詩人の脳内に垣間見えた、アートのロマンティックな一面『言語と美術──平出隆と美術家たち』

詩人の脳内に垣間見えた、アートのロマンティックな一面『言語と美術──平出隆と美術家たち』

詩人は当然ながら言葉を使って表現をする。その言葉から広がる豊な世界に触れると、この人たちにはどうやって世の中が見えているのだろうと不思議に思うことがある。たとえ同じもの、場所、ことを体験しても、きっと全然違って見えているんじゃないかと。

国際的ベストセラー小説『猫の客』で知られる詩人、平出隆(1950-)と、彼にまつわる美術作品で構成された一風変わった展覧会が、DIC川村記念美術館で開催されている。
加納光於、河原温、中西夏之、奈良原一高、岡崎和郎、若林奮……。平出はこれまで、さまざまなアーティストたちと対話を重ねてきた。この展覧会は、平出と彼らとの長い歳月を軸に、美術作品に固有の思考や言語に光を当てている。


Photo: Tomoki Imai

まず、驚くのがその会場構成。間仕切り壁で区切るのではなく、部屋の中央に巨大で、しかも透明の梁がどーんと貫いている。緩やかに分けられた空間に、作家の作品が、中央には平出の作品や出版物にかかわる資料などが展示されている。これは、言葉が造形性を伴いながら拡散してゆく平出独自の概念「空中の本」を建築家の青木淳が表現したものだそう。たしかに、それは空中に言葉がひらひらと浮いているようにも見え、とても繊細な印象だ。


Photo: Tomoki Imai

展示されている作品の多くは、そこまで大きくなく、ささやかなものが多い。むしろ、小さなものの中に、壮大に広がる宇宙がつまっているかのような、底知れなさがある。密度の濃い、小さいものがたくさん並んでいるこの空間をふらふらと彷徨ううち、だんだんと詩人の頭の中に入り込んでしまったような気がしてきて、眩暈のような感覚をおぼえた。


平出隆《private print postcard 011-z》1975 年 個人蔵 Photo: Kenji Takahashi

印象的なのが、彼の郵便に抱くロマンだ。架空の国の切手を自ら作り、それを蒐集したアーティスト、ドナルド・エヴァンズ。そして、絵を描いた日付のみを記した「デイト・ペインティング」(《Todayシリーズ》)で世界的な評価を得た河原温の作品に、滞在先から友人たちにあてて絵葉書を送った《I Got Up シリーズ》がある。本展では、この二人の作家の作品が同じ部屋に置かれている。そして、部屋の中央を仕切る線上には、平出自身が実践する郵便物を使った作品《private print postcard シリーズ》が浮いている。


Photo: Tomoki Imai

郵便は、住所を書いただけで世界中どこにでも届く不思議なシステム。切手や消印といった、送られる過程で生まれる風合いには、物質としての手応えがあって、なんとも言えない良さがある。そういえば、たぶん届かないだろうなと思いつつ、インドから日本へ葉書を送り、見事に書いた先に届かなかったことがある。あの葉書たちはどこへ行ったのだろう。別の誰かに間違って届いたのかも。ネットの海に潜り込んで行方知れずになったメールやメッセージよりも、なぜか郵便は想像をたくましくする。
郵便を表現手法に取り入れたアートは、60年代以降さまざまなアーティストによって実践されてきた。けれど、執拗ともとれるこだわりは、通信がむしろ過多になっている今、ものすごくロマンティックな行為に見える。

アートは感じるもの、とはよく言われること。でも、それに触れた感動は言葉を使って他の誰かに伝えられるし、もちろん作られるプロセスには膨大な思考がある。そうやって、言葉を起点にしたアートの豊穣さは、とてつもなく濃かった。そして、その体験を伝えようとして言葉に詰まる自分がいた。言葉と美術の関係の奥深さがそうさせるのか。思考はぐるぐると巡り巡って、どうにも答えは見つかりそうにない。

平出隆 Takashi Hiraide

1950年、福岡県生まれ。一橋大学卒。詩人 ・作家 ・批評家。その詩は散文との重層領分に及び、『胡桃の戦意のために』(芸術選奨文部大臣新人賞)、『左手日記例言』(読売文学賞)、『猫の客』(木山捷平文学賞)、『ベルリンの瞬間』(紀行文学大賞)、『伊良子清白』(芸術選奨文部科学大臣賞 自装で造本装幀コンクール経済産業大臣賞)など多彩。『伊良子清白全集』編纂をふくむ清白関連全業績で藤村記念歴程賞。ドナルド・エヴァンズ、河原温、加納光於とのあいだに成る美術関連書のほか、《via wwalnuts叢書》や《crystal cage叢書》など、造本や装幀の実験的な仕事もある。大江健三郎により「詩の中から新しい散文を生み出す詩人」とされる。98年度ベルリン自由大学客員教授。多摩美術大学図書館長、教授、芸術人類学研究所所員。尚、本展のベースといえる言語や書物についての著作『遊歩のグラフィスム』(岩波書店)『私のティーアガルテン行』(紀伊國屋書店)がある。takashihiraide.com


言語と美術──平出隆と美術家たち
会場: DIC川村記念美術館
会期: 開催中~2019年1月14日(月・祝)
開館時間: 9:30-17:00(入館は16:30まで)
休館日: 月曜(12/24、1/14は開館)、年末年始(12/25(火)-1/1(火))
入館料: 一般1,300円、学生・65歳以上1,100円、小中高600円

柴原聡子

建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など

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