美術コレクターというと、最近は目が飛び出るような価格で美術品を取引する人たちが浮かぶ。三菱一号館美術館で開催中のフィリップス・コレクション展は、セザンヌ、ドガ、ボナール、ブラック、ピカソ、ゴーガンなどなど、そうそうたるラインナップ。これらの名作を一企業が持っている!?それって総額いくらなんだ……という途方もない気持ちになる。
ところが、展覧会は、コレクション魂とあくなき蒐集への情熱が感じられる、筋の通ったものだった。お金のことなんて1ミリも浮かばない。未来があると信じたアーティストをバックアップする良きパトロンの姿、そして、コレクションを創り出していく気概が感じられる展覧会だ。
マチスの絵画的実験がいろいろ詰まった名作。一緒に行った友人は、「この絵でごはん三杯いける」と言っていた……。アンリ・マティス《サン・ミシェル河岸のアトリエ》1916年 油彩/カンヴァス フィリップス・コレクション蔵 The Phillips Collection
画家はいずれも近代美術をおしすすめた一流揃い。何かの展覧会で一度は目にしたことのあるアーティストばかりだ。でも、ここで見られるのは、おや?と思うちょっとした不思議な作品が多い。例えば、タヒチの絵を多く描いたゴーガンも、ここに展示されているのは巨大なハムの絵だ。静物画の中でも、こんなにハムが堂々と描かれた絵は初めて見た。しかも、脂身のところとかがなんとも美味しそう。ゴーギャンはユーモアでこれを描いた? うーん、とっても気になる。
ポール・ゴーガン《ハム》1889年 油彩/カンヴァス フィリップス・コレクション蔵 The Phillips Collection
冒頭のドガの《稽古をする踊り子》も、よく見ると足がどこから生えてるのかよくわからない。かなりおかしなことになっている。これは、絵画としてのバランスを考えてのことなのか。それとも、後ろと手前の人の足のどちらかわからなくする巧妙な実験なのか。