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今だから、小さな変化に敏感になる 「輝板膜タペータム」落合多武展@銀座メゾンエルメス フォーラム

今だから、小さな変化に敏感になる 「輝板膜タペータム」落合多武展@銀座メゾンエルメス フォーラム

《猫彫刻》 ©︎Tam Ochiai 会場にて筆者撮影


自粛が続く日々、旅行やイベントなど非日常が奪われてしばらく経ってしまった。以前だったら毎日まったく変わらない日々としか言えないくらい、ルーティンを続けている気がする。

現在、銀座メゾンエルメス フォーラムで落合多武の個展が開催されている。落合は、ニューヨークを拠点とするアーティスト。彼がずっと続けてきたのは、観客の日常に寄り添うような、一見なんてことない出来事やモノへの眼差しを向けること。この個展でも、その世界観がギャラリー中に展開されている。ただ、今回のこの展示は、これまでとは作品の印象がかなり違って見えた。


《灰皿彫刻》2017 © Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

落合が作品のモチーフや素材にするのは、日用品や蚤の市で売っているようなモノだったり、本の断片だったり、音楽のかけらだったり、私たちが普段手に取り、生活に使っているものと大差がない。そういったなんてことないモノを扱い、少し拙いようにも見える表現方法をとる傾向は、90年代から00年代にかけて美術に登場した。日本では「マイクロポップ」(松井みどり)という概念で語られ、時代の雰囲気を体現していると捉える向きもあった。


《Othello》2020 ©︎Tam Ochiai 会場にて筆者撮影
オセロ盤のように見える板の上に石が並べられている。コロナ禍の2020年夏、作家がメキシコ滞在中に拾ったものだという。

今回、落合の作品世界がこれまでと違って見えたのは、明らかにコロナ禍にある今だからだと思う。自分が、毎日ほぼ同じようなことを繰り返す生活のなかで、いかに細かい微差に楽しみや変化を見出しているのかに気づいたのだ。新作《Othello》について、落合はこう書いている。

「Covid-19渦中の2020年夏、ニューメキシコのタオスにいた。メサ地帯での隔離生活が続き1カ月が過ぎた頃、突然石を拾い始めた、それはメサのような砂漠である程度の時間を過ごしていたら、ごく普通の成り行きに思える、しばらくは純粋な楽しみでただ石を拾っていた。」

たしかに、自分もそんな環境にいたら、石が急に気になり始めるかもしれない。今は、その気持ちもわかる。なんでもなかったことが、突然違うものに見えてくる。日々の暮らしの大切さを思う、とか、一つひとつのことやモノにもこだわりをもって生活する、というのとは少し違う感覚。


《誰もが二つの場所を持つ》 ©︎Tam Ochiai 会場にて筆者撮影

《everyone has two places(誰もが二つの場所を持つ)》という作品は、二つの都市名がキャンバスに書かれている。それは生まれた場所と死ぬ場所を示している。

生きている間じゅう、人々は動き続ける。ただ、今は「動くな」と言われている期間だ。でもまったく動かないわけではなくて、身近な数キロ圏内を移動したりしている。散歩にも行く。飛行機に乗って、バンバン海外と行き来することだけが移動なのではない。それはグラデーション状で、どこからが「止まって」いて、どこからが「動いて」いるかの線引きはできない。


「輝板膜タペータム」落合多武展 展示風景 Photo credit: ©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

こういった微差への感覚は、ものすごい制約を強いられている「今」限定で気づけることなのかもしれない。いつか、以前のような生活が戻り、刺激的な出来事が増えていけば、今の物事を見る解像度も失われてしまうのだろう。それでも、この時間だからこそ浮かび上がってくる感覚を、少しでも残しておけたらと思う。


「輝板膜タペータム」落合多武展 展示風景 Photo credit: ©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

一般の人とは異なる解像度で物事を見つめてきた作家の作品世界によって、コロナ禍での日々が、何か少し昇華されたような気がした。そして、どこか軽やかな気持ちでギャラリーを出て、少し遠回りして帰ることにした。

落合多武 Tam Ochiai

1967年、神奈川県生まれ。ニューヨーク在住。
1967年神奈川県生まれ。現在、ニューヨークを拠点に活動。1990年和光大学卒業後に渡米し、1993年ニュ−ヨーク大学芸術学部大学院修了。「概念としてのドローイング」を主要なテーマとして、ドローイング、立体、映像、パフォーマンス、詩などの多様なメディアを用いた制作活動を行う。それらの作品は、人物や物事に内在する経験を掘り起こし、隠された意味や予期せぬ関係性を見つけ出してゆくだけでなく、詩的な語意が複雑に反響する自在な世界へとつながっている。主な個展に、「旅行程、ノン?」(小山登美夫ギャラリー、東京、2019年)、「Tarragon, Like a Cat’s Belly」(Team Gallery、ニューヨーク、2017年)、「スパイと失敗とその登場について」(ワタリウム美術館、東京、2010年)など。主なグループ展に、「コレクション―現代日本の美意識」(国立国際美術館、大阪、2020年)、「百年の編み手たち-流動する日本の近現代美術-」(東京都現代美術館、東京、2019年)、「ウィンター・ガーデン:日本現代美術におけるマイクロポップ的想像力の展開」(原美術館/ケルン日本文化会館、2009年以降多数巡回)など。

「輝板膜タペータム」落合多武展

会場: 銀座メゾンエルメス フォーラム
住所: 東京都中央区銀座5-4-1
会期: 開催中~4月11日(日)
時間: 11:00~19:00(最終入場18:30)
休館日: 不定休(エルメス銀座店の営業時間に準ずる)
入場無料

※エルメス銀座店の営業時間に準じ、当面の間、開館時間を短縮。
※開館日時は予告なしに変更の可能性があります。

公式HPはこちら

柴原聡子

建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など

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