藝に親しむには、まずは自分の好きなことと結びつけてみては?お酒が好きな人は最初に猪口、さらに徳利、酒肴の皿と使うシーンを想像して少しずつ手に入れていくと、楽しめるんじゃないでしょうか。民藝の古い器を見ていると、「暮らしの中で使ったらええ」と器に語りかけられているような気がするんです。
はじめに買うならこんな民藝
民藝の世界に浸れる場所
1936年、柳宗悦によって創設された日本他諸外国の民藝品の美術館。柳の蒐集品は1万7000点に及ぶ。「柳の底知れぬ物欲がたまらない」(杉本さん)
日本民藝館
住: 東京都目黒区駒場4-3-33
Tel: 03-3467-4527
時間: 10:00〜17:00
休: 月、年末年始、展示替え期間
料金: ¥1,100
大正〜昭和期の陶芸家で民藝運動にも深く関わった河井寬次郎の住居兼工房。「囲炉裏端に以前あった李朝白磁壺に惚れぼれ」(杉本さん)
河井寬次郎記念館
住所: 京都府京都市東山区五条坂鐘鋳町569
Tel: 075-561-3585
時間: 10:00〜17:00
休: 月、8/11〜8/20頃、12/24〜1/7頃
料金: ¥900
オススメの本&DVD
池田三四郎/用美社/品切れ
「松本民芸家具」の設立者である著者が漆盆、蕎麦猪口、デルフト染付など日本と海外の民藝を見開き1点ずつ写真と短文で紹介。巻頭・巻末の池田の文章も民藝を理解する助けになる。
平安時代中期の歌人、藤原公任が編纂した、和歌と漢詩を織り交ぜた詞華集。すべてふりがな付き、1句ごとに現代語訳が付いているので読みやすい。丸山先生も付箋をたくさんつけて、常に身辺に置いておく組香のためのバイブル。
Profile

杉本 理さん すぎもと・おさむ
1971年京都生まれ。京都寺町二条にある骨董の店「大吉」を継ぐ2代目。高校から7年間をアメリカで過ごす。今年3月には5店舗共同で「民藝」をテーマとした企画を開催。
Photo: Chihiro Oshima, Natsumi Kakuto (Takashimaya, Baikodo, Books) Illustration: Yoshifumi Takeda Text&Edit: Mari Matsubara
GINZA2019年5月号掲載